最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
28 / 123

27話

しおりを挟む

 ルイーズ嬢は今日のパーティーの主役。もっと話がしたいと言ってくれていたけれど、後ろ髪を引かれるようにしながらパーティー会場へと戻っていった。「まぁ私のバースデーパーティーを壊そうとした王宮の首謀者のこと、私は許しませんわ。ふふふ」と言い残して。

 知らなかっただけで味方はいたんだ‥。そう思うと、ジンっと胸が熱くなる。それを知れただけでも、人生を諦めなくてよかったとさえ思える。

 それにしても‥ルイーズ嬢の話だと、お父様は私が魔女に取り憑かれていると分かっていたのかもしれない。‥‥そのうえで、私をから守る為に敢えて遠ざけていたのかな。

 もし、そうなら‥‥。
魔女から解放された今、私はお父様に手を伸ばしても許されるのかな‥‥?あの頃の様にもう一度、目を細めて笑いかけてもらえるのかな‥‥?


「ーーー皇女様、先程の話は真実なのですか」

 低い声を震わせていたのはテッドだった。テッドは比較的最近離宮に来た騎士。冷たいところはあるけれど割り切って淡々と仕事をしてくれるから、私はテッドを一方的に信頼してる。

「‥‥えぇ。その、言えなくてごめんなさい」

 自身のこれまでの態度を振り返っているのか、それとも別な理由からか、テッドは珍しく気が動転している様に見えた。
 眉を顰めて何か思い詰めた様な暗い表情をしたテッドは、数秒経ってから首を横に振った。

「‥‥‥私の姉も‥‥その、皇女様の様に突然人が変わったことがありました。それは、母の死に耐え切れず心が病んだせいでした。‥‥てっきり、皇女様もそのような理由があったのかと‥‥思っていたのですが‥。そうですか‥魔、女‥‥」

 テッドはそう言って、口元を押さえた。何故かテッドは今、すごく辛そうだ。いつものツンケンしたクールな姿はどこにも無い。

「‥‥大丈夫か。汗をかいているが」

 バートン卿がテッドにそう声を掛けると、テッドはハッと我に返ったようだった。

「‥‥失礼致しました。問題ありません」

 何も知らなかった人が魔女の話を聞くとここまで動揺してしまうものなのかな‥?それにしても深刻な感じがしたけど‥。

 その違和感に私の第六感が何かを知らせた。
テッドのこの態度はやっぱり普通ではない気がしたのだ。

「テッド、その、何か思い悩むことがあったの‥?」

 丸眼鏡の奥の瞳は控えめに私の姿を捉えた後、すぐに普段通りの強気の瞳へと変化した。
 特に何もありません、とテッドが言い切ったのと扉がノックされたのはほぼほぼ同じタイミング。

 私たちは結局それ以上掘り下げるタイミングを失ったまま扉に視線を移した。

 扉から現れたのは、獅子のようなオーラを纏った公爵だった。ルイーズ嬢の言葉を鑑みれば、公爵も私の正体が皇女であることや、魔女に体を乗っ取られていたことを察している筈。

 公爵がどう切り出すのか分からずに、ごくりと息を飲む。

「‥‥素晴らしい演奏でしたな!何かに感動して鳥肌が立ったのは久々でしたよ。うん、本当に素晴らしい!!」

 その声量は興奮している為かとても大きく、公爵の肺活量の凄まじさを感じた。先程とは違って敬語を使っているところからも、私のことをと認識しているのだと分かる。

「あ、ありがとうございます‥」

 公爵の勢いに圧倒されながらも控えめに感謝を伝えると、公爵はニカッと笑った後ににわかに信じられない言葉を落とした。

「いやぁ、本当、殺さなくてよかったですわい!!」

 そう言って豪快にゲラゲラと笑っている。

「‥‥え?」

 肝が冷えるとはこういうことを言うのだろうか。バートン卿とノエルとテッドの雰囲気も変わった。公爵への警戒心が今の一言で急激に上がったのだ。

「あぁ、もちろん皇女様のことではない!その御身に取り憑いていた魔女のことです」

「‥‥ぁ、」

 口を開いても言葉がうまく出てこなかった。
そんな私の代わりに、言葉を落としてくれたのはバートン卿だった。

「‥‥魔女だけを殺すことが可能なのですか?」

「はははっ。冗談もほどほどにした方がいい。中身の魔女だけを殺す方法があるならば魔女狩りなどという無駄な大量殺人など起こらなかったはずだ」

 公爵は顔色を一切変えぬまま愉快そうに言い切った。
中身の魔女だけを殺す術はない。ーーつまり、公爵は容赦なく私自身を殺そうとしていたということ。
 殺さなくてよかったという発言からして、魔女が抜けでたあとの私を殺す気はないんだろうけど‥。

 こんなにも圧倒的に力を持った人から命を狙われていたことを思うと、心臓を直接握られているような居心地の悪さを感じる。

「‥‥無駄な大量殺人、だと‥」

 テッドが私の後ろでボソッと呟いた。
その声は暗く、冷たい声だった。近くにいた私にしか拾えないような小さなその言葉は、何故か一向に耳から離れてくれなかった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...