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第二章 家督
五
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安養寺氏種が去ったあと、信長は近習の一人池田勝三郎恒興を召し出した。
「江北の浅井と手を結ぼうと思う。細作(忍者)を近江に放て」
「心得ました」
恒興は頭を下げた。
その日の夜、恒興は清須城下の拝領屋敷に、配下の細作(忍者)を呼び寄せた。
「江北の浅井の内情を探れ」
恒興は、中庭で平伏する黒装束の男に命じた。
「ははっ」
男は小さく頭を下げると、音も立てずに恒興の前から消え去った。
池田恒興は、実母が主君信長の乳母を務めたという縁で、幼少のころから小姓として信長に仕えていた。
信長は、吉法師と呼ばれていた襁褓の頃からひどい癇癖の持ち主で、傅役平手中務政秀が用意した乳母の乳房を噛み切るという癖があった。ところが恒興の母(養徳院)が吉法師の乳母に選ばれると、不思議なことに乳首を噛み切る癖が治ったのだ。
この養徳院であるが、摂津池田の荘の豪族池田政秀の娘として近江国、または美濃国にて誕生した。父政秀には男子がなく、仕方なく婿養子を迎えることになった。婿に選ばれたのは、近江国甲賀の地侍(忍者)滝川貞勝の次男恒利だった。
恒利は、室町幕府十二代将軍足利義晴に仕えていたのだが、畿内の戦乱を避けるため享禄年間(一五二八から一五三一)に尾張に移り住んだ。元々病弱だった恒利は間もなく病死する。その後、後家となった養徳院は吉法師の乳母として織田家に仕えることになった。大御乳様と呼ばれ、その後、信長の父信秀の側室となり娘を授かっている。
因みに、養徳院を吉法師の傅役平手政秀に推挙した人物は、亡き夫恒利の甥に当たる滝川彦右衛門一益である。この滝川一益も自出が甲賀地侍であるため、従兄弟に当たる池田恒興同様、配下の細作(忍者)を使って、織田家の諜報活動を担っていた。
北近江小谷城下に戻った安養寺氏種は、主君浅井長政に報告するためその足で登城した。
「如何であった三郎左衛門?」
長政は少し不安気な眼差しを向け尋ねた。
「織田殿にはご満悦のご様子で、予の武勇に肖りたいとは、浅井殿もまこと殊勝なお心掛けじゃ、とお言葉を頂戴仕りました」
「左様か……俺のことを殊勝なお心掛けと申されたか」
「はい」
氏種は頷いた。
この日以降、正式に諱を賢政改め長政とした。
長政の諱の初見は、翌永禄四年(一五六一)六月二十日の出された家臣の垣見新次郎宛ての書状だった。
「江北の浅井と手を結ぼうと思う。細作(忍者)を近江に放て」
「心得ました」
恒興は頭を下げた。
その日の夜、恒興は清須城下の拝領屋敷に、配下の細作(忍者)を呼び寄せた。
「江北の浅井の内情を探れ」
恒興は、中庭で平伏する黒装束の男に命じた。
「ははっ」
男は小さく頭を下げると、音も立てずに恒興の前から消え去った。
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信長は、吉法師と呼ばれていた襁褓の頃からひどい癇癖の持ち主で、傅役平手中務政秀が用意した乳母の乳房を噛み切るという癖があった。ところが恒興の母(養徳院)が吉法師の乳母に選ばれると、不思議なことに乳首を噛み切る癖が治ったのだ。
この養徳院であるが、摂津池田の荘の豪族池田政秀の娘として近江国、または美濃国にて誕生した。父政秀には男子がなく、仕方なく婿養子を迎えることになった。婿に選ばれたのは、近江国甲賀の地侍(忍者)滝川貞勝の次男恒利だった。
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因みに、養徳院を吉法師の傅役平手政秀に推挙した人物は、亡き夫恒利の甥に当たる滝川彦右衛門一益である。この滝川一益も自出が甲賀地侍であるため、従兄弟に当たる池田恒興同様、配下の細作(忍者)を使って、織田家の諜報活動を担っていた。
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「如何であった三郎左衛門?」
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「左様か……俺のことを殊勝なお心掛けと申されたか」
「はい」
氏種は頷いた。
この日以降、正式に諱を賢政改め長政とした。
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