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しおりを挟む缶の話を終えた後食べ切ろうって事になり、映画を観ながらお菓子を食べて、飲み物を飲んで、
予定通りにのんびりとした時間を過ごす。
最初は距離があったけど、今は腰や肩が触れ合う程に近いと思う。
映画のシーンで、主人公の犬とヒロイン役の犬が、歌いながら愛を誓い合う様子を見てると、彼は新しい飲み物をガラスコップに注ぎながら問い掛けて来た。
「 好みの男とかいるのか? 」
「 好み…ですか?あー……考えたことなかったです。でも…優しいとか、匂いが落ち着くとか…そう言う人が好みだと思います 」
「 ほぅ、見た目とかは? 」
「 見た目…… 」
余り考えた事が無かったと思い、チョコに伸ばしていた手を止めて、何気無く彼の方を向くと、
その左右対称であり、綺麗に整った顔立ちを見て、実感する。
「 おでこ…出してる男性とか、結構好きです…。実那斗さんの髪型とか…。と言うか…実那斗さん、凄くかっこいい方ですよね 」
年齢が私より5、6個上だと聞いたことあるけど、それを感じさせない程に若々しくて肌に毛穴が無いぐらい綺麗な顔をしている。
美容には気を遣ってるらしいけど、生まれながらに恵めれた容姿なんだろう。
「 俺が?麗菜にとって…好みの男に近いのか? 」
「 好みに近い…と言うか、此処まで綺麗な方と会ったこと無いので、比べようがありません…。それに、私の好みなんて言ったら烏滸がましいですし 」
買われた者が、主人に対して好きとか嫌いとか、そんな事を言うのは如何かと思った。
これ以上の話は良くないと察しては、話の話題を変えようと、考える。
「 別に烏滸がましくは無いだろ。俺は、少しでも君の好みに近いなら嬉しいと思う 」
「 え…… 」
咄嗟に会話のネタなんて思いつくはずもなく、彼の言葉にきょとんとしてしまうと、実那斗さんは目線をローテーブルに向け、口元に軽く握った手を添えた。
「 その…ほら、上手く言えないが……。少なからず、嫌な男だと思われたくない…から、な…。こうして、一緒に居るし…… 」
「( この人……実はすごく初心なんだ… )」
照れを隠してるはずなのに、耳は真っ赤に染まってから、相当恥ずかしい台詞を言ったことは自覚してるんだと思った。
好みを聞いてきた本人が照れる様子に、私の方は少しだけ余裕が生まれ、態とらしく顔を寄せた。
「 ッ!? 」
「 獣人と言う以前に…他人の匂いが嫌じゃないって、遺伝子レベルで相性良いみたいですよ。私は、実那斗さんの匂いは落ち着きます 」
肩辺りの匂いを嗅ぎ、改めて嫌いではないと実感をしていると、彼も真似るように、私の髪へと鼻先を寄せ匂いを嗅いだ。
「 遺伝子レベルか、それは聞いたことがある。なら…俺も、麗菜の匂いが落ち着くと思うのは、相性がいいって思っていいのか? 」
「 多分……?実際は如何か、分かりませんけどね 」
そんな話を聞いただけ…。
匂いの相性が良くも、他の面での相性が悪いかも知れない…。
それを少なからず彼も思ったのか、目線が重なると頬へとそっと触れてきた。
壊れ物を扱うように優しく、添える程度に触れる指先に、自らするりと頬を寄せる。
「 もう一つ…私、余り他人に触らるのは好きじゃ無くて…嫌悪感抱くんですけど…。実那斗さんに対して、それを思ったことはないんです… 」
「 そうなのか…? 」
「 はい…。偶に犬の姿の時に撫でてくれますよね、あれ…凄く…嬉しかったりします 」
嬉しいと言わなくても、きっと尻尾を振って喜んでしまってるから、それは気づかれてると思うけど、人の姿でも嫌ではないのは事実。
「 君を、傷つけないよう…俺なりに距離感を考えているから、余り触るは如何かと思っていた。…だが、本当はもっと触れたいと思っているんだ… 」
「 そういう気遣い…優しくて、嬉しいですよ 」
知っていた。
彼や湊さん達の、心配りと気遣いを…。
だから甘やかして、此処に居させて貰ってることも…。
「 俺は、優しくない…… 」
「 優しいですよ… 」
私の掛け走る心拍数より、彼の手が震えてることの方が気になる。
「 …優しいからこそ、疲れてるのに散歩に付き合ってくれたり、こういった物も作ってくれるんです 」
「 ……優しいだけでは、そんなことはしない 」
ちらっと缶の方を見ると、頬に触れていた彼の手は外れ、少しだけ距離を取った事に疑問を抱くと、彼は眉間にシワを寄せていた。
「 そういうものですか…? 」
「 嗚呼、気になってる女性に振り向いて欲しいから……貢ぐんだ 」
「 え…… 」
それは…彼以外の、男性の例え話なのかと思い、一瞬頭が真っ白になると、彼はじっと見詰めてきた。
「 喜んで欲しい…。笑顔が見たい。只、その一心で考えて、物を買っている。最初は、幸せになって欲しいとは思っていたが…… 」
「 ま………っ、て…… 」
それを聞いてしまえば、私はきっと…
彼の優しさと好意に甘えてしまうだろう。
聞かない方がいい言葉と分かっていても、
彼は不器用に、けれど真っ直ぐに言葉を続けた。
「 今は、俺が幸せにしたいと思っている。麗菜…誰よりも幸せにしてやるから……俺を選んでくれないか? 」
「 ………!! 」
その言葉に、呼吸をするのも忘れ、息が詰まった。
時間の全てが止まった気がする程に…。
「 まだ、此処に来て一ヶ月と少ししか経過してないから…こんな事を言うのは戸惑うかも知れないが、俺は本気で…君を妻として迎えたいと思っている 」
「 まっ、て…下さい…。私、買われたんですよ…?世間では…生きてない、死んだ者として扱われてるのに… 」
酷く声が震える。
嬉しいはずなのに、自分の立場が余りにも惨めだから、彼と釣り合わないことを知ってるから…。
「 もう戸籍があるじゃないか。神樹 麗菜。神樹家の娘じゃないか 」
「 それは…。紙だけの、関係では… 」
「 いいや。そんなことは関係ない。戸籍がある以上、誰も君を死んだ者としては扱わない。そして、俺の妻になっても…誰も君の過去を模索したり、追求しない。いや、俺がさせない 」
「 っ……でも、私……貧乏人で… 」
「 そうか?約1260万の貯金と50億の資産を持つ女性だろ 」
落札された金額の半分は、必ず本人に渡されることは聞いていた。
それは資産であり、後々死んだ時に購入者へと返される保険金のようなもの。
だから、大富豪は高額な金額で落札しても気にしないのは、半分の額が戻って来る可能性を考えてだと…
オークションに出品される頃に聞いた。
「 それは…いつか、実那斗さんに戻るお金であって… 」
「 前に、オークションの関係者が来た際…君への口座に入れるよう手続きを終えている 」
「 え…… 」
「 だから俺の金ではない。君の、君が生きる為に得た…金だ。それをどう使うかは…君次第であり、俺が口を出すことはない。疑うなら通帳記入をして見るといい 」
散歩に初めて出た日に、オークションの関係者が来てたことは知っていたけど…。
まさか、そんな手続きすら終えてるとは思わなかった。
彼の言葉に唖然となっては、ある事を思い出しては視線を外す。
「 でも…生まれも育ちも違って… 」
「 確かに、生まれや育ちを今更変えることは出来ないが。俺は元々大富豪じゃない 」
「 え…… 」
「 父はIT企業の社長だった程度で、母はごく普通の専業主婦だ。だが…俺は、他国に新たな企業と工場を設立する事で、大富豪と呼ばれるようになった。今では父より収入がある。一代貴族と呼ばれるものだ 」
淡々と話しながらも、彼は目線を少し逸しては、一つ息を吐いた。
「 それなりの苦労もしたし、工場が付け火によって大規模な火災が起こって、莫大な借金をし、倒産しかけたこともある。学校だって…一般校の普通科だった。別に特別…生まれながらの大富豪ではないから、そういった奴からすれば、上場企業に名が上がった際には…気に入らないと言われていた時もあった…… 」
彼がどことなく、スポーツウェアやラフな格好が似合ったり、公園での遊び方が少年の様に見えた理由も、分かった気がする。
少なからず、社長と呼ばれるようになるまで…
それこそ、学生の頃は湊さんと過ごしてる時に笑ってるような、ごくごく普通の男子生徒だったのだろう。
「 大切な人を守る為に…俺には金が必要だった。父が社長だから…なんて、そう言った肩書きを消す程に、俺自身の力で成功する必要があったんだ。今は、大富豪と言われるが……そんな事は如何でもいい。俺は…只の一人の男であり…"実那斗"として、君を愛したいんだ 」
「 !! 」
父親から自立をする為…。
成功するかも分からない、蛇の道を突き進んだ。
本人の絶対に成功させるって言う強い意志で…。
「 やっぱり…私には、実那斗さんには釣り合いませんよ…。だって私は、母から…自立出来なかった…。社長である、貴方をこれから…妻として支えていく自信など…ありませんよ… 」
「 そんな事は必要無い。俺はずっと自分の力で生きてきた。そりゃ使用人を多く雇って家事は任せっきりだが、金があるんだからそれでいいじゃないか。俺は只……俺の側で、麗菜に笑っていて欲しいんだ 」
彼はすごくよく頑張ってきたのだろう…。
それなのにもっと…私の事で、負担をかけてしまう。
何故それが、分からなかったのだろうか…。
私が子供だから?無知だから?獣人だから?
「 側にいる事も、笑ってる事も出来ます。犬としてなら、癒やしを与える事も出来ます。でも、妻は…もっと相応しい人がいると思います 」
「 そんな…… 」
「 ごめんなさい……。私は…買われた者と主と言う立場で満足しています…それ以上の立場は、求めないでください… 」
優しい彼を傷付けると分かっていて、その場で軽く頭を下げた。
人の姿で、彼を魅了してしまうなら…
私は人でない方が良いと思う。
断った事で、彼は自らの顔に手を置き、感情を押し殺すような声で告げた。
「 そうか……分かった。今日はもう…帰っていい 」
「 はい……。お時間頂きありがとうございました…。後ゆっくり、お休み下さい 」
その場にいた時間は、3時間もいなかったかもしれない。
楽しい時間を壊した私が悪い……。
そう、分かっているけど…。
「( 私は、彼の妻には…相応しくない… )」
それを理解して欲しい……。
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