女王蜂転生〜 色彩の書 〜

獅月 クロ

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十話 初めての卵に会う

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此所に来て、四ヶ月と二週間

ついに、その日がやって来るみたいで周りの話からすれば「ネイビー様が落ち着きが無く不機嫌になっている、そろそろでしょう」なんて言ってたから

出産に立ち会った事のあるハクと、もう一人の世話役が出産専用の部屋に入ってるのだが、怖い位に中から激しい音がする

「 ちょっ、ネイビー様!落ち着いてください! 」

「 気を沈めて! 」

「 グルルルッ…… 」

そして、ハクと世話役以外に獣の唸り声が響くことにどうなってるのが想像をしたくないほど、青ざめしまう

『( 獣って産むまでうろうろするんだ! )』

人間という考えを止めて、獣だと思えば納得できる
じゃ、中にいるのは本来の姿に変わったネイビーだろうかと想像すればそれはそれで気になる!

「 ほほぉ~、ネイビーの奴は暴れてるねぇ。初めての時は落ち着きが無い者が多いけど…… 」

『 サタン!?いつのまに…… 』

声がした方に驚いて顔を向ければ、そこには楽しそうに口角を上げている父親であり、サタンの姿があった
初めて此所で会った日から見なかったし、存在すら忘れてたが、やっぱり立派な雄ってぐらいにオーラがある

『 というか……中は大丈夫? 』

「 まぁ、そうだね……暴れて、卵割っちゃうなんて俺もあったから、落ち着かせに行ってみる? 」

『 へ?行ってみるって……へ? 』

「 ほら、女王蜂の役目の一つ。フェロモンで落ち着かせてみて~ 」

『 えっ、ちょっ!? 』

やり方とか色々聞く前に、扉を開けたサタンはそそくさ俺の背中を押して、中へと押し込んだ
いい加減というか、外で待ちますって言ったばかりの俺が入っただけで怒られそうなんだが

中へと入れば唸り声とかは一旦消えて、視線が此方へと向かれた

産みやすいように、部屋全体は薄暗くて暴れやすいように物は無い
床に敷かれていたカーペットやら毛布やらは既にボロボロに引き裂かれてるぐらい、荒れたのだろ

「 ルイ様!?危ないですよ! 」

『 まぁ、だよね……いいよ。ちょっと二人とも出てくれるか? 』

「「 女王様の御命令なら…… 」」

御命令と言うよりお願いなんだが、まぁ…言い訳しなくて済むから丁度いいか
産みそうなら呼ぶ、と伝えてから外へと二人を出せば、唸る声のする方へと視線を戻す

『 ネイビー、付き添うことにした。嫌か? 』

「 グルルルッ……余裕がない……。御前を、咬みたくはない 」

『 咬まれても回復するし、大丈夫 』

二つの目が金色に光り、僅かに動いたのを見てからゆっくりと近付く
怖くないと言えば嘘になるが、産むときにキツいのは野良猫を見て知っている

カーペットやら布を噛み付いたり、爪で掻く動作をしてるネイビーへと近付けば、手を伸ばし取り敢えずどこかいまいち分からないが、触れてみた

「 っ……余り、この姿を見られたくないんだが…… 」

『 猫っぽいから? 』

触り心地は分厚くフワフワしたダブルコートの犬の毛みたいだが、短い毛がびっしりと生えている
猫科にしては爪は伸び、隠せないよう

「 あぁ…… 」

僅かに動いた彼と、部屋の薄暗さに慣れてきた目はその姿を捉えた

『 えっ……へ? 』

自分が予測していたより、大きな姿なんだと知った
そして、その姿はサーベルタイガーの様な鋭い二本の長い犬歯に、彼の普段持つ角より立派で大きいのが生え、短い尻尾はオオヤマネコの様に多少伸びていた
角がなければサーベルタイガーとかオオヤマネコみたいな外見だが、その辺の虎より一回りはデカイ事に唖然となる

『 デカイな…… 』

「 見た目は……嫌いではないか? 」

『 全然!かっこ良くて好きだよ 』

尖った獣耳とか大きな肉球の持つ手もかっこ良くて可愛いと思い、素直に言えば金色の目は細くなり俺の身体へと顔を寄せてきた

「 そうか……ならいい…… 」

『 嗚呼…… 』

出産前だからデレ期か!?
いつもなら絶対に嫌がりそうな程に、両手で顔を抱き締めて額へと上半身を当てれば、彼は動き一旦離れてから適当に横たわった

「 ……いつもみたいに、腹を触ってくれ…… 」

『 ん、いいぜ 』

やっぱりキツいもんな、孕ませるだけ後は任せきることなんて出来無くて
横たわった彼の腹側へと移動し、膨らみから腹下へと撫でれば、それに合わせて僅かに股を開いたのが分かる
猫で言う、横になったまま腹を見せるような動作に可愛いと思いながら撫でていれば、彼の呼吸が荒くなってきた

「 はっ、はっ……ハッ、はぁっ…… 」

『( キツそうだな……でも、俺が出来る事って無いんだよな…… )』

こんなことなら出産ぐらい一度は体験した方が良かったんじゃ無いかって思うほどに
彼の様子に眉は寄る

腹を撫でていれば、最初より下がって来て、ゆっくり時間かけて産むのだと知る

「 はぁ、きつっ…… 」

起き上がり、身体を丸めて下半身を舐めてはもう一度俺の前で横たわる彼は、戸惑ってるようにも見える
腹だけではなく背中から尾てい骨辺りを撫でれば、気持ちよさげな声を漏らすのが聞こえ、それとなく彼は告げる

「 怪我をするときより痛くは無いんだが……なんだろうか、変な感覚がするんだ……。怠くて、キツい…… 」

痛みより気だるさの方が強いのか、
あぁ……産まれると分かってるのに中々産まれないことに苛立ちがあるんだと気付く

『 産まれなくて苛々するんだな? 』

「 嗚呼……さっさと出てくりゃいいのに…… 」

『 今は、陣痛ってやつさ 』

「 これが、陣痛ってやつか……っ…… 」

陣痛はご存知でしたか、きっと身体に合わせて穴が開ききるまで時間が掛かるのだろうから
其まで苛ついても、暴れないように俺が宥める必要があるってことか
サタンは産まれてから卵を割ったなんて言ってたぐらいだし、ネイビーもうろうろする様子に割ってしまうかも知れない

そう思うと、なんとか宥めようと腹を撫でながら話をする

『 ネイビーが初の子を産むんだよ。この子は長男になるんだ 』

「 嗚呼……最初はサタンに言われ妊娠を許可したが……今は、俺の意思で……次の子を望む 」

『 えっ? 』

突然と言われた言葉に驚いて、視線を向ければ彼は地面に下ろしていた顔を上げ、此方へと視線をやる

「 御前に、産んでくれと言われたいと思ったんだ……ハクや彼奴が……少しだけ、羨ましいと思った…… 」

『 ……そう、なら……一回目の出産ぐらいでくたびれないでな 』

何処で情報が行くかは分からないが、俺が声をかけて妊娠してる事は知ってるのだろ
珍しく、彼の口から"部下を増やしたい"とか"国のため"なんて言わなかったことに無意識に照れて口元を緩めば、彼は横たわり軽く身体に力を込める

「 はぁ、あぁ……そうだな……っ…… 」

『 産まれそうだな、ハクを呼んで 』

「 呼ぶな……御前だけでいい……傍にいてくれ…… 」

『 っ、スマホがあったら録音してた 』

意味分からんと呟かれ、俺は綺麗なバスタオルを掴み足元へと行けば、起き上がった彼は猫ウンコをするときのように背中を丸めて、尻尾を上げ踏ん張れば俺は、バスタオルを広げ開く孔へと軽く添えて、卵を受け止める準備をした

「 っ~~!! 」

流石、卵……見た目はそんなグロく無いと紺色の卵の先端が見えてくれば告げる

『 ネイビー、もう少し頑張って!そう、頑張って! 』

力を込めた彼によって、見た目は猫だけど、鶏の様に楕円形の卵がポンっと産まれた
バスタオルで支えれば、彼の身体は倒れ息を吐く

「 はぁ、デカイ……ウンコをした、気分だ 」

『 ウンコって……ふっ、お疲れ様……この卵どうすればいいんだ? 』

やっぱりウンコなんだ……と思いながらも
拭いていいのか分からず、獣なら舐めるだろうと顔の方に持ってくれば、そっぽを向かれた

「 外にいる、彼奴等に渡してくれ……勝手に産まれる 」

『 えっ、温めるとか必要ない? 』

「 全く無い…… 」

『 じゃ、俺が持ってていい?一緒に寝る! 』

「 ……好きにしろ、変な女王蜂だな…… 」

卵を温める必要がないなら、このままでもいいんだなって思い軽くバスタオルで拭いてから抱き締めれば、彼は呼吸を整え落ち着けば人の姿へと戻り、脱ぎ捨てていた服を掴み立ち上がる

「 俺は任務に戻る……魔力が回復したら二人目を誘う 」

『 えっ、ちょっ……もう動けるのか!? 』

「 当たり前だ。そんなデカい異物が無くなったからな。動けない方が可笑しい 」

『( いや、直後に動ける方が可笑しいって…… )』

流石、獣……って言っていいのか分からないが服を羽織った程度のネイビーは扉を開け、彼等にジェスチャーで俺の方へと親指を向ければそのまま何処かへと立ち去った

余りにも卵に関しての愛情が無いことに、ちょっと寂しくなりダチョウの卵ぐらいの大きさはある、これを抱いてハク達の元に行けば彼等は笑みを向けてきた

「 女王蜂の初めてのお子さんですね!おめでとうございます!! 」

「 紺色の卵、ネイビーさん似かな?おめでとうございます! 」

『 あ、うん……これをずっと傍に置きたいんだけど……いいかな? 』

「 はい!では洗って綺麗にしてから部屋の方に御持ちしますので。待っていて下さいね 」

あれ……二人とも、ネイビーに褒めた様子は無かった
なのに、まるで俺が産んだ事のように部屋に戻る最中も他の魔物達に言われた

女王様の初めてのお子さん、おめでとうございます

その言葉を聞く度に、誰一人父親が誰であろうとどうでもいいように聞こえる

ネイビーも特に気にもせず、任務に行くのだから妊娠した彼等にとって、一番の思いは産むときの苛立ちだけなのだろ

『( それは、寂しいな…… )』

綺麗にされてから、ハクから受け取った卵
この形からいつ生まれるか分からないが、紺色の卵には虎柄のような模様が入り
初めて触ったときより、卵の殻が硬くなるのが分かる

『 ネイビーとの子には変わりないし……我が子の顔が気になるよ…… 』

妊娠期間より短いと聞いたが、いつのタイミングで生まれてくるか分からないために
何処にいくにもかごに毛布を入れて、その上に乗せて歩いていれば、魔物達からはピクニック?とばかりに笑われた

「 ルイ様、卵のサンドイッチでもお作りになるのですか? 」

「 鳥の卵でしたら他にもございますのに 」

『 これは食べないからな! 』

そんなに持ち歩くのは可笑しいだろうか、俺が卵を大切にして歩いていれば、影から現れた人物は、背後に立ち羽を気を付け抱き締めてきた

『 なっ!?っ…… 』

「 そろそろ、二人目……欲しくないか?なぁ、ルイ 」

『 っ~!気が早く無いか!? 』

「 一週間は経過した。なぁ、どうだ? 」

ネイビーってこんなに積極的だったけ?
疑問に思ってから、視線を卵に落としてから顔を上げれば彼は俺の角に口付けをし、目線を向けた

『 ん……ネイビーとの、二人目ほしい……子作りしよ? 』

「 嗚呼、もちろん。喜んで 」

我が子の顔をまだ見てないまま、二人目を望んでいいのだろうか
それに、ハクやブラオンはまだ妊娠中だ

この頻度に慣れないといけないな思いながら
俺はネイビーと二人目を望んでしまった

彼等に……子作りや卵に関しての愛情は何一つ無い

只巣が大きくなることを望み、味方が増えることが嬉しいと思うだけ

俺の人間だった頃の無駄な感情だけが、先に歩いていく

そして、俺の有り余る愛情を子供達が受け取るのかも分からない

パキッ……

ネイビーとの行為中、部屋に置いてきた卵にヒビが入ったことを、
俺はまだ知らなかった

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