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魔術師団研究員リズベス嬢の告白
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本当に良かった、とリズベスは心から感謝した。ありとあらゆるすべてのものに。
気が付けば、ヒューバートの胸元は散々泣いたリズベスの涙で濡れている。そのシャツをぎゅっと握りしめて、リズベスは覚悟を決めた。
「……あのピンには、身体強化魔術の陣が入れてあったんです」
「あれの?」
驚きに目を見張ったヒューバートが、リズベスの頭を撫でていた手を止める。そのことに、ちょっとだけ落胆してしまう自分がいて、そんな場合ではないだろうと自身を叱る。
次にかけられる言葉を予想して、リズベスはぎゅっと身体を固くした。
「――そうか、どおりで身体が軽やかに動くと思った」
「ええ、稼働時間を長くして、その分効力は少し……い、いえ、そういうことではなくて!」
相手の身体に作用する魔術は、断りなく行使することを禁じられている。特に、開発途中の魔術は副作用も未確定であり、危険が伴うのだ。
当然、ヒューバートは怒ると思っていた。しかし、目を丸くしてそう言ったヒューバートからは、怒りの気配は感じられない。
リズベスがそれを用意したのは、いざという場面で自身を守るための備えである。そのため、効力はそれほど高くなく、稼働時間は長めにとっていた。
「きちんと説明しておくべきだったんです……本当に、ごめんなさい……」
緊急を要する事態だったとはいえ、一言くらいは言えたはずだ。それに、リズベスの陣が不完全だったこともあって、発動条件が勝手に満たされてしまった。そして、その結果がこれだ。
疲労度について計算していなかったのは、完全に自分のミスだった。一歩間違えば、命にかかわることだってありえたのに。
しゅん、とうなだれたリズベスに、ヒューバートが微笑みかける。
「いいんだ、リズ。きっとあれのお陰で、俺は間に合ったんだと思うから」
「……っ!」
じわり、と溢れる涙が止められない。ヒューバートが「おい、なんで泣く」と慌てた様子でリズベスをぎゅっと抱きしめてくれる。
その手の暖かさと、ふたたび感じるヒューバートの鼓動の確かさが愛おしい。溢れる気持ちそのままに、リズベスは言葉を紡いだ。
「あの魔術の副作用で、ヒューバートさまはずっと意識が戻らなくて、わたし、わたし……!」
ヒューバートが倒れた時のことを思い出すと、リズベスの心は一気に冷える。青ざめた顔と、苦しげな呼吸。ヒューバートの上着の内ポケットで割れていたピンを見つけた時には、心臓が止まるかと思ったほどだった。
「……あれを、リズベスが使わなくて本当に良かったよ」
リズベスを抱きしめる腕に、力がこめられるのがわかる。ぽん、とやさしく背中を叩いた手が、今度はなだめるように撫で上げる。その優しさに、リズベスは再び声を上げて泣き出してしまう。
――どうして言わずにいられると思っていたのだろう。
「ヒューバートさま、わたし、わたし……お役に立ちたくて」
ひくっとしゃくりあげながら、リズベスは必死に言葉を紡いだ。もう、この先どうなってもいい。言わずにいられるはずがない。
過去の私はなんて馬鹿だったのだろう。
本当の気持ちを告げずに、ヒューバートの幸せを祈れるだなんて、そんなことあるはずがない。
「だって、ヒューバートさまは、わたしなんか手の届かない方だって、ずっと思ってて――ううん、だってそうだったでしょう……」
まくしたてるようなリズベスの言葉を、ヒューバートはじっと黙って聞いていてくれる。言葉に詰まるたびに、背中を優しく撫でる手が大丈夫だというようにポンポンと優しく叩く。
もしかしたら、この手を永遠に失っていたかもしれない。そう思うと、後から後から涙が溢れて止まらない。シャツを握り締めていた手を、ヒューバートの身体にまわすようにしてしがみつく。ぎゅっと力を入れて力いっぱい抱き着いて、リズベスはずっと逃げ続けていた言葉を絞り出した。
「すき、ヒューバートさまがすきなの……!愛してるんです……!」
背中を撫でていた手が、その言葉と同時に止まった。部屋の中に沈黙が落ちる。
その沈黙に耐えきれなくなって、リズベスはそっと顔を上げて固まった。真っ赤な顔をしたヒューバートが、目を見開いてリズベスを見つめている。その奥に、ぎらぎらと燃えるような光を見たような気がして、リズベスはごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、あの……」
気恥ずかしさと、それから何故か背筋を這うぞくりとした感覚に、思わず何の意味もない言葉が口をついた。
「……くそっ」
ヒューバートの口から、小さくそんな呟きが漏れた。えっ、と驚く間もなく動いたヒューバートの腕がリズベスの顔をもう一度胸元へと押し付ける。
「ああ、なんで今自由に動けないんだ……リズ、本当に?本当か?俺の都合のいい妄想じゃないよな……?夢でも……ないよな?」
ぶつぶつと小声でそう呟きながら、ヒューバートがぎゅうぎゅうとリズベスの身体を抱きしめてくる。その力強さに、もう一度リズベスはほっと溜息をついた。
大丈夫、ヒューバートはここにいる。
「夢でも妄想でもないです……大好きなの、ずっと……」
暖かな腕の中で、リズベスは幸せな気分でもう一度言うと、その胸元に頬をすりつけた。
気が付けば、ヒューバートの胸元は散々泣いたリズベスの涙で濡れている。そのシャツをぎゅっと握りしめて、リズベスは覚悟を決めた。
「……あのピンには、身体強化魔術の陣が入れてあったんです」
「あれの?」
驚きに目を見張ったヒューバートが、リズベスの頭を撫でていた手を止める。そのことに、ちょっとだけ落胆してしまう自分がいて、そんな場合ではないだろうと自身を叱る。
次にかけられる言葉を予想して、リズベスはぎゅっと身体を固くした。
「――そうか、どおりで身体が軽やかに動くと思った」
「ええ、稼働時間を長くして、その分効力は少し……い、いえ、そういうことではなくて!」
相手の身体に作用する魔術は、断りなく行使することを禁じられている。特に、開発途中の魔術は副作用も未確定であり、危険が伴うのだ。
当然、ヒューバートは怒ると思っていた。しかし、目を丸くしてそう言ったヒューバートからは、怒りの気配は感じられない。
リズベスがそれを用意したのは、いざという場面で自身を守るための備えである。そのため、効力はそれほど高くなく、稼働時間は長めにとっていた。
「きちんと説明しておくべきだったんです……本当に、ごめんなさい……」
緊急を要する事態だったとはいえ、一言くらいは言えたはずだ。それに、リズベスの陣が不完全だったこともあって、発動条件が勝手に満たされてしまった。そして、その結果がこれだ。
疲労度について計算していなかったのは、完全に自分のミスだった。一歩間違えば、命にかかわることだってありえたのに。
しゅん、とうなだれたリズベスに、ヒューバートが微笑みかける。
「いいんだ、リズ。きっとあれのお陰で、俺は間に合ったんだと思うから」
「……っ!」
じわり、と溢れる涙が止められない。ヒューバートが「おい、なんで泣く」と慌てた様子でリズベスをぎゅっと抱きしめてくれる。
その手の暖かさと、ふたたび感じるヒューバートの鼓動の確かさが愛おしい。溢れる気持ちそのままに、リズベスは言葉を紡いだ。
「あの魔術の副作用で、ヒューバートさまはずっと意識が戻らなくて、わたし、わたし……!」
ヒューバートが倒れた時のことを思い出すと、リズベスの心は一気に冷える。青ざめた顔と、苦しげな呼吸。ヒューバートの上着の内ポケットで割れていたピンを見つけた時には、心臓が止まるかと思ったほどだった。
「……あれを、リズベスが使わなくて本当に良かったよ」
リズベスを抱きしめる腕に、力がこめられるのがわかる。ぽん、とやさしく背中を叩いた手が、今度はなだめるように撫で上げる。その優しさに、リズベスは再び声を上げて泣き出してしまう。
――どうして言わずにいられると思っていたのだろう。
「ヒューバートさま、わたし、わたし……お役に立ちたくて」
ひくっとしゃくりあげながら、リズベスは必死に言葉を紡いだ。もう、この先どうなってもいい。言わずにいられるはずがない。
過去の私はなんて馬鹿だったのだろう。
本当の気持ちを告げずに、ヒューバートの幸せを祈れるだなんて、そんなことあるはずがない。
「だって、ヒューバートさまは、わたしなんか手の届かない方だって、ずっと思ってて――ううん、だってそうだったでしょう……」
まくしたてるようなリズベスの言葉を、ヒューバートはじっと黙って聞いていてくれる。言葉に詰まるたびに、背中を優しく撫でる手が大丈夫だというようにポンポンと優しく叩く。
もしかしたら、この手を永遠に失っていたかもしれない。そう思うと、後から後から涙が溢れて止まらない。シャツを握り締めていた手を、ヒューバートの身体にまわすようにしてしがみつく。ぎゅっと力を入れて力いっぱい抱き着いて、リズベスはずっと逃げ続けていた言葉を絞り出した。
「すき、ヒューバートさまがすきなの……!愛してるんです……!」
背中を撫でていた手が、その言葉と同時に止まった。部屋の中に沈黙が落ちる。
その沈黙に耐えきれなくなって、リズベスはそっと顔を上げて固まった。真っ赤な顔をしたヒューバートが、目を見開いてリズベスを見つめている。その奥に、ぎらぎらと燃えるような光を見たような気がして、リズベスはごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、あの……」
気恥ずかしさと、それから何故か背筋を這うぞくりとした感覚に、思わず何の意味もない言葉が口をついた。
「……くそっ」
ヒューバートの口から、小さくそんな呟きが漏れた。えっ、と驚く間もなく動いたヒューバートの腕がリズベスの顔をもう一度胸元へと押し付ける。
「ああ、なんで今自由に動けないんだ……リズ、本当に?本当か?俺の都合のいい妄想じゃないよな……?夢でも……ないよな?」
ぶつぶつと小声でそう呟きながら、ヒューバートがぎゅうぎゅうとリズベスの身体を抱きしめてくる。その力強さに、もう一度リズベスはほっと溜息をついた。
大丈夫、ヒューバートはここにいる。
「夢でも妄想でもないです……大好きなの、ずっと……」
暖かな腕の中で、リズベスは幸せな気分でもう一度言うと、その胸元に頬をすりつけた。
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