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第一章
七
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翌四月二十日。
清須城内で異変が起こった。
「三郎信長め、この豊後守を引き渡せと申したそうじゃな」
信光は、清須城本丸主殿の対面の間で、当世具足に身を固めた清須方の諸将を前にして、厳しい口調で言った。
「安心召されいっ。この彦五郎、決して豊後殿をうつけの手に渡したり致さぬ」
上座に着く信友は唇の端に薄い笑みを浮かべた。
「さて、大膳。如何致す」
信友は視線を信光から坂井大膳に移しながら訊ねる。
「ふむ。このあとはやはり末森の勘十郎信勝殿と手を結び、信長めを挟み撃ちにするのが宜しいかと」
「左様であるか……」
信友が頷いた次の瞬間、突然居並ぶ信光の家臣団が立ち上がった。
「……はぁっ!?」
唖然となる信友を前に、信光は、
「者共っ懸かれっ!」
と大音声を発した。
「あぐぅぅーっ!?」
不意を衝かれた信友は、信光の家臣どもが向けた刃を防ぐことが出来ず手傷を負い、狼狽えながら城内を逃げ回った。そして、城内に攻め込んで来た信長の家臣団に、尾張守護職斯波左兵衛佐義統を弑逆した主殺しの咎で討たれた。この時、信友を討ち取った武将が森蘭丸の実父森三左衛門可成だ。
清須城内は騒然となった。
「な、何を致す……ち、血迷うたか、ぶ、豊後守殿ぉぉぉ……」
突然の出来事に坂井大膳は狼狽えつつも、素早く身の危険を察知し、家臣に警護されこの評定の間から脱出する。
「逃すなっ! 大膳めを討ち取れぇっ!」
「応っ」
信光の家臣は、逃げ惑う坂井大膳を追った。
しかし寸でのところで大膳を取り逃がしてしまった。彼はその後駿府の今川を頼り落ち延びた。
斯くして信長は、清須城乗っ取りに成功した。そして約束通り、信光は甥信長から譲り受けた那古屋に遷った。
那古屋城に入った信光は、その日のうちに正室北の方と愛娘於市に会った。
「久方振りじゃの室よ」
「はい」
その美貌に一層磨きを掛けた北の方が、妖艶な笑みを浮かべながら頷く。
「姫よ、母上の言うことを聞き、大人しゅうしておったか」
信光は、愛娘於市を膝の上に抱き、頬を擦り寄せた。
「御父上、お髭がチクチクして痛い」
「おお、これは済まぬ」
信光は満面の笑みを浮かべた。
「妾は、三郎様に可愛がって頂きました」
於市は愛くるしい笑顔で言うと、父の傍らに座る母北の方の顔を見やった。
「左様か、三郎殿に可愛がってもろうたか、姫よ……」
信光も北の方を見詰めながら訊ねる。
すると北の方は、無言で頷いた。
「して駿府の動きはどうなっておる」
「はい。治部大輔殿は、着実にその触手をこの尾張に伸ばしておりまする」
「左様か……亡き我が兄桃巌殿がご健勝であったならば、そう易々と今川如きに好き勝手させぬものを」
信光は微かに眉間に皺を寄せた。
「亡き岡崎三郎(松平広忠)殿と惣領の座を賭けて争っていた我が甥監物(家次)も先年今川方に奔った……」
信光はしみじみと語った。
清須城内で異変が起こった。
「三郎信長め、この豊後守を引き渡せと申したそうじゃな」
信光は、清須城本丸主殿の対面の間で、当世具足に身を固めた清須方の諸将を前にして、厳しい口調で言った。
「安心召されいっ。この彦五郎、決して豊後殿をうつけの手に渡したり致さぬ」
上座に着く信友は唇の端に薄い笑みを浮かべた。
「さて、大膳。如何致す」
信友は視線を信光から坂井大膳に移しながら訊ねる。
「ふむ。このあとはやはり末森の勘十郎信勝殿と手を結び、信長めを挟み撃ちにするのが宜しいかと」
「左様であるか……」
信友が頷いた次の瞬間、突然居並ぶ信光の家臣団が立ち上がった。
「……はぁっ!?」
唖然となる信友を前に、信光は、
「者共っ懸かれっ!」
と大音声を発した。
「あぐぅぅーっ!?」
不意を衝かれた信友は、信光の家臣どもが向けた刃を防ぐことが出来ず手傷を負い、狼狽えながら城内を逃げ回った。そして、城内に攻め込んで来た信長の家臣団に、尾張守護職斯波左兵衛佐義統を弑逆した主殺しの咎で討たれた。この時、信友を討ち取った武将が森蘭丸の実父森三左衛門可成だ。
清須城内は騒然となった。
「な、何を致す……ち、血迷うたか、ぶ、豊後守殿ぉぉぉ……」
突然の出来事に坂井大膳は狼狽えつつも、素早く身の危険を察知し、家臣に警護されこの評定の間から脱出する。
「逃すなっ! 大膳めを討ち取れぇっ!」
「応っ」
信光の家臣は、逃げ惑う坂井大膳を追った。
しかし寸でのところで大膳を取り逃がしてしまった。彼はその後駿府の今川を頼り落ち延びた。
斯くして信長は、清須城乗っ取りに成功した。そして約束通り、信光は甥信長から譲り受けた那古屋に遷った。
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「久方振りじゃの室よ」
「はい」
その美貌に一層磨きを掛けた北の方が、妖艶な笑みを浮かべながら頷く。
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信光はしみじみと語った。
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