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22話
しおりを挟むドキドキしながらもピアノの練習を今まで以上に頑張りながら、あっという間に3日が経った。
たぶんこの3日間は1日合計20時間くらいは練習していたかもしれない。
ドラージュ公爵家行きの馬車に乗り込む。私はその馬車の中で覆面になった。ドレスはシックな黒色ベースのものにした。少し地味すぎる気もするけど、パーティー自体に参加するわけじゃないからド派手でフリフリなドレスを着るわけにもいかないし。
ちなみにこのシックなドレスはサリーにお願いして既製品を買い付けて貰ったものだった。魔女好みのドレスを元手に買ったけど、結構なお釣りも返ってきた。
ちなみに馬車の中にはノエルとバートン卿とベルタの3人も一緒に乗っている。
‥でも、私の正体がバレてはいけないから、この3人も覆面をつけて私の側にいてくれることになってる。みんなの顔が見られてしまえば覆面ピアニストが私だってバレてしまうかもしれないから仕方ないけど、不思議な光景だわ‥。
「‥‥緊張されていますか?」
バートン卿は覆面から長い髪が見えないよう、後ろ髪を団子にしている。バートン卿が被る覆面は、すっぽりと頭全体を覆う鴉をモチーフにしたような覆面。真っ黒な嘴がなんとも不気味。どう見ても悪役だわ。
「っふふっ」
「な、どうしたのですか‥」
「いえ‥。その、私のせいで覆面を被ることになってごめんなさい」
「‥‥いや、その。たまには自分の素性を隠すのも楽しいものです」
私がまたクスクスと笑うと、バートン卿は困ったように馬車の外に視線をやった。
私の覆面は頭の上半分を覆うものだった。ブロンドの髪色に合わせた金色の派手な覆面は、リアリティのある猫のデザインだった。表面をふさふさと猫の毛が覆う。ペルシャ猫がモチーフのようね。
「俺もそういうのが良かったなぁ」
そう言うノエルは、覆面というより目元を隠す仮面のようなものだった。ちなみにベルタも同じ。
騎士団長と私は有名だから多くを隠す必要があるけれど、ノエルとベルタは目元を隠すだけでも十分ということなんでしょうけど‥。
これらは王宮からの馬車の中にご丁寧に置かれていた。
ベルタは静かに、私たち3人の会話の邪魔にならないように口を噤んでいた。もちろんベルタの前だから私たちが魔女の話題を出すことはなかったけど。
ドラージュ公爵邸に着くと、私たちは裏口に案内された。
もうパーティーは始まっていて、多くの貴族たちが集まっている。聞くところによると、今日はルイーズ嬢の誕生日を祝うパーティーらしい。
王宮が他国から派遣したサプライズゲスト、という立ち位置らしいけど‥。正直いま、心臓が喉から飛び出してきそうなほどに緊張している。
ステージ裏に立つとその緊張は更に高まった。こんなに人前で演奏をするのは初めてだし、もしも失敗したら‥。
せっかくチャンスを頂けたのに、期待に添えることができなかったら‥。
そんな不安に苛まれていた私に声をかけてくれたのはバートン卿だった。
「‥‥私も、緊張しています」
「え‥?」
「はは‥私が緊張してどうするんでしょうね。皇女様の演奏をこの会場の人たちが耳にした時‥どんな顔をするのだろうと思ったら、わくわくしてしまって‥」
掠れた低い声が、ゆっくりと優しく落ちていった。
私のピアノを信じてくれているからこその台詞だ‥。そう思った途端何故か心が随分と軽くなった。何よりも、どこからどう見ても不気味な犯罪者という風貌のバートン卿が静かに話す姿が可笑しくて仕方がなかった。
「ありがとうございます、バートン卿。少し落ち着きました」
鴉の覆面の向こう側、バートン卿は優しく微笑んでくれている気がした。
ドラージュ公爵がサプライズゲストの紹介を終え、私はステージに立った。この異様なペルシャ猫覆面ドレス女に、会場中は大いに騒めき立った。
会場の人々に向かって一礼をしてから椅子に座る。ルイーズ嬢の姿が見えたりしてなんて思っていたけど、緊張からか誰の顔も認識することが出来なかった。
ふぅ、と息を吐いて鍵盤上に指を置いたその途端のことだった。
「っ!!」
ノエルが私の体を椅子から突き落とした。ぐるんと宙を仰ぎながら「ひえ?!」と素っ頓狂な声が出る。ノエルの体が床とのクッションになってくれたおかげで大きな痛みはないけれど‥
次第に観客たちからの悲鳴が聞こえ始めて、私もひっくり返った視界の中で何とか今の状況を理解しようとしてた。
私が寝そべる少し先に刺さった何本もの弓矢が、衝撃によりぶんぶんと左右に揺れている。
あ、襲われた‥?
脳がやっとそう理解したその時、バートン卿は私が入場したのとは反対側の袖口に向かっていた。
その片手には剣。飛び散るのは鮮血。‥どうやら、ノエルが私の身を守り、バートン卿が刺客と相対しているようだった。
でも弓矢が放たれたのは少し離れた距離のある、パーティー会場の2階から。1階にいる刺客をバートン卿が討ったとしても、矢は止まない。
ーーまるでスローモーションのように、視界の右端からヒュンッと放たれた弓矢が見えた。
動体視力が良かったわけではないはずなのに。弓矢は袖口にいた刺客と相対しているバートン卿の右肩を見事に貫いた。
「いやぁっ!!」
思わずそんな声が漏れる。私の身を守るノエルは、更に降り注ぐ矢を受けて血を吐きながら言った。
「‥これ、完全に狙われてたね」
‥と。
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