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一章 聖獣への道のり編
08
しおりを挟む何処までも冷たく氷った氷河の世界が広がる
歩いても、歩いても真っ白な氷の上で
清みきった空気は息を白し、空は雲一つ無い青空
いつしか左右の感覚が無くなり、歩く必要性を感じることが無く、只その場に立ち尽くし
止まった思考を回転させる
『 俺は…… 』
自分の身体を見れば、人型の姿で元々こういう見た目じゃ無かったかと思うが
此は生の神様が与えた仮の姿、満月が出なければ得ることの無い姿だったのに……
『 何故、人の姿になれてるのか…… 』
空を見上げても太陽も月もない、只の青空であり、昼だと思っていたのだが、この姿になれるってことは夜なのかも知れない
『 わから、ないな…… 』
人型の姿になっている理由すら考えても仕方無いと思う様になるまでに、
どれぐらいの" 時" を此所で過ごしてるのだろうか
『 寒いのには慣れたのに、此所は……孤独だな 』
一人は嫌いなのに一人になって、誰かを探しても、誰を探してたのか分からないで
回転する脳ですら凍り付いた様に何も考えれなくなる
座り込み膝を抱えて、考える事も動く事も無くなり、眠ってるのか分からないまま
重い目蓋を持ち上げた時には、目の前に倒れてる獣を見掛けた
『 これは…… 』
凍りついた身体を地面から引き離し
氷の割れる音と共に、自然と足は動き獣の傍へと立っていた
黒い体毛は僅かに灰色掛かり、犬よりももっと大きな体格は今は動く様子は無く
立派な爪も牙も持ち合わせているのに、何処かまだ成長途中に見える
何かの本で見た、ハイイロオオカミの様な獣へと、そっと手を伸ばしその肩辺りへと触れた
『 ……硬い 』
案外、この獣の毛は指が沈むほどにダブルコートであり外の毛は硬くとも、中は綿毛の様に柔らかい
分厚いコートを着てるような毛は温かみを持ち
何度か撫でていれば、獣は目を開きゆっくりと首を持ち上げた
狼に触れ、咬まれるかも知れない
そう思って、触っていた手を硬直させ動くことを止めれば狼の視線は俺と重なり、じっと見詰めてきた
顔立ちは狼そのものだが、耳は風の抵抗を無くし寒さを乗り越えるように小さくなった北極狐の様で、マズルもまた長いとは言えないほど
何処か可愛さの残る丸みのある輪郭と、ウルフアイ型の瞳は深い海のように清んでいる
『 御前は、こういう顔をしてたのか…… 』
ふっとそんな事を思い口走り、知ってる様で思い出せない狼の外見
硬直していた指先を僅かに動かせ、そっと狼の頬へと触れれば、獣は目を細めすり寄ってきた
手の平に感じる毛並みの柔らかさ、温かさに口元が緩めば
狼は手から離れ、自らの腹へと顔を下げ、下腹当たりを舐め始める
『 なにか怪我をしてるのか?それとも、気になって……えっ…… 』
心配していれば腹に感じる生暖かい感覚、溢れるように流れる物に腹下へと手を置けば
服の上からでも滲み出るそれは、手の平を赤く染め上げた
『 っ……血……? 』
痛みは無いのに血は止めどなく溢れ出て、真っ白な世界を赤く染めていく
目の前にいた狼は此方を向き、その瞳は何処か悲しげな表情を見せれば俺の方へと歩いてきた
身体に入るようにスッと姿を消した狼に、辺りを見ても姿がなく
自分の腹下へと視線を戻せば、其処には服ではなく酷い傷がある獣の毛と身体が見える
『 なにが、どうなって……っ!! 』
片手を上げれば血の付いた獣の足、背中をみればあのダブルコートを持つ毛並みと尻尾
俺が獣の姿になっていると分かった時には走り出していた
地面を点々と赤い血で染めていき、白い世界を真っ黒に染めていく
『 はぁっ、何故、俺は…… 』
" コウガ……帰ってこい "
『 なっ、誰だ!? 』
俺は誰で、何故獣の姿で、此処にいる
走っても真っ黒な世界は全てを飲み込み、何も見えなくなったときに聞こえた僅かな声
低く落ち着きのある声は、何処か悲しそうで
誰だ!?と顔を上げ声のする方を聞けば
男の声は同じ言葉を告げた
" コウガ……もう、帰ってこい "
『 帰る……何処に…… 』
" 神の庭 にある、俺達の寝床に…… "
『 寝床……ぁ、っ…… 』
聞き覚えのある単語と言葉に気付いた時には
血の原因も、獣の姿なのかも理解出来た
止まっていた時間は動き出した様に
真っ暗な空間はヒビの入った音を立て割れていく
『 っ、シロ……ごめん…… 』
俺は大切な宝を奪われた
とても、大切で大事にしていたもの
それはもうこの身体には無く、取られたことに
気付き、苦しくて寂しくて" 帰りたい "と望んだ時には
姿は人型へと戻っていた
「 やっと、目を覚ましたな……ナイト 」
部屋に差し込む月明かり
椅子に座り、目の前にいた青年は柔らかく笑みを浮かべ
ゆっくりと立ち上がり、俺の頬へと触れた
彼はこんなにも背が高かっただろうか……
『 レン、俺は…… 』
「 考えなくていい。故郷に帰りな……、ナイト 」
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