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マリアンヌ、という女 その2
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地味で流行を気にも止めない装いに薄化粧のいで立ちであることもその不名誉なあだ名の原因でもあるが直接的な理由は他にあった。
それは、彼女がいつも昼食に芋を食しているからである。
さまざまな芋を、時に姿のまま、別の日には揚げたりふかしたりさらにはおやつも芋とする徹底ぶり。
とにかくマリアンヌは毎昼食芋をたべている、なんなら間食も芋。
そして人々は知らないが朝食にも夕食にも芋を食べている女性、それがマリアンヌだった。
そんなこんなで女性同僚だけでなく、結婚相手に相応しいとされる年代の男性同僚からも芋女とよばれていた。
男性同僚たちは直接的にマリアンヌを「いもむすめ」と揶揄しよびつけていた。
優しい年上の同僚たちでさえ、愛はあれど、「おいもちゃん」と呼ぶのだからまぁ陰で芋女と呼ばれることぐらいマリアンヌにとって何の害でも意地悪にもなっていなかった。
事実ゆえに本人にとっては痛くも痒くもない件である。
そんな”芋女 または おいもちゃん”こと、マリアンヌに恋人ができたという話は勤め先である部署をはじめ同じフロアに入っている他部署の人々の中でもちょっとした騒ぎとなった。
「芋女に恋人ができたって話は本当なの?それも上級研究員ですって?!」
「嘘なんでしょ?超エリートな彼らが芋女を選ぶわけないわよね?」
「なんであの芋女がそんな優良物件捕まえるのよ、だれかがながしたデマでしょ!?」
麗しいが姦しい、と男性同僚からは一線を引かれている結婚適齢期後半に差し掛かる他部署のお姉様方がマリアンヌと同じ部署の男性補助員ネイト君を囲み騒ぎ立てている。
が、他の同僚は誰もネイトくんを助けてくれない。
「あ、あの、多分、っていうか本当です。先日そのお相手のぉ、研究員の方からそのように直接聞きましたので、、、」
ネイトは先日の恐怖体験を思い出し、ぶるっと身を震わせた。
あの男の様子に比べたら目の前の3人組など可愛いものだ。
「まぁぁぁ!!!???なんてこと!誰、一体誰なの、教えなさい!」
3人組の中で一番背の高いゴージャス巻毛美人がネイトの首元をシャツごと捻りあげる。
「ぐぇ、あう、りうぉ、リオネルさんですぅ」
若干涙目になったがこれは生理的な涙である、本当にくるしい。首を絞めるのはやめてほしい。
「は?リオネル?どこのリオネルよ?」
「せ、生産研究所のリオネルさんですぅ」
解放された首元をなでなでしながら目一杯呼吸をする。
「生産研究所? じゃなくて、どこの家のリオネル様かと聞いているの!上級研究員なら貴族家出身でしょ?」
「そうなんですか?えーっと、たしか、、、あ、思い出した! ”デッオリュース” さんです!」
平民出身の者でも昨今は姓を名乗るので、あのボサボサ男がまさか貴族家出身とは思っていなかった。しかし身につけているモノは良かったので豪商の息子かな、くらいに思っていた。
ネイトは知っているままを巻毛美人に伝えた。
「ぬなっ!?なんですってぇぇぇ!? ”デ・オリウス”家ですってぇぇぇ!?」
テイトたちが今いるフロア全域に広がる大声でゴージャス巻毛美人ことライラック・フェルゲンは叫びあげた。
「そんな、驚くようなおうちの方なんですか?」
ネイトはライラックこと、ライラに向かって首を傾げる。
「オリウス家は北方辺境地を治める伯爵家、国内で一番大きいマントデドラゴ社を営んでいる一族よ。王家の血筋も入っている古くからの名家で、蛮族を退けた英雄の血筋でもあるわね」
ライラの後ろで眉間に皺を寄せた黒髪美人が解説者よろしくネイトに説明をした。
「でぇぇ!?マントデドラゴ社の一族なんですか?身につけている物から金持ちだとは思ってたんですけど、いやぁ、でも、あの人から漂う陰気なオーラはそんな華々しい一族の一員とは思えないんですよね。別の”デッオリュース”さんじゃないでしょうか?」
「若造、デ・オリウスなんて家が他に存在するわけないだろう、阿呆かお前は?」
可愛い顔のボブ茶髪美女がその容姿に似合わない言葉と低音でディスってくるのでネイトは怯えた。
「だ、だってリオネルさんって全く貴族家の男性っぽくないっていうか、、、」
「・・・そうよ!わたくしが”デ・オリウス”家出身の妙齢男性を見逃しているはずがないわ」
先程まで項垂れていたライラが突然冠りを振って目を剥きネイトに迫ってくる。
「そのリオネルという方の特徴をもっと詳しく教えてちょうだい!!」
以下、ネイトの説明より抜粋
「リオネル・デ・オリウス(ネイト的にはリオネル・デッオリュース)」情報
ー 長身、多分190センチ以上
ー けっこうな細身、っていうかガリガリ?
ー 髪色は灰色?前髪長すぎで瞳の色は不明
ー いつもよれよれの白衣をきている
ー 最新のネジ巻式腕時計をしている(推定価格、庶民給与の10年分?)
ー 独身寮C棟に住んでいる
「僕が知っているのはそんなことぐらいですかね」
このほかに、すごい殺気をぶっ放す暗殺者のようなやつである情報も追加しようとしたがなんだか混乱させそうだったしこの人たちにとっていらない情報と判断してその点は省いておいた。
(まぁ、それにあの殺気は男にしか放たないだろうしな)
以前ネイトがその殺気に当てられたのは、まさしくリオネルがマリアンヌに向ける膨大な愛情から発生する嫉妬由来と鈍感なネイトでさえもわかった。
「その特徴を聞いたところで、わたくしの情報にはないものばかりだからやはり判断しかねるわ。そうなると、わたくしの知らない”デ・オリウス”家出身の妙齢男性ではないかもしれないわね。そうであるならば身分詐称している危ない奴、か、もしくは末端も末端の血筋のものかもしれないわね。。。うん、ならどうでもいいわ!やはり芋女の相手だもの、たとえ上級研究員とはいえまぐれやコネでなりあがったようなたいした男じゃないんでしょうね、ほほほ」
散々騒ぎ出しておいて、勝手に自己完結に向かおうとしている姦し美女に周囲はかなり引いている。そんな冷たい視線に気づいた黒髪美人ことステラがライラの袖を引きこの場からの退出を合図する。
「みなさま、お騒がせしましたわ。それでは私たちは仕事にもどりますので皆様もどうぞお勤めあそばせ、ほほほほほ」
ライラ、以下3名。マリアンヌの職場である資料管理室の入り口から去ろうとした時廊下の向こうからマリアンヌ本人がこちらに向かってくるところであった。
それは、彼女がいつも昼食に芋を食しているからである。
さまざまな芋を、時に姿のまま、別の日には揚げたりふかしたりさらにはおやつも芋とする徹底ぶり。
とにかくマリアンヌは毎昼食芋をたべている、なんなら間食も芋。
そして人々は知らないが朝食にも夕食にも芋を食べている女性、それがマリアンヌだった。
そんなこんなで女性同僚だけでなく、結婚相手に相応しいとされる年代の男性同僚からも芋女とよばれていた。
男性同僚たちは直接的にマリアンヌを「いもむすめ」と揶揄しよびつけていた。
優しい年上の同僚たちでさえ、愛はあれど、「おいもちゃん」と呼ぶのだからまぁ陰で芋女と呼ばれることぐらいマリアンヌにとって何の害でも意地悪にもなっていなかった。
事実ゆえに本人にとっては痛くも痒くもない件である。
そんな”芋女 または おいもちゃん”こと、マリアンヌに恋人ができたという話は勤め先である部署をはじめ同じフロアに入っている他部署の人々の中でもちょっとした騒ぎとなった。
「芋女に恋人ができたって話は本当なの?それも上級研究員ですって?!」
「嘘なんでしょ?超エリートな彼らが芋女を選ぶわけないわよね?」
「なんであの芋女がそんな優良物件捕まえるのよ、だれかがながしたデマでしょ!?」
麗しいが姦しい、と男性同僚からは一線を引かれている結婚適齢期後半に差し掛かる他部署のお姉様方がマリアンヌと同じ部署の男性補助員ネイト君を囲み騒ぎ立てている。
が、他の同僚は誰もネイトくんを助けてくれない。
「あ、あの、多分、っていうか本当です。先日そのお相手のぉ、研究員の方からそのように直接聞きましたので、、、」
ネイトは先日の恐怖体験を思い出し、ぶるっと身を震わせた。
あの男の様子に比べたら目の前の3人組など可愛いものだ。
「まぁぁぁ!!!???なんてこと!誰、一体誰なの、教えなさい!」
3人組の中で一番背の高いゴージャス巻毛美人がネイトの首元をシャツごと捻りあげる。
「ぐぇ、あう、りうぉ、リオネルさんですぅ」
若干涙目になったがこれは生理的な涙である、本当にくるしい。首を絞めるのはやめてほしい。
「は?リオネル?どこのリオネルよ?」
「せ、生産研究所のリオネルさんですぅ」
解放された首元をなでなでしながら目一杯呼吸をする。
「生産研究所? じゃなくて、どこの家のリオネル様かと聞いているの!上級研究員なら貴族家出身でしょ?」
「そうなんですか?えーっと、たしか、、、あ、思い出した! ”デッオリュース” さんです!」
平民出身の者でも昨今は姓を名乗るので、あのボサボサ男がまさか貴族家出身とは思っていなかった。しかし身につけているモノは良かったので豪商の息子かな、くらいに思っていた。
ネイトは知っているままを巻毛美人に伝えた。
「ぬなっ!?なんですってぇぇぇ!? ”デ・オリウス”家ですってぇぇぇ!?」
テイトたちが今いるフロア全域に広がる大声でゴージャス巻毛美人ことライラック・フェルゲンは叫びあげた。
「そんな、驚くようなおうちの方なんですか?」
ネイトはライラックこと、ライラに向かって首を傾げる。
「オリウス家は北方辺境地を治める伯爵家、国内で一番大きいマントデドラゴ社を営んでいる一族よ。王家の血筋も入っている古くからの名家で、蛮族を退けた英雄の血筋でもあるわね」
ライラの後ろで眉間に皺を寄せた黒髪美人が解説者よろしくネイトに説明をした。
「でぇぇ!?マントデドラゴ社の一族なんですか?身につけている物から金持ちだとは思ってたんですけど、いやぁ、でも、あの人から漂う陰気なオーラはそんな華々しい一族の一員とは思えないんですよね。別の”デッオリュース”さんじゃないでしょうか?」
「若造、デ・オリウスなんて家が他に存在するわけないだろう、阿呆かお前は?」
可愛い顔のボブ茶髪美女がその容姿に似合わない言葉と低音でディスってくるのでネイトは怯えた。
「だ、だってリオネルさんって全く貴族家の男性っぽくないっていうか、、、」
「・・・そうよ!わたくしが”デ・オリウス”家出身の妙齢男性を見逃しているはずがないわ」
先程まで項垂れていたライラが突然冠りを振って目を剥きネイトに迫ってくる。
「そのリオネルという方の特徴をもっと詳しく教えてちょうだい!!」
以下、ネイトの説明より抜粋
「リオネル・デ・オリウス(ネイト的にはリオネル・デッオリュース)」情報
ー 長身、多分190センチ以上
ー けっこうな細身、っていうかガリガリ?
ー 髪色は灰色?前髪長すぎで瞳の色は不明
ー いつもよれよれの白衣をきている
ー 最新のネジ巻式腕時計をしている(推定価格、庶民給与の10年分?)
ー 独身寮C棟に住んでいる
「僕が知っているのはそんなことぐらいですかね」
このほかに、すごい殺気をぶっ放す暗殺者のようなやつである情報も追加しようとしたがなんだか混乱させそうだったしこの人たちにとっていらない情報と判断してその点は省いておいた。
(まぁ、それにあの殺気は男にしか放たないだろうしな)
以前ネイトがその殺気に当てられたのは、まさしくリオネルがマリアンヌに向ける膨大な愛情から発生する嫉妬由来と鈍感なネイトでさえもわかった。
「その特徴を聞いたところで、わたくしの情報にはないものばかりだからやはり判断しかねるわ。そうなると、わたくしの知らない”デ・オリウス”家出身の妙齢男性ではないかもしれないわね。そうであるならば身分詐称している危ない奴、か、もしくは末端も末端の血筋のものかもしれないわね。。。うん、ならどうでもいいわ!やはり芋女の相手だもの、たとえ上級研究員とはいえまぐれやコネでなりあがったようなたいした男じゃないんでしょうね、ほほほ」
散々騒ぎ出しておいて、勝手に自己完結に向かおうとしている姦し美女に周囲はかなり引いている。そんな冷たい視線に気づいた黒髪美人ことステラがライラの袖を引きこの場からの退出を合図する。
「みなさま、お騒がせしましたわ。それでは私たちは仕事にもどりますので皆様もどうぞお勤めあそばせ、ほほほほほ」
ライラ、以下3名。マリアンヌの職場である資料管理室の入り口から去ろうとした時廊下の向こうからマリアンヌ本人がこちらに向かってくるところであった。
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