最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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19話

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 何度か説明を繰り返し、やっと状況を理解したノエルは暫く言葉を失って黙り込んだ。

「‥‥その、私が考えているのは、瓶などに血を入れてバートン卿にお届けするという方法です。それをノエルに運んでもらおうかと」

「なるほど‥。それなら皇女様に危害が加わることはないですね。‥‥‥あ、しかし‥やはり駄目です」

 バートン卿は眉を下げ、ふりふりと頭を振った。

「何が駄目なのですか?」

「皇女様の肌を傷つけてしまうことになります。‥吸血行動による怪我は、恐らく私が舐めることで傷跡が消えるようでしたが、予め血を抜くとなるとその際の傷は残ってしまいます」

 確かにこの間血を吸われた後、破られた筈の肌は綺麗さっぱり治ってた。

「‥‥いや、構わないわ。正直今の私に政治的な利用価値もないでしょうから、どこかに嫁ぐことって多分ないと思うのよね」

 普通の姫であれば、他国に嫁ぐことでその国との繋がりを持てたり、より強固なものにできるかもしれないけど‥私を嫁がせる=爆弾を送りつけるようなもの。
 政略結婚に利用することができないほどのお荷物だわ。

「‥嫁がないから傷がついていてもいいと‥?」

「えぇ。それに月に一度だし、大丈夫よ」

「‥‥駄目です。月に一度でも、この先何回も繰り返されれば‥皇女様の体は傷だらけになります。‥やはり、私が死ぬのが合理的ですね。私に関わることは、皇女様にとって不都合しかありません」

 バートン卿はそう言って剣を鞘から抜こうとした。その表情はやけに落ち着いていて、まるで当たり前のことを平然と口にしているように見えた。

「ま、待ってください。なんでそうなるんですか?!」
 
 そんなに簡単に“死”という選択があったなら、どうして今までその選択肢を選ばなかったんだろう。
 いや、決して“死”を肯定しているわけではないけど、あまりにも簡単に死を選ぼうとするバートン卿に何か違和感を感じる。

「ーー騎士団長としてこの離宮の近くに屯所を構えているのは、皇帝からの命令でした。‥皇女様の身を守る為、また、皇女様を見限るという判断をした場合、私のこの手で皇女様を討つ為‥」

 つまりお父様は私の命をバートン卿に握らせていたってことね。‥見放されているなんて分かっていたことだけど、ずきんと心が痛くなる。

「‥魔女に魔法を掛けられて屈辱な思いをしてきました。ですが、私には魔女を討つという責務が残っていました。‥結果、魔女を討つことは出来ませんでしたが、魔女と繋がりがある私は一番魔女を殺す機会があると思い、耐えてきたのです」

 バートン卿はやけにすっきりとした表情で伏せ目がちにそう言った。
 私から魔女が消えたことで、重荷が消えたのかもしれない。長年屈辱な思いをし続けながらも生き抜いてきたけど、もうその理由もなくなったとでも言いたいのかな。

「‥‥じゃあ、満月の夜はさ?俺が騎士団長の体を縛って、皇女様がその後に騎士団長に血を吸われて、んで、そこでペロペロって感じで傷消せば良くない?」

 バートン卿の重い話を聞いていなかったかのように、ノエルはサラッと軽く話を戻してしまった。
 いや、うん。かなりのグッジョブね。あのままじゃバートン卿は死ぬことしか考えなくなっていたと思うし。

「‥いや、だから、私は血を飲むと理性が弾け飛んでしまうから‥」

「だから、縄で縛ってるし、俺が近くで皇女様の身を守ってあげるから大丈夫だよ」

「っ‥!」

 さっきまで表情を崩さなかったバートン卿が、ここにきてやっと困ったように言い淀んだ。

「それはいい案だと思うわ」

 私がノエルの提案に乗っかると、バートン卿は「いや、」と焦ったように声を出した。

「‥そもそも、私のことは放って頂いて構いません。先程も申しましたが、皇女様にとって不都合しかありません」

 私が口を開こうとしたその時、ノエルはやれやれといった様子でわざとらしくため息を吐いた。

「皇女様は昔から誰にでも優しいんだよ。毎月騎士団長が困るの分かってて放っておけるわけないじゃん」

 ノエルは腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。得意げである。

「ノ、ノエル‥」

「しかし‥」

 困ったように眉を下げ始めたバートン卿に、何故かドヤ顔をし続けているノエル。2人ともつい最近まで超危険人物だったのに不思議だなぁ。

「満月の夜、魔女はどうやってバートン卿に会いに行ってたのですか?」

「あ‥それは、空飛ぶ箒で‥」

「空飛ぶ箒?!‥‥次回の満月の夜はどうやって合流しましょう。騎士たちの目があるので夜間に抜け出すことはできませんし‥バートン卿に夜に来て頂くのも不自然です」

 ドヤ顔をし続けていたノエルが、あっと声をあげた。どうやらまた何か閃いたみたい。

「バートン卿も、普段から離宮で生活すればいいじゃん。そしたらほら、気兼ねなく吸血できるよ」

「「えっ」」

 私とバートン卿の声が被った。2人とも、“不本意なんですが”という意が込められた声だった。

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