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48話
しおりを挟む王宮の一室で政務を行っているのは、サマンサの腹違いの弟であり次期皇帝のロジェだ。
彼は男性にしてはやや小柄な方だが、姉に似て美しい顔立ちをしている。皇族の品位を著しく落とした姉を持ったロジェは、これ以上皇族の信頼を落とさぬよう己を律して生きてきた。
真面目で堅物だが、その一方で心から国民たちを想う素晴らしい皇子なのである。
そんな彼は1つだけ、誰にも言えない大罪を犯してしまった。ーーー王宮に隠されていた“魔女殺しの秘薬”をこっそり盗み出したのだ。
理由は簡単だ。魔女に取り憑かれた最愛の姉を殺させない為。
サマンサの誕生日が訪れる数日前ーー。
サマンサのことを心から想っていた皇帝も、10年近く魔女に取り憑かれたままの皇女のこと遂に諦めた日があった。
魔女は一向に娘の体から出ていこうとしない。魔女を殺すには愛しい我が子ごと殺すしか無い。寸前のところで体から抜け出て行かぬよう、魔女に気付かれないまま秘薬で殺さなくてはならない。皇帝はもう道はないのだと泣く泣く決断した。
魔女に好き勝手され、悪評に塗れた状態で体を返されたとしても、愛しい娘が苦しむ未来しか見えなかった。
皇女の処刑について、王宮内で秘密裏に会議が重ねられた。
ひと握りの上層部しか知らない話は、現在サマンサの首を狙うマリアナ皇后の耳にすら入っていなかった話だった。
ただし魔女は先手を打っていた。
王宮から追い出されて離宮に来る前に、王宮の至る所に“盗聴”効果のある魔法を仕掛けていたのだ。
その為、上層部が会議を重ねている間に魔女は“処刑されるかもしれない”と知り、サマンサの体を手放したのだった。
“魔女殺しの秘薬”とは、魔力を持つものにのみ作用する薬。
これまでに帝国と魔女たちは何度も何度も対立してきた長い歴史があった。その中で唯一帝国に手を貸した魔女が作り上げたのがこの薬だ。
その後盛んに魔女狩りが行われ、魔女は徹底的に淘汰されてきた。魔女と言っても戦うような力を持たない者も多かったのだ。
その為、現在ではサマンサを苦しめ続けた魔女以外の魔女はこの帝国では確認されていない。もちろん国民たちは、もうこの帝国には魔女などいないのだと信じ込んでいるのだが。
ーーロジェは皇帝たちが姉を本気で殺す気なのだといち早く嗅ぎつけた。そしてその際、姉が魔女に体を乗っ取られていたという事実を知ることになったのだ。
もちろんロジェ自身も幼い頃から「姉上は魔女に悪さをされたのではないか」と父である皇帝に何度も訴えてきた。
それでも父は「そんなわけがない」とロジェの訴えを退け続けた。もちろんそれは、皇女の体が魔女に乗っ取られていることを周囲に漏らさない為の策だったのだが。
ロジェは何度も否定されるうちに、姉の変貌の理由は“魔女”ではないのだと思うようになった。でもそれならば何故突然姉は変貌してしまったのだろうか。
ずっと納得ができないまま、ロジェの心に靄がかかっていた。
ーーだからこそ、いち早く皇帝や上層部の動きを嗅ぎつけて事実を知ったとき、ロジェは心の底から納得できたのだ。
『やっぱり魔女の仕業だったんだ。姉上は変わったわけじゃない‥!!』
それならば、また元の姉上に会えるかもしれない。
もちろん‥魔女が姉の体で好き勝手していたことも、これからも好き勝手するつもりなんだろうということも許せない。大好きな姉が苦しむ姿なんて見たくないから心は暗くなる。
ーーでも、それでも生きていてほしい。その想いからロジェは“魔女殺しの秘薬”を盗み出したのだった。
王宮の一部の上層部たちは秘薬が盗まれたことに大騒ぎしていたものの、ちょうどその頃に“サマンサがまるで生まれ変わったようだ”という話が流れる始めると秘薬についての騒ぎは一旦静まった。
今度は魔女が皇女の体から抜け出て行ったのでは?という議題で持ちきりのようで、絶えず死相が出続けていたような皇帝も、ここ数日で一気に若返ったようにも見えた。
もちろん秘薬の捜索は行われているのものの、事実を知る上層部たちは皆喜びを隠せなかった。
ロジェもまたそのひとり。マリアナ皇后から最近のサマンサの話を聞いた際、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
マリアナ皇后の前では興味のないふりをしておきながら、自室に戻った途端に喜びのあまり膝から崩れ落ちたのだった。
ロジェは側近を使って何日にもかけて情報を集めた。
サマンサは二十歳の誕生日を迎えたその日から今日まで、ずっと素行がいいのだそうだ。ロジェは魔女が出て行ったのだと確信した。
追い出された姉は王宮には来れない。
‥それなら、自分から会いに行けばいい。
以前までは王宮で話しかけても冷たくあしらわれて終わりだった。何があったのか聞いても、相手にもされなかった。でも今ならきっと違う。ちゃんと目を見て話してくれるんじゃないかと思う。
ーーー満月の次の日に、ロジェは離宮を訪れた。愛しい姉に会う為に。
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