HERO

とまと

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貴方と出会ってから6回目の冬が来て、貴方を好きになってから4回目の冬が来て、そうして貴方が結婚してから2回目の冬が来た。

私は冬が来るたびに、寒がりの私の手を取って、自分のポケットに入れてくれてた貴方を。待ち合わせの度に、ほうじ茶が好きと可愛げのないものが好きな私を笑いながらも買ってきてくれる優しい貴方を。思い出してしまうよ。
そうして白い息の中に、貴方との思い出が光の反射で輝いては消えて、1人寂しくなり、自分で自分の手を暖めては、貴方の幸せを遠くから願った。


「あ、そうだ」

喉の弱い貴方が思い出したようにマスクを取る姿に私は、きょとんとした顔を浮かべる。

「ハナと話すときは、マスクしないようにしようって思ったんだよね」

「なんで?」

「ハナは、すぐに不安になるから。表情が見えてれば、少しは安心するかなって思って」

「どう?安心する?」そう笑って聞く貴方の優しさが堪らなく好きで、きっと私は貴方を嫌いになる事は一生ない。そう強く思った。

それはまるで呪いのように、自らの想いを縛り付けるもので、誰かを好きになりそうになる度に、貴方を思い出しては、私を幸せにも不幸にもしないその幻影は、ゆらゆらと私の側を漂い続けていた。

その頃の私の願いは、今思えば単純でそして愚かしい願いだったと思う。離れる事もこれ以上近づくこともできない貴方の、友達として側にいる事。どんな形でもいいからずっとずっと、貴方の側にいる事だった。
もし過去と未来と今と、なにかを諦めなければならないとしたら、私は過去の自分も未来の自分も捨てて、今だけの為に生きて、今だけの為に彼を愛していた。
一歩先の未来にはきっと、彼がいないことを知っていたから。
離れるなんて、想像も出来なかった。


世界が歪み始めたのはいつからだろうか?
本当は私が認知するよりずっと前から歪んでいたのかもしれないけれど。
貴方と出会ってから4回目の冬が来る頃だったと思う。
結婚すると子どもが出来たと、私に笑って伝えた貴方に、私はきちんと笑顔で良かったねと返せていただろうか。
おめでとうと、締め付けるような胸の痛みを隠して、笑えていただろうか。


私が泣いた日に「今日家に帰ってどうせ泣くんだから電話しておいで」と頭を撫でた貴方は。仕事でもプライベートでも上手くいかず落ち込む私に「俺はいつでもここにいる」と温もりをくれた貴方は。
ああ、せめて。嘘じゃなかったと言って。
あの時あの瞬間、言葉を紡いだ貴方は、私に言葉をくれたその時間だけは、私と貴方だけしかいなかったと。私だけの為に存在した言葉だと。貴方が言ってくれたなら、私はそれを信じるから。

一番にならないこと、一番になれないこと、わかっていたのに。手を離せなかった私達の弱さをどうか、神様許してください。
あの日交わしたキスも、車越しに触れ合った指先も、全て。吐いた白い息に混ぜて、夜空の黒に隠すから。


「ねぇ、トウヤ。トウヤってヒーローみたい」

「なんで?」

「私が寂しい時とか元気ない時とか、いつも見つけてくれて、助けてくれて。いつもトウヤの周りにいる人は笑顔だよね。だからトウヤはヒーローだよ」

「そうかな?…じゃあヒーローだから、寂しかったからいつでも呼んでくれ」

「ふふ、うん」


夜空を見上げて小さく光る無数の星が瞬くように、貴方と過ごした日々がいくつも胸の中で小さく輝いて。
その記憶の全てが私の幸せだった。
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