最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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37話

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 レオンは私に本を2冊渡した後に照れたように笑った。

「あはは‥この傷、見られちゃいましたね」

 口調も態度もいつもと変わらない。
人懐っこさを感じさせるレオンを前にして、私だけが正常な呼吸を保つ為に必死だ。

 ‥まさか。‥‥いや、考えすぎよ。うん、考えすぎ。
レオンが“猫”なわけがない。だってノエルが心の闇を爆発させた時、レオンも間違いなく殺されていたし、その後のリセット魔法でレオンも朝に戻っていたもの。

 この間の“猫”は扉の前にいたノエルのことも倒していた。きっと猫はノエルよりも強いんだと思う。そのうえ猫は魔女の仲間なのだから、何か特別な力だって持ってるかもしれない。

 レオンはノエルに殺されたこともあったのだから、レオンが猫なわけがない‥。

 ーーーでも‥そう思わせる為にわざと殺されていたのなら‥?
いや、いやいやいや、そんなわけ‥

「皇女様?どうされました?」

 レオンが首を傾げているけど、私はレオンの顔をまともに見ることができなかった。

「‥その傷に引いてるんだと思うよ‥。どうすればそんな風に爪立てられるわけ‥」

 ノエルが「うげぇ」と言った様子で話すと、レオンは困ったように笑った。

「‥その、皆さんが不在の間に‥‥昔関係があった女性に詰め寄られまして。お恥ずかしいことにちょっと揉み合いになったんです」

「‥レオン、お前‥‥。皇女様の前でする話ではないだろう。というか、その女性は離宮にまで訪ねてきたのか」

「いや、買い出しに出かけた時に捕まったんだ」

「はぁ‥まったくお前は昔から情け無いところがあるな。皇女様のお付きの騎士であることにもっと自覚を持て」

「あぁ」

 テッドが呆れた調子でレオンを制するも、ノエルは目を丸めて興味津々の様子だ。

「揉み合いになってそんな傷付けられるって‥ぷははっ、一体何をやらかしたの~!」

 3人はわいわい盛り上がっていたけど、私は笑うことができなかった。

 あくまでも私の印象ではレオンは決して気が多い男というわけではなかった。真面目で、誠実で、爽やかな男。

 魔女がレオンを誑かしたからミーナと上手くいかなくなって別れたんでしょう‥?だからこそ私はミーナから毒殺されそうになった。

 ミーナが離宮から出て行った時の姿を思い返せば、ミーナがわざわざレオンに会いに来て今更揉み合うとは思えない。

 どうしよう。レオンの言葉が、全て嘘に感じてしまう。

「皇女様‥大丈夫ですか?ご気分が優れないようですが」

 私を案じるレオンは、いつもとなにも変わらないのに。

「‥‥‥ちょっと部屋で休むことにするわ」

「ご無理はなさらないでください」

 心配そうに眉を顰めているレオン。
私の思い違いであってほしい‥。体が解放されたばかりの時、純粋に慕ってくれているようなレオンの態度にはすごく助けられていたから‥。

 「ありがとう」と伝えて部屋に戻る。テッドとノエルは私の体を気遣ってくれたけど、私の気分は沈み込んだままだった。

 もしかしたらレオンは敵かもしれないけど、猫の話をテッドやノエルにしたところで不安を煽るだけのような気がする。
 魔女に太刀打ちできる力がない今、魔女や猫を下手に刺激するのも避けたい。

 仮に猫がレオンだったとしても、魔女が命じるまで猫が再び私を襲うことはないはず。
 

「‥‥皇女様、もしや皇女様の想い人はレオンなのですか‥?」

 私が気落ちしている理由が、レオンが他の女性に爪を立てられていたからだと思ってるみたい。
 その爪を立てたのが私かどうかで悩んでるのよ。

「違うわ。ただ少し気になってしまったの。‥よっぽど強く抵抗しないとあそこまでの跡は付けられないと思うのよね。温厚なレオンが相手の女性にそこまでのことをさせたのが、なんだか信じられなくて」

「‥‥確かに一理ありますね。そもそもレオンは皇女様に夢中なのかと思っていましたが‥他にも女性の影があったとは」

 レオンのことを私よりも知っているはずのテッドがそう言うのだから、やっぱり私の違和感は間違いじゃないと思う。

「いやー、純粋そうに見える奴の方が実際スケべだったりするからね」

 ‥まぁノエルの考えも一理あるけど‥。


 
 ここは慎重に動きたいところだから、もっと判断材料が欲しい。
 ーー私は次の日、ミーナの元を訪れることにした。サリーの話では、ミーナはここを離れる際に「少し休みたい」と言っていたそうだ。
 私の紹介状を渡してはいたけど、ミーナは皇女の毒殺を図る程に心を病んでいたのだし、一旦心を休める時間も必要だと思う。
 そんなにすぐに紹介状が無効になるわけでもないだろうから、まずは存分に心を休めてほしいと本気でそう思う。

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