女王蜂転生〜 色彩の書 〜

獅月 クロ

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十三話 役目放棄は大罪

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腹に感じた事もない熱く焼けるような痛みと共に、引き抜いたサタンの手が赤く染まってる事に目を見開けば、彼は羽を掴み、玉座から床へと飛ばすように落とした

『 いっ……っ、ゴホッ…… 』

階段を転げ落ち、血痕が点々と残り
咳をする度に口から垂れ落ちる血に目を見開き、片手を腹へと当てれば、生暖かい物が落ちてくる

「 衛兵!! 」

「「 はっ!! 」」

『 っ…… 』

サタンの声と共に、離れていた衛兵達は直ぐに走って玉座に入ってきた
ずらっと並んだ衛兵の中の後に、ネイビーの姿が見えた

「 なっ……!? 」

驚いてる彼の表情を横目で見てから、サタンの方を見上げれば、彼は手についた血を舐めては階段をゆっくりと降りていく

「 女王蜂が繁殖をしたくないらしい。困ったねぇ、それがどんな結果になるか教えてあげようと思うんだ。女王蜂が逃げないように見ててね 」

「「 はっ!! 」」

女王蜂だろうとサタンには勝てないし、彼等が俺の味方にするようには見えない

これが繁殖の為に生かされてる、女王蜂なのかと思えばサタンは鞘から剣を抜き矛先を向けてきた

「 手っ取り早く、女王蜂って美味しいことを教えて上げるよ 」

『 っ……がっ、いっ、ぁ、ぐっ!! 』

頬を蹴られ、身体が横へと倒れれば、背中を踏まれ、羽を掴まれた事に目を見開く
魔物だからなのか、死ぬほどの痛みがある筈なのに、そこまで泣き叫ぶほど痛くはないが
迫る恐怖やら、雄を嫌う方が強くて抵抗出来ず身体は震える

床に広がる血は赤いカーペットに染みを作り広がり、彼は一番大きな左側の最初の羽を掴めば、剣を振り下げた

『 っ!!あぁぁぁあぁあっ!! 』

腹に感じた痛みより、強く鋭い痛みに声を上げ
悲鳴が玉座に響き、泣くことは無いと思っていた涙は溢れ落ち右手で肩に触れ、痛みと飛べなくなった事に声は上がり、呼吸は荒くなる

「 孕ませるだけの女王蜂に羽なんていらないよねぇ~?ふふっ、次……こっち 」

『 やめっ、やっ……いっ、ああぁぁあぁあっ!! 』

左右の羽が切り落とされ、口から垂れる血を拭くこと無く、床へと頬を擦り付け、痛みで涙を溢し、目線を横へと向ければ血の付いた羽は根元から切り落とされ落ちていた

『 ひっ、ぁ、あっ……ぁあっ…… 』

「 心入れ換えた?繁殖するよね? 」

『 っ……する……するから、もう、やめて……いっ、ぁ、ぐっ! 』

「 じゃ、試しに俺と繁殖しようか。ほら……望んで? 」

向けられた剣がまた羽を落とすことを想像すれば、それ以上の痛みと恐怖は他には無くて
涙と血で濡れた顔で、告げる

『 俺の、子を……うんで……っ…… 』

「 もちろん、パパが産んで上げる 」

本当にこの人が事が嫌いになりそうだ
涙で濡れた顔を床へと当て、背中を踏んでる脚を退かす事なく、彼は軽く笑い飛ばし剣の矛先を貫いた腹へと突き刺した

『 っ!!がっ、はっ…… 』

「 じゃ、俺は準備があるから去るよ。この剣……頑張って抜いてもらって?まぁ、君の痛がる顔を平気で抜ける奴がいるなら、相当だけどね~ 」

『 まっ、っ…… 』

抜いてから立ち去って欲しい
それはまるで、ネイビーが泣いて二人目を望んだ時と似てるじゃないか
立ち去る背中を止める術など知らなくて、只取り残される痛みは心に刺さる矢の方が痛い

サタンが羽を持ち去るのに合わせて、衛兵達もまた姿を消した
あの羽を食らうのか知らないが、そんな事より床と共に刺さった剣を抜く方が先だと思い、僅かでも動こうとすれば貫いた痛みが走り、口から血を吐き出す

『 がはっ……だれ、か……ぬいて…… 』

「 っ……ルイ…… 」

「 ルイ様!! 」

聞こえてきたネイビーとハクの声は耳に届くも、視界がぼやけて、どこにいるのか上手く見えない
だが、抜けば腹の傷ぐらいなら回復していくのが分かるためにさっさと抜いて欲しい

『 ぬけ……ぬいて…… 』

「 っ……血が……私には、出来ません…… 」

「 ルイ、俺がやる……動かすからな……? 」

『 あぁ……いっ、ぁあっ!!がはっ……! 』

「 っ……! 」

ハクは出来なかったらしいが、ネイビーが変わりに剣を密かに動かせば、痛みで掠れた声を上げ血は床を更に色濃く染めていく

「 剣が深く床に刺さりすぎてる……動かすと下手したら死ぬぞ 」

「 じゃ、どうすればいいんですか!?サタン様はなんて事を…… 」

「 サタン様の事はいい。今はルイだ 」

まるで勇者の剣を抜けるか、どうかを試してる人みたいだよな
痛みで朦朧としてきた感覚と共に玉座の扉は開いた

「 あれれ~。衛兵が少ないと思ったら、何事?随分と楽しそうじゃん 」

『 !! 』

「 かあ、さん……ごめん、なさい…… 」

片膝を付き、座ってる彼等の隙間から入り口へと見れば、肩に担がれていたルビーは傷だらけで床へと落とされ

そして、何よりも聞いたことのある声に目を見開く

「 こんな時に勇者か!?衛兵!!侵入者だ!!ハク、御前は女王蜂を守れ!! 」

「 分かりました! 」

「 いつの間にか勇者って呼ばれてるけど、魔界の宝を殺しに来たよ。丁度いい……首を落として帰ろうか 」

何故、なんで……その顔と声をしてるんだ……

此所は魔界であり、俺は前世では死んでるの……

平然と歩いてくる白いマントを着けた青年は、二本の剣を腰から引き抜けば、ネイビーが告げた衛兵を他所に向かって来るものから斬っていく

「 ガハッ!! 」

「 なっ、がっ……! 」

「 五人ほど魔王クラスの魔物を殺してきた俺に、下級の魔物(衛兵)じゃ、通用しないよ? 」

「 チッ…… 」

ブラオンの姿が無く、ハクも引いてるのを見れば何か原因があるのだと知る
ネイビーは一度こっちを見た後に、三十人は居た衛兵達が倒れたのを見て、口元布を持ち上げ剣を抜く

「 ならば…俺が相手になろう 」

「 その後ろにいる白髪さんは妊娠中かな。そして君は妊娠経験あるね? 」

「「 !! 」」

「 ビンゴ。増やされても困るらしいから、殺すね 」

嗚呼、ネイビーやハクが先に動かなかったのは妊娠出来る雄であり、そして妊娠してるからでもあるのか 
ならブラオンはきっと逃げてるに違いない
 
崩壊しかけた巣に、押し入った一匹の敵に此処にいる魔物達は歯が立たないのだと見て分かる

「 さて、案内ありがとう…… 」

「 !! 」 

『 いっ、や……そん、な…… 』

密かに手を伸ばした時には、ルビーの首は刎ねられた
転がった彼の頭に目を見開き、言葉に鳴らない獣の悲鳴を上げた俺に彼等の視線は此方へと向いた

「 まだ産んだ回数が少ないみたいだけど…… 」

「 だまれ……黙れ!! 」

「 怒りに任せて向かってくるのは良くないよ、あ、もしかして君の子供だったり?それはごめんね~ 」

「 黙れ!! 」

怒りに任せるように、ネイビーは剣を握り締め突っ込んでいく
動きが荒い、ネイビーを他所に勇者と呼ばれる青年の動きには無駄がなく、防戦一方に見えて楽しんでるようにも見える

何故御前が此処に……なんて言葉は言う前に硬直してるハクの服を掴む

『 は、く…… 』

「 っ、はい……なんですか? 」

『 ぬいて……けんを…… 』

「 わかり、ました……直ぐに、抜きます… 」

もう抜く人がハクしかいない
ネイビーは勇者の気を逸らす事しか出来いし、こっちを守れるほど心に余裕がない

だからこそ、ハクに頼めば彼は眉を下げ深く呼吸を整えてから剣を掴み引き上げた

『 っ~~!! 』

「 もう少し、頑張ってください……! 」

裂けるような痛みに目を見開き、ぐっと奥歯を噛み締めれば背中から抜かれた剣は床へと落ち、ハクは肩に触れる

「 抜けました……直ぐに逃げましょう。貴方がいればまた巣は元に戻ります 」

『 はぁっ……ルビーや、ネイビーは……? 』

「 ……貴方の命に比べたら…… 」

サタンに殺されかけたこの命より、ネイビーやルビーの方が軽いものだと言うのか
倒れていった衛兵より、重いものなのか……

そんなに彼等にとって、女王蜂は大切なのか……

数多くの働き蜂が死のうと、一匹の女王蜂を守るために命を懸けるのか、そんなの可笑しくないか

『 はっ、ネイビー……ネイビー、引け!! 』

「 っ、なっ!? 」

声が届いたらしく、後ろに下がったネイビーは早々に此方に駆け寄れば薄い傷が何ヵ所もある彼は、俺を守るように前に立ち、剣を向けたまま告げる

「 全員で逃げることは出来ないぞ。勇者に勝てるのはサタンだけだ…… 」

「 そのサタンが出てこないんじゃ意味無いよね~。ほら、全員が死ぬ前に女王蜂をくれた方がいいよ? 」

ハクが何気無く、サタンが出てこないのは繁殖の準備に入ったからであり、明日までは出てこないだろうと
そんな日付が変わるまで、勇者とヤりあえる実力を持ってる者は此処にはいない

「 ルイ……一つ、逃げる方法がある 」

『 何? 』

ネイビーは静かな声で、そのやり方を告げた
ハクも知っていたかのように、内容に目線を下げ俺の判断を待った

それは……女王蜂の命令でこの城にいる全ての雄に、勇者を攻撃する指令を出せば、勇者が気を逸らしてる間に逃げれるかも知れないってこと……

つまり、一匹の女王蜂と繁殖出来る雄を連れて逃げて隠れて、一から国を造るってことになる

俺の為に……だが、俺が此処にいる以上、二人は戦おうとするだろ

「 御前とハク、またはブラオンだけでも生き残ればいい。サタンは見付からないだろが……だから、俺達の為に逃げてくれ 」

『 っ……そんな、全員を犠牲にして、逃げれるわけ無いだろ……! 』

「 御前は女王蜂だろ!!御前が居なければ、次の女王蜂が生まれないんだ! 」

僅かに声を上げたネイビーに、俺の身体は跳ねた
怒られたのだと分かるより、次の女王蜂に期待されたような言葉、彼には魔界を取り戻す事しか考えてないことに寂しくなる

「 ルイ様、逃げましょう……! 」

「 逃げても追うけどね。そう、頼まれてるし……話終わった?結構、待ってあげてるだけどさ 」

俺は何も逃げることしか出来ないのか……

相手は、顔と声は知ってる奴だ……

気付いてないかもしれない、別人かも知れないと思うが、一つの賭けに出た

『 アラン!! 』

「 ん? 」

名を呼んだ俺に、彼は僅かに反応すればネイビーの後ろから出て姿を見せた

『 アラン……だよな?俺は、ルイだよ 』

止めようとしたネイビーの手が止まり、アランの表情は俺を見た後に、仮面のような笑みは消えた

「 女王蜂が……ルイ? 」

これは俺の賭け、どうか……思い出して欲しい

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