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第二章(中半) 日常と記憶の断片
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週の終わり、午後の講義が終わると同時に瑠衣が声をかけてきた。
「ねえ、紬! ちょっと行ってみない?」
「どこに?」
「隣の大学! この前話したイケメンのいるとこ!」
思わず苦笑いがこぼれる。
「……ほんとに行くの?」
「もちろん! だって、話のネタになるじゃん!」
そう言うやいなや、瑠衣はカバンを肩にかけて、さっさと廊下へ出ていった。
「ちょ、ちょっと待って、瑠衣!」
慌ててノートをまとめながら、紬はその背中を追いかける。
廊下の窓から射し込む午後の光が、ふたりの足元を長く伸ばしていた。
――まあ、少し見るくらいなら、いいか。
キャンパスを出て数分後。
瑠衣の後ろ姿を見ながら、
“少し見るくらいならいいか”と思っていた気持ちが、だんだんと揺らいでいく。
人の多い通りを抜けるたび、心の中で小さなため息が増えていった。
「……やっぱり行くの、やめない?」
紬が小さく言うと、瑠衣は振り返りもせずに笑った。
「決まってるじゃん。イケメンなら、見なきゃ損!」
朝よりも少し強くなった陽射しの中、二人の影が歩道に並ぶ。
キャンパスを出て数分。
人通りの多い通りを抜けた先に、別の大学の門が見えてきた。
どこか都会的で、同じ“学生”でも世界が違うように見える。
制服じゃないのに、みんなが映画の中の登場人物みたいだった。
「ちょっと見るだけだからね」
そう言いながらも、瑠衣の歩幅はどんどん速くなる。
紬は小走りでついていく。
「ほら、ぐずぐずしてたら見逃しちゃうよ!」
「……もう、わかったってば」
門をくぐった瞬間、空気が変わった気がした。
芝生の広場は広くて、カフェのテラス席には人が溢れている。
紬の通う大学よりも、どこか“見られること”を意識したような雰囲気。
「ね、あそこ! あのベンチのとこ!」
瑠衣が小さく手を振る。
指さす先にいたのは、黒いシャツに白いイヤホンをつけた男の子。
髪は少し長めで、横顔だけでも整っているのが分かる。
その周りには数人の女子がいて、笑いながら話しかけていた。
彼は軽く返事をしながらも、視線は一度も彼女たちに向かない。
どこか遠くを見ているような、冷たい静けさがあった。
「ほらね? 言ったとおりでしょ」
瑠衣が満足そうに笑う。
紬は小さくうなずきながらも、目を離せなかった。
胸の奥がかすかに疼く。
記憶の底――もう掴めないはずの何かが、ふっと揺れた気がした。
「ねえ、紬! ちょっと行ってみない?」
「どこに?」
「隣の大学! この前話したイケメンのいるとこ!」
思わず苦笑いがこぼれる。
「……ほんとに行くの?」
「もちろん! だって、話のネタになるじゃん!」
そう言うやいなや、瑠衣はカバンを肩にかけて、さっさと廊下へ出ていった。
「ちょ、ちょっと待って、瑠衣!」
慌ててノートをまとめながら、紬はその背中を追いかける。
廊下の窓から射し込む午後の光が、ふたりの足元を長く伸ばしていた。
――まあ、少し見るくらいなら、いいか。
キャンパスを出て数分後。
瑠衣の後ろ姿を見ながら、
“少し見るくらいならいいか”と思っていた気持ちが、だんだんと揺らいでいく。
人の多い通りを抜けるたび、心の中で小さなため息が増えていった。
「……やっぱり行くの、やめない?」
紬が小さく言うと、瑠衣は振り返りもせずに笑った。
「決まってるじゃん。イケメンなら、見なきゃ損!」
朝よりも少し強くなった陽射しの中、二人の影が歩道に並ぶ。
キャンパスを出て数分。
人通りの多い通りを抜けた先に、別の大学の門が見えてきた。
どこか都会的で、同じ“学生”でも世界が違うように見える。
制服じゃないのに、みんなが映画の中の登場人物みたいだった。
「ちょっと見るだけだからね」
そう言いながらも、瑠衣の歩幅はどんどん速くなる。
紬は小走りでついていく。
「ほら、ぐずぐずしてたら見逃しちゃうよ!」
「……もう、わかったってば」
門をくぐった瞬間、空気が変わった気がした。
芝生の広場は広くて、カフェのテラス席には人が溢れている。
紬の通う大学よりも、どこか“見られること”を意識したような雰囲気。
「ね、あそこ! あのベンチのとこ!」
瑠衣が小さく手を振る。
指さす先にいたのは、黒いシャツに白いイヤホンをつけた男の子。
髪は少し長めで、横顔だけでも整っているのが分かる。
その周りには数人の女子がいて、笑いながら話しかけていた。
彼は軽く返事をしながらも、視線は一度も彼女たちに向かない。
どこか遠くを見ているような、冷たい静けさがあった。
「ほらね? 言ったとおりでしょ」
瑠衣が満足そうに笑う。
紬は小さくうなずきながらも、目を離せなかった。
胸の奥がかすかに疼く。
記憶の底――もう掴めないはずの何かが、ふっと揺れた気がした。
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