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38話
しおりを挟むミーナが現在住んでいる場所はメイドのサリーから聞いた。
馬車で2時間ほど。そう遠くない場所だった。
レンガ調の民家が立ち並ぶ中、その家はあった。
西通りの22番地‥‥右から2番目の、赤い屋根の家。
ノックをするとすぐに扉が開いた。隙間から覗くように顔を出したのは、びくびくと震える痩せこけたミーナだった。
「ミ、ミーナ!
突然ごめんなさい、その‥貴女に聞きたいことがあって‥」
目を見開くミーナは、離宮にいた頃よりも20歳くらい老けたように見える。大袈裟かもしれないけど、数週間前までの彼女はもっと美人だった。
怯えたように震えながら、ミーナはか細い声を上げた。
「こ、こ、皇女様‥わた、私のことを、処刑しに来られたのですね」
皇女自らが突然訪れてしまったのだから、ミーナが混乱するのも無理はないわね‥。
「違うわ。貴女を処刑なんてしない。ミーナは何も私に危害を加えてないじゃない‥。‥‥その、突然来ておいて申し訳ないのだけど、ここだと人目につくから‥もしよければおウチに入れてくれないかしら‥?」
ミーナは眉を下げたまま、私の横にいるテッドとノエルに目をやった。見知ったテッドの顔を見て少し落ち着いたのか、「どうぞ」と言って家の中に入れてくれた。
一般の民家に入るのは初めてのこと。こじんまりとしているけど、決して狭い印象はなかった。それは、ミーナの家にあまりにも物がないからかもしれない。
「‥ミーナは一人暮らしだったの?」
「‥‥家族は皆亡くなっています‥。一応ここが私の実家ですが、私も最近までは住み込みで働いていたので、物があまりないのです‥。おもてなしもできず、すみません‥」
「‥‥そうだったの‥」
ミーナはこの空っぽの家で、朝から晩までずっとひとりで暮らしているんだ‥。
きっとまともに食事もできていないんじゃないかな‥。頬が痩せこけているし、彼女の手首は病的に細い。
お出しできる飲み物もないんです、と彼女は震えながら頭を下げた。突然会いに来ただけで相当な負担になっているのだから、これ以上の負担はかけたくない。
「聞きたいことが聞けたらすぐに帰るから大丈夫よ。気を遣わせてしまってごめんなさい‥」
レオンのことを聞くならばミーナに聞くのが一番。でも私のせいで破局をして、私を殺したいほどにこの恋を引きづっていたミーナにこんな話をするのは酷な話‥。
ミーナに聞くしかないと思っていたけど、果たしてこれは正解と言えるのだろうか。
「‥‥‥私も‥‥皇女様に聞きたいことがあったんです‥」
「え‥?」
ーーレオンのことかな。どうして彼を奪ったの‥なんて聞かれるのかもしれない。
今の不安定そうな状態のミーナを見ていると、レオンが『昔関係があった女性に詰め寄られて』と言っていたのももしかしたら事実なのかもしれない。
「‥‥私の話は最後でいいんです‥。皇女様、一体どのようなご用件ですか?」
どくん、と心臓が跳ねる。
情報を得たいけど、彼女を出来る限り傷付けたくはない。
「あ、あの‥‥。ミーナ、最近レオンと会った?」
ミーナは目を見開いて、途端にカタカタと震え出した。ぶつぶつと小さい声で何かを呟き続けている。
「ーーミーナ‥」
「‥‥っ、それなんです、それを聞こうと‥‥。皇女様‥‥助けてください‥。私、怖いんです。自分が怖くて怖くて仕方がないんです‥!」
「‥え」
「皇女様‥‥‥レオンは、一体何者なんですか‥?それとも、私がおかしいのですか?」
ミーナは震えながらポロポロと涙をこぼした。
ミーナが怯えている理由は、まさかのレオン‥?
「落ち着いて‥ゆっくり話を聞かせてくれる‥?」
「‥‥私、いま‥彼のこと何とも思わないんです。まるで無理矢理魅了されていたみたい‥‥ましてや嫉妬から毒殺なんて‥そんなの信じられないんです‥!!私は、私は‥‥レオンのことなんて、愛してないんです‥」
ミーナはそう言ってぽろぽろと涙を流し始めた。
ーーーー魅力されていたみたいって‥もしかして。
サーっと全身の血の気が引いていくのがわかる。
黙って話を聞いていたテッドが訝しげな表情を浮かべながら口を開いた。
「‥‥ミーナさん、貴女はいつもレオンに熱視線を送っていましたよね‥?それに、毒殺とは‥?どういうことですか」
「わた、私が、皇女様に毒を盛ったんです‥皇女様にレオンを奪われたのだと嫉妬に狂ったんです‥でも、でも、私、どうしてレオンに焦がれていたのか、全く分からないんです‥うぅっ‥」
ミーナは泣きながら膝をついた。絶望している様子の彼女の首に、ノエルが短剣を突きつけている。というかノエルの動きがあまりにも素早すぎて、今やっとノエルがミーナを殺そうとしているのだと分かった。
「ちょ、ノエル!やめて!ちがうの!!」
無表情なノエルに思わずゾクっとする。
再度やめてと声をかけるとノエルはやっとミーナから短剣を離した。それでも彼女に対する無言の殺意は継続しており、“生きた心地がしない”という空気を見事に作り上げていた。
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