最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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45話

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 それからまた数日。公爵からの連絡はないから、暗殺者がなかなか情報を吐かないんだと思う。まぁ“自害した”という報告もないから、それに関してはホッとしているんだけど。

 今日は月に一度の恐ろしい日。
そう、満月の日‥‥。バートン卿からの手紙によると、彼は今日の夜に帰ってくるのだという。

「‥‥皇女様、今日は満月の日ですね‥」

 テッドがそわそわしている。ノエルはバートン卿を縛るための縄を用意していて準備万端だ。ちなみにここにレオンはいない。

 レオンのことだから魔女がバートン卿を玩具にしていたことは知っているかもしれないけど、一応私は今薄っすらとレオンに気があるふりを続けてる。

 なんとなくレオンもあの日の情事を意識している気がしてならないから、目の前で私がバートン卿に血を吸われているところを見せつけるのも気が引ける。

 まさか色仕掛けでが魔女を裏切ってこちらに寝返るなんて思ってもいないけど、レオンには私が無知なままの皇女だと思っていてもらいたい。
 だからレオンが猫であると気付かずに、レオンに淡く想いを寄せているふりを続けるの。


 ーーバートン卿は魔女に打ち勝つ為の情報を手に入れることができたかしら。
 長旅から帰ってきて疲れているところで吸血鬼化してしまうなんて、バートン卿もつくづく不幸だと思うわ‥。吸血鬼になるという、この呪いのような現象は魔女を倒せば消えるのかな‥。

 魔女は空を飛び、体を操り、誰かを魅了し、呪いを掛ける力もある。そんな魔女に弱点なんてあるのかな‥。魔女相手にまともに戦うことなんて、できるのかな‥。

 そわそわしながらバートン卿の帰りを待った。
時計の針が夜8時を指した頃、バートン卿はやっと離宮に帰ってきた。

 エントランスで崩れ落ちたバートン卿はテッドとノエルによってバートン卿の部屋まで運ばれた。汗をかき、頬を紅潮させて苦しそうにしている。

 メイドたちには長旅でかなり疲弊しているようだと伝えたけど、バートン卿の只ならぬ姿に相当慌てているようだった。テッドが冷静沈着に「少し休めば大丈夫でしょう」と言えばメイドたちはオロオロしながらも下がったのだけど。



 さて。
いま私の目の前には、縄でギチギチに縛られているバートン卿がいる。

 本当は長旅を労ったり、賢者様とどんなお話ができたのか知りたい。だけどいまの彼はそれどころじゃないようだ。

 息は荒く、鋭い牙が見え隠れする口元からはぼたぼたと涎が滴り落ちていた。目はどこか虚ろだけど、貫かれそうなほどに鋭い。

「‥はぁ、‥っ、くそっ‥‥」

 バートン卿なりに自我を保とうとしているのだと思う。
早く血を吸わせてあげなければ。その後もきっと、彼にとっては地獄の時間が続くんでしょうけど。

「バ、バートン卿‥大丈夫ですか‥?!これが、吸血鬼化‥」

 テッドが焦ったような声を出すと、ノエルは私を見て頷いた。

「皇女様、こっちは準備オッケーだよ」

「じ、じゃあ‥宜しくね、2人とも」


 縄の両端はテッドとノエルがそれぞれ掴んでいた。バートン卿も出来る限り暴れたくないようで、長く細く息を吐いている。

 私は普段あまり肌が出ないようなドレスを着ているのだけど、今日は敢えて首や肩がしっかり出ているものを選んだ。今朝サリーに髪をまとめ上げて貰っているし、きっと吸血の邪魔にならないはず。

 艶やかな長い髪の間から、バートン卿の切長の瞳が見える。ギラリと光るその瞳にたじろぎながらも、私はバートン卿に近付いた。

 ‥正直怖い。獰猛な獣の目の前に、自ら食べられに行っているようなものね。

 バートン卿の前に座り込む。「どうぞ」と言おうと口を開いた瞬間に、待ちきれないと言わんばかりに私の肌を鋭い牙が破った。

「あぁっ」

 口を開いた途端の出来事だった為、思わずおかしな声が漏れる。

 痛い、という感覚はすぐに抜け出ていき、直ぐに体の芯が痺れていく。肩や首にかかるバートン卿の髪、密着した体の熱、必死に血を吸うバートン卿が漏らす息。全ての感覚が敏感になっている気がするのに、吸われ続けている患部から全身がじゅくじゅくに溶け出すような気にもなる。

 だめだ、口を塞がないと、声が‥‥

「んぁっ」

 テッドとノエルが見ているというのに、口を塞いでも声が漏れ出てしまう。

 バートン卿の牙が離れた。吸血には催淫機能があるんだと思う。じんじんと体が疼いて、頭がぼうっとする。
 傷口を治してもらうため、バートン卿に患部を舐めてもらわなくてはならない。‥けど、

「あ!こら!ちがうでしょ!」

 ノエルが縄を引っ張ったけれど、時すでに遅し。
バートン卿は私の唇を奪って、熱い舌を捩じ込んできた。

 恐らくもうバートン卿には自我はない。とっくに理性はぶっ飛んでるんだと思う。そういう私も、正直天井がどっちなのか分からなくなるほど、快楽に溶けている。
 前回は満月の夜から一夜明けたあとの吸血だった。だけど今回は満月の夜当日ーーー‥。バートン卿も、私も、前回とは比べものにならないほどの快感に、脳がどろどろに溶けてしまったんだと思う。
 まるで薬でおかしくされているみたい。こんなの、普通じゃないわ。



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