最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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46話

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 絡まり合う舌が、どちらのものなのか分からない。テッドがバートン卿の頭を掴み、ノエルが私の頭を掴んだみたい。無理矢理引き離されたけれど、バートン卿も私も舌が出たままだった。
 たらりと延びた糸が2人の舌を結んでいた。もっと舌を伸ばせば、再びキスができるのではないか。理性が飛んでしまった私たちは、テッドとノエルの静止を振り切って顔を近づけようとした。

「もう、なんっつー顔してんの!!!」

 ノエルはそう言って、私の体を後ろから無理矢理引っ張った。もう舌を伸ばしても届かない。バートン卿は端正な顔を切なそうに歪ませながらも、頬を赤くして私を求め続けていた。

 あぁ、欲しい‥。バートン卿が‥

「皇女様!!しっかりして!!」

 パンッとノエルが私の両頬を叩いた。
はっ、と我に返るものの、すぐにまた頭がぼうっとする。

 私はふらっと立ち上がった。

「皇女様?!どこいくの!」

「‥はぁ‥‥だめ‥ここにいたら、おかしくなる‥」

「まだだめ。傷治さないといけないでしょ」

「‥‥っ‥」

 ノエルは私の腕を掴んで再びバートン卿の目の前に座らせたけど、すぐにまた私を離した。バートン卿は完全に催淫洗脳されているみたいで、そんなバートン卿から遠ざけようと思ったみたい。

「テッド!しっかり抑えててよ!」

「っ、ああ」

 ノエルはバートン卿と私の間に身を置くと、バートンの口元からだらだら垂れる唾液を自身の手で掬い取った。
 そしてそれを、バートン卿に噛みつかれた患部に塗りたくっていく。どうやらこのやり方でも傷は消えるみたい‥。

 ーー痛くて、痺れて、蕩けそうで‥

「ふぁっ」

「変な声出さないの!!」

 こうして、ノエルに何度も怒られながらも今回の吸血は終わったのだった。

 私はノエルに付き添われながらすぐに自室に戻された。時間にすると、吸血開始から今の時点までで10分も経っていないと思う。あまりにも濃いその時間は、自室に帰ってからも生々しく私の体を痺れさせた。

 辛い‥。体がおかしくなっているから、理性を取り戻さなくてはいけないこの時間がとても辛い。

 ノエルが冷えた水が入ったコップを手渡してくれた。その水を一気に飲み干して、熱を持った体を何とか鎮めようと試みる。扉の前にいるから、と言ってノエルは部屋から出ていった。

 だめだ。考えなくてはいけないことが沢山あるけど、脳みそがまだまともに動いてくれない。椅子に腰掛けながらテーブルに上半身を突っ伏して、ただひたすら体が鎮まるのを待った。

 一体それからどれくらい時間が経っていたのかは分からない。


「‥‥ノエル」

 扉に向かって声をかけてみる。こんなに小さい声では聞こえないかな‥?だいぶ体の疼きが収まってきて、頭の中もようやく霧が晴れてきたみたい。たぶん、もう大丈夫。

「入るよ」

 どうやら先程の私の小さい声も聞こえていたみたい。少し疲れた顔をしたノエルが部屋に入ってきた。

「ノエル‥‥その、迷惑掛けて本当にごめんなさい。自分では全く制御できなくて‥」

 おずおずと話すと、ノエルは小さく息を吐いた。

「仕方ないよ。皇女様のせいじゃない。‥それに収穫もあったんだし」

「収穫‥?」

「あのでろでろのよだれだけでも皇女様の傷を癒す効果があったでしょ?バートン卿に直接舐められなくても大丈夫ってことだから、次回は予め皇女様の血を採って、その傷口にバートン卿の涎を塗り込もう。そうすりゃ少なくとも皇女様は自我を保てるし」

 ノエルはそう言って「名案だ」とコクコク頷いた。
そうか‥そうよね‥。“次回”もあるんだ。きっとその次も、さらにその次も。今回だけの大仕事というわけではない。

「‥‥‥テッドにも謝らなくちゃ‥。吸血が始まってからは殆ど言葉を発してなかったわよね。きっとすごく呆れてるんだわ‥。快楽に負けた私たちのこと‥」

「いや、あれはどう見たって“普通”じゃないの分かるよ。よっぽど催淫効果が強いんだろうって、テッドも思ったはず」

「そうかしら‥」

 じゃあ何故一言も話さなかったんだろう‥。
あの時は必死すぎてテッドの表情を見る余裕なんてなかったし‥

「童貞だからでしょ」

「‥‥‥‥‥え?」

 なにかしら‥?聞き間違い?

「だから、童貞だからでしょ」

 き、聞き間違いじゃなかった‥。
ノエルったら変に自信ありそうな顔してるけど、何故そう思うの‥。でも皇女として「何故そうなるの?」と深掘りしていいのかしら。まぁ、もう皇女としての品格なんて無いも同然なんだけど‥。

「‥‥‥」

 結局言葉が出てこなかった。

「テッドって絶対童貞だと思うんだよね。だから顔真っ赤にして固まってたんだよ。‥‥‥‥って、あ!!ごめんなさい!!!皇女様にこんな話しするなんて!!さっきまでがあまりにカオスだったから、なんかそこらへんの感覚おかしくなってた!!」

「い、いいのよ‥」

 もう、なんていうか色々ぶっ飛びすぎていて‥。そりゃ感覚もおかしくなる筈だわ。
 バートン卿もそろそろ落ち着いた頃かしら‥。テッドが近くで様子を見てくれているのかな?

 ‥接触するのは明日の朝まで待ったほうが良さそうね‥。

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