紬ぐ想いの場

翠華

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第二章(前半) 日常と記憶の断片

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昼のキャンパス。
 中庭のベンチに座って、瑠衣と並んでコンビニのおにぎりを食べる。
 近くの桜の木の下では、他の学生たちが笑いながら写真を撮っていた。

「ねぇ、見てこれ」
 瑠衣がスマホを差し出す。
 画面には、人気のメイク動画が流れていた。
 ナチュラルなのに、どこか華やかで目を引く。

「こういうの、最近めっちゃ流行ってるんだって」
「へぇ……すごいね」
「つむぎもやってみなよ。絶対似合うって」

 その言葉に、紬は少しだけ笑った。
「ううん、私はいいや」
 そう言って、おにぎりの包みをくしゃっと握る。

 その瞬間、ふと胸の奥で何かがざわついた。

 ――中学のとき。
 放課後の教室で、友達がふざけてリップを貸してくれた。
 笑いながら鏡をのぞいたとき、
 後ろの席の男子が言った。

 「え、それ似合わなくね?」

 周りが笑った。
 冗談だったのはわかってる。
 でも、それ以来、鏡を見るたび少しだけ怖くなった。

「ねぇ、聞いてる?」
 瑠衣の声で、現実に引き戻される。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
 紬は笑ってみせる。
 風が吹いて、紙ナプキンがひらりと膝の上に落ちた。

「もー、ひどいんだから」
 瑠衣がいじけたように唇をとがらせる。
 冗談のようで、でも少しだけ本気の響き。
 紬は思わず小さく笑って、
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃなかったの」と肩をすくめた。

 ほんの少し間があいて、
 沈黙が落ちる前に、紬は話題を変えるように言った。

「ねえ、次の講義の課題、もう出した?」

 瑠衣が顔を上げて、あっけらかんと笑う。
「え? あー、まだ途中! 昨日途中で寝ちゃってさ」
「だよね、私も全然進んでない」
「じゃあさ、今日一緒にやろ? 図書館、空いてると思うし」

 瑠衣の笑顔が、
 胸の奥のざらつきを、そっと撫でていくようだった。
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