卸商が異世界で密貿易をしています。

ITSUKI

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日本と異世界とその周辺

真幸系列店舗拡大 その6

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そして週末の昼頃。

異世界シルイットでの大通りの一角。
青空市が立ち、どこに住んでいるのかと思う位人が溢れる中、小さな小屋小さなテーブルにクリーム色の箱を3つばかし乗せる。

いい匂いが漂い視線を集めるものの、何も販売していない不思議な一角。
準備が整ったのかその店の店主、少女ラッセルが大きな声を張り上げる。

「みなさーん、よってらっしゃーい。目抜き通りで、なんと白砂糖をふんだんに使った果汁ジュースを販売している真幸商会でーす。
明日から店長の故郷の味も皆に知ってもらいたいって事で今までに食べた事のない様な食べ物を販売しまーす!その店長から今日はお披露目として無料タダで皆に味を知って欲しいとの事で、一人一つ、ちょっとずつですがこの場を借りて提供させてもらいまーす。数に限りがありますので気になる方はお早めにん欄でくださーい」

そう叫んでふたを開ける。
作られてから結構時間は経ってしまっているが、それでも箱に閉じ込められていた匂いは強く更に人の目を集めた。

商品を売買する為の市場で無料という言葉に何かあるのでは?と逆に尻ごみする周囲の人々。
そんな中、近くに居た体格のいい男が生贄として選ばれた様でおずおずと前に出る。

「おい、嬢ちゃん。本当にタダなのか?」

「はい、今日だけですけどね。明日以降……とはいっても指定休日の前日前々日の二日間の営業ですが、気に入ってもらえればそこでお求めいただけます」

紙ナプキンに包んで渡したものは唐揚げ、山野飯店1番人気の一品だ。
試食の為今回は半分にしたものを1つ渡す。

「……何の肉だ?」

半分に切られた茶色の塊。
切り口から何かの肉であることからうかがい知れる。
初めて見るその見た目に男がたずねる、危険な物じゃないのか?と。

「鶏っていう家畜の鶏肉らしいです。山鳥と違ってクセも無くて柔らかいですよ。私も食べさせてもらいましたがこんな美味しい鶏肉は初めてでした。………余ったら私たちが貰っていいらしいので食べられないのでしたら私が頂きます」

そこまで言われてはと唐揚げを口の中に放りこむ。
視線が集まる中、一言男が呟いた。

「………うめぇ」

その言葉をきっかけに成り行きを見守っていた人達が一気に詰めよった。

「私にも頂戴!」

「私が先よ!」

「退けやぁババァ共ぉぉぉぉ!」

「きゃあ。って、一人一つずつですって!………こらぁ!守らないならお披露目中止にするぞこるぁ」

百戦錬磨の主婦たちは強かった。
そして、店で暴れる飲んだくれ共を相手していたラッセルも強かった。

ラッセルと主婦たちの闘いは試食分の唐揚げが消え去るまで続くのであった。



時を同じくして大図書館前。

周囲には教育施設や研究施設・製造施設が集まり、防犯上民家はない。
それでも、朝昼夕の1日3回は通りに人が溢れ、彼等の腹を満たすべく簡易な屋台が立ち並ぶ。
その屋台の一角にデライトはいた。

目的はラッセルと同じく新商品のお披露目だ。
この場で提供している物はスティックタイプのドーナツ。
数を用意する為プレーンのままである。

こちらも一口サイズに切り分けられ紙ナプキンに包まれていた。

デライトは考える。
確かに店主のハヤトからはこれは『試食』というもので、無料で振る舞っていいと言われている。
しかしだ。
学生は一部を除き裕福な者か身分を持つ者がほとんどだ。
職人の施設は省くが研究施設も同様だ。

そのような人達が『無料』という言葉に惹かれて集まるかといわれるとNoである。
それが、高価な白砂糖を使ったり油で揚げたりという珍しい食べ物であっても、だ。

身分であれ金であれそういう立場だからこそ集まるし畏まられる。
故に自分も含め小さな頃からきちんとした教育がなされているのだ。

上の立場の者が無料で食べ物を貰ったなんて話が出回ったら……、その影響デメリットは計り知れない。

【白砂糖・植物の油を用いた異国の食べ物のお披露目です。お披露目の為一人3つまで、1個銅貨10枚にて販売します。店主の意向で今回の売り上げは全て孤児院に寄付させていただきます】

店長に貰ったノートを1枚破いて入り口に貼り付ける。
小銭を入れる箱は無かったのでドーナツを別の2箱に詰め込んで無理矢理に確保した。

「3つお願いします」

「1つ貰うわよ」

「2つ買おう」

召使いの者や昼飯を求めに来た学生たちがちょくちょく買いに来る。
市場程の混雑はないものの、白砂糖や植物の油という触れ込みに惹かれ一つ二つ手を出す者は少なくない。

評判が広まったのか後半は召使いの購入が多かった。

そして、ちょくちょく聞かれるのが

「次はいつ販売されるのでしょうか?」

「我が家に定期配達してもらうことはできませんか?」

「家の者にも土産に持たせたいと申しつけられたのですが……」

等々数不足や再販を求める声だった。
最初のうちは

「目抜き通りで、数量限定。週2回販売予定」

と伝えていたのだが、あまりにも似たような質問が多いのでこちらも紙に書いて貼り付けてやったら静かになった。

静かになったので手持ちの本を開く。
その静けさは箱の中身が無くなるまで続くのだが、今度は商品が切れてからの苦情に四苦八苦する羽目になるのであった。



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