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CASE 12
しおりを挟む「フラットちゃぁ~ん、一角ウサギの名前って決まったのぉ~」
昼前、客足も途切れてひと段落した店長がしなを作りながら近づいてくる。
「はい、『ほたるいか』に決まりました」
だが、残念。
店長と俺の間にレジカウンターという障害があるのだ。
よって、俺の方まで変態がやってくることはない。
「ちょ、なによそれぇ~。あたしの好きな珍味の名前じゃなぁ~い」
「ですね、だからその名前になりました」
『ほたるいか』北方の海で獲れる魚介類の一つで、一昔前までは船に飛びかかってきてその鋭い先端で穴を開けていく様から害獣扱いだった。
近年になって乱反射する魚に飛びかかっているだけだと分かり、しかも食用に向くことから新しい漁として漁獲高が増えているのだとか。
海沿いの船に長い2本の竹と銀色に輝く網が乗っているのを見かけたら、まず間違いなくほたるいか漁の船だとか。
サラ姉さんに店長の好きなもの、何でもいいから教えてと言われた時
「確か、ほたるいかの剣先干しが好物だとか言ってたなぁ」
その一言で一角ウサギの名前はほたるいかに決定した。
「でもぉ~、その名前を聞くとお酒が飲みたくなってくるわねぇ~。ど~お?フラットちゃん?今晩、私と一緒に飲みに行かなぁ~い?」
「お断りします。どうしてもと言うならサラ姉さんも一緒で」
「むぅ~~~~、つれなぁ~~~~い」
「それより、店長。お客さんも途切れましたし少し早いですが昼食摂ってきますね」
「ちぇ~、分かったわよぉ~」
魔の手を逃れるべく足早に外へ。
「あっ、フラットちゃん。お昼から出かけてくるからぁ、お店の方、よろしくお願いするわぁ~」
「あれっ?今朝はそんな話聞いてませんでしたが、店長はどこかに出かけるんですか?」
「えぇ。その名前を聞いちゃったらつい食べたくなっちゃって。今から獲りに行ってくるわ」
「―――そっすかぁ。獲りに行ってくるんっすねぇ」
買うんじゃなくて獲りにいくのか。
気にしたら負けかな。
「まぁ、気をつけてくださいね。では、お先休憩行きまーす」
「えぇ!フラットちゃんもぉ、お店の方よろしくねぇ~。ンヂュッ」
投げキッスを無視して魔法商店から出る。
「明日のお昼には帰ってくるわぁ~」
そうか、午後と明日の午前は気楽に店番が出来そうだ。
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