卸商が異世界で密貿易をしています。

ITSUKI

文字の大きさ
5 / 81
『真幸商会』異世界出店編

さぁ、冒険だ!

しおりを挟む
週末を待ちながら慣れない雑務に勤しむ。

受け回り先が少ないのと、仕入れる品物がほぼ決まっているおかげでなんとか回せたが細かな慣れない作業ばかりで予想外に大変だった……と思う。
それでも銀行員以前の仕事と違って相手をだます様なまねをしなくて済む点は精神的に楽だ。

これ以上手が増えるようなら一人雇って事務方と実務方を分けるしか……いや、月15万で雇っても保険等含めると20を超える。
一人雇うと利益をほぼ吸われるのを考えると―――現状維持の一手だな。
どうにもならなかった時、その時はその時で考えよう。

ともかく、初めての仕事ながらなんとか大きなトラブルもなく週末を迎えられた。

配送業者の都合で土日は必然的に休みとなる。
この機を生かしてもう一度異世界へと出かけてみようと計画を練っていたのだ。


そして土曜の朝9時半。

持ち物を確認、改めて不可思議な扉をくぐり抜けた。


≪所持品≫

登山用リュック

・100円ライター×5

・200円の着火マン×5

・350mlビール×6

・100均はさみ×5

・格安ノート10冊セット

・5本セット100均ボールペン×3

・100均ステンレスナイフフォークセット×3

・塩1kg

・砂糖1kg

・塩コショウ1kg

・粒胡椒500g

・パスタ300g

・小麦粉(薄力粉)1kg


前半は身近に使える生活用品、後半は卸し商品の倉庫よりこちらの食材として詰め込んだ。
確証はないが扉の向こうが『異世界』もしくは『数百年前の地球(ヨーロッパ周辺)』との前提で用意してある。

どちらであっても便利な生活用品と規格化された上質な食料品が力を発揮すると考えた。

未知の世界に不安がないと言えば嘘になる。
二回とも身の危険を感じたのだ。

しかし、大学にいた頃会社を興したOBの講演で、成功をつかむものは考える前に先ず行動してみることと言われたことがある。

類をみないチャンスかもしれないのだ。
手をこまねいて見ているより例に倣って動いてみようと思ったのだ。

少なくとも話のできる相手がいれば手土産片手に会話や交渉もできるだろうし、盗賊まがいの相手に出くわしたとしても荷物を放り出してその間に逃げられるかもしれない。

願わくば安全な場所を。
出来る事なら、話のわかる人がいる近くに現れますように。

そう思いながら三度目となる扉の先へ踏み込んだ。





今度は誰もいない部屋に出る。
どうやら今回は何処かの家のクローゼットと繋がったようだ。

扉が閉まらないように近くにあったつっかえ棒で固定する。

太陽の光を感じ、窓を開ける。
日はまだ昇る途中の様で日本時間とあまり差がないように思えた。

廊下に出ると階段を見つけ、そっと下に降りる。
一階もがらんどうとしており衣類や生活用品も見当たらない。
どうやらこの家に人は住んでいないようだ。
ただ、残されたテーブルなんかにほとんどほこりが積もってない点から定期的に掃除はされている様子。

掛けられていた鍵を開け外に出てみる。
石造りの町並みと日本より少しひんやりした空気が体を包み込んだ。

扉の外の方には見たことのない文字で書かれた張り紙がしてあった。
法則性もわからない文字だが、何故だかそれが『貸し物件 一戸建て 広さ240m2 料金応相談 オードロー・デキシーまで』と書かれていると理解した。

「どうしたんだい、少年。この物件が気になるのかい?」

唐突に声をかけられる。
振り返ると恰幅の良い女性が近くにいた。

「あたしがそのデキシーさ。昨年亡くなった母の住んでた家なんだけどね。毎週風通ししてるから状態はなかなかだよ」

はっはっはと笑う。

なるほど、どこか借家でも探しているように見えたのか。
しかし、20歳はたちはとうに過ぎてるってのに少年って……。
まぁいいか。

「なるほど。俺……自分は真崎 隼人と言います。今朝方この街に来たばかりでふらふらっと歩いていたらこの家が目にとまってちょっと眺めていたんです」

「あっはっは、いい家だろぅ?それより身分証はあるのかい?来たばかりで持ってないってんなら先にギルドに顔を出すべきだね。この街じゃあ、事件に巻き込まれた時に身分証がなけりゃなかなか応対してもらえないからねぇ。市場に行く途中だしギルドまでつれて行ってあげるよ」

シルイットがこの街の名前か。

ギルドってことは組合?
中世ヨーロッパもギルドの集合だったっけ?
まぁ、帰ってシルイットって街が過去に実在したか確認してみれば分かるか。
無いんだったら異世界の方でほぼ当たりかな。

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

礼を言って案内してもらう。
3度目は親切な人との出会いで本当に助かった。


デキシーさんから歩きながらシルイットの街やその周辺について教えてもらう。
自分の事は遠い東の方から商売事を探しながら大きな街を目指しやってきたことにしておいた。
出身国の名前はジパングにしておいた。

さて、この国はベルナード王国と言うらしい。
内陸の方にパテントという王都があり、反対側には海。
そしてそこは貿易都市アクエラがある。
その中間地点に集積都市としてシルイットがあるのだそうだ。

シルイットとアクエラは国税を徴収するほか別途一定額を国庫に寄付しているらしい。
その代わりとして両都市は国王から自治を任されているとのこと。

日本でいえば戦国時代の堺に近いのかもしれない。

隊商の護衛や北にある黒麒こっきの森のモンスターに対抗する勢力として冒険者ギルドも力を持っている。
魔物の素材や武具の加工で工業ギルドも優れている。
反面、土地が手狭で魔物も多いので食料品は輸入頼みが多い点が首脳陣の頭を悩ませているのだとか。

安くていい食料品が持ってこられるならひと山儲けられるかもしれないよ、と教えてくれた。

大まかな国情を聞いたところで目的地に到着する。

「はい、お疲れさん。ここがさっき話したギルドになるよ。右側の赤い屋根が冒険者ギルド、左側の青の屋根が商業ギルドだね。技術持ちで工業ギルドを探していたなら門の近くになるけどどうするかい?」

工業ギルドそっちをと言ったら工業ギルドまで案内してくれそうな感じがする。

まぁ、内情を説明するには目の前の方が最適だろう。

「いえ、こっちのギルドで大丈夫です。わざわざありがとうございます」

礼を言う。

「はいよ、どういたしまして。シルイットここに住むなら声をかけてくれよ。こう見えても知り合いは多いからねぇ」
と、いい笑顔を向けてくれるデキシーさん。
助けてもらったお礼にと手持ちのものからなにか欲しいものがあればと取り出そうとするがいいよいいよと断られる。

「どうしてもっていうんならシルイットで成功して、美味い飯でも奢ってくれればいいよ。あっはっは」

笑いながら元来た道を戻っていく。

わざわざ連れてきてくれたんだろう、本当に感謝だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...