最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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49話

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 朝目が覚めて、昨日のことを思い出す。

「はぁ‥‥」

 一晩経って冷静に振り返ってみれば、やっぱり昨日はかなり壮絶だったわけで‥。理性もなにもかもをすっ飛ばして、欲に溺れてしまった姿を人様に見せてしまったという事実が情けなさすぎて仕方ない。
 恥ずかしくて3人と顔を合わせたくないわ‥。
でもバートン卿から賢者様の話も聞かなくてはならないし、気まずさから顔を合わせたくないのは3人だって同じ筈よね‥。

 ‥‥もう悩んだって仕方ない。生きると決めた以上、心を強くしないととてもじゃないけど生きられないわ!

 私は両頬をペチペチと叩いて気合を入れた後に3人を部屋に呼び出した。

 まず盛大に額を床に付けたのはバートン卿。

「本っ当に、申し訳ありません‥!!!」

「大丈夫ですよ。制御が効かなくなるのは身をもって体験してますし、恐らくバートン卿の体の方がそういう効果が高まっているんだと思いますし‥なによりも予め分かっていたことですから」

 血も涙もないと言われる騎士団長の筈なのに、バートン卿は悪戯をして叱られた犬のように眉を下げていた。

「ノエルとテッドも、本当にごめんなさい。でも2人がいてくれて助かったわ」

 私がそう言うと、ノエルは小さく笑い、テッドは少し照れたようにしながら「いえ」と呟いた。

 昨日ノエルが言っていたように、次回からは直接吸血させないようにしよう。そうすれば2人の負担も減るし、バートン卿の心労も減るに違いない。

 次回の作戦を軽く話し合った後、私はバートン卿に賢者様の話を聞くことにした。

「バートン卿、長旅本当にお疲れ様でした。そのまま満月の夜を迎えるなんて大変でしたね」

「お気遣いありがとうございます‥」



 私の部屋には4人掛けのソファが陶器のテーブル越しに向かい合って置いてある。私の隣にはノエル、向かい側にはバートン卿、その隣にはテッドが座っていた。

 バートン卿が口を開き、賢者様の話が始まるというその時‥扉が叩かれてサリーの焦った声が響いた。

「皇女様!ロジェ様が面会に訪れております!!!」

「ーーえ?!?!」

 自分が思っていたよりも5倍くらい大きな声が出た。思わず立ち上がり、ぱたぱたと扉まで駆け出す。

 ロジェが?何故??まさか‥会いにきてくれたの‥?いや、そんなわけないわ。だって魔女は私の体でロジェにも容赦なく冷たくしてきた。悪行だって散々ロジェの耳に入っているはずだし、ロジェは間違いなく私に幻滅しているはずよ。

 でもそれなら、何故ここに‥?

 一度頭の中でロジェにどう思われているかを振り返ったおかげで、浮かれすぎていた心が冷静になった。
 弟が会いにきてくれたんだ!と意気揚々と小走りになったことが恥ずかしくなり、コホンと小さく咳き込んでから扉を開けた。

「ロ、ロジェ様は応接間にお通ししております」

「分かったわ、ありがとう」

 もしかしたら‥こんなことは考えたくないけど‥‥。どうしようもない私に愛想を尽かして、ロジェが私をその手で殺めようとしているっていう可能性だってあるかもしれない。

 もちろんそんなことないって思いたいけど、絶対に無いとは言い切れないのが悲しいところ。

 応接間までの道のりが長く感じた。私について来てくれている3人を見て、ふぅ、と小さく息を吐く。安心しきっているからか、この3人は私の精神安定剤なのよね。

 サリーが応接間の戸を開いてくれた。
古いけど小洒落たアンティークな高級ソファ。そこに座らずに、私の方を見つめる少年がひとり。

 くりっとした瞳に、グレーのさらさらな髪。正義感漂う、凛とした立ち姿‥‥。

「ロ‥ロジェ‥‥」

 先程まで頭によぎっていた“殺されるかも”という悲しい不安なんて、ロジェを見た瞬間に吹き飛んでしまった。

 ロジェもまた、私の声を聞いた途端に瞳を大きく揺らし、泣いてしまいそうな顔つきになった。

 どちらともなく近寄って、吸い寄せられるように抱きしめ合った。

「姉上、姉上っ」

「ロジェ」

 身長は私とあまり変わらないけれど、私を抱きしめる力はとても力強い。こうして触れ合うことのなかった10年間のうちに、ロジェがいかに成長してきたかを痛感する。
 本当はもっと近くで見守っていたかった。‥でももう二度とこうして触れ合えないと思っていたから‥どうしよう、嬉し涙が溢れてしまう。

 ロジェからも啜り泣く声が聞こえて、その声を聞くとまた涙が溢れ出した。私の頬につくロジェの髪が濡れてしまう。ぽたぽたと顎を伝った涙が、ロジェの肩を濡らしてしまう。

 でも、私の肩も先程から冷たくなってるから‥きっとロジェもぼろぼろ泣いているのね。

「‥ロジェ、会いたかったわ。本当に本当に、貴方に会いたかったの。ずっと優しく声を掛けて、貴方の頭を撫でたかったの」

 あまりの喜びにこんなことを言ってしまったけど‥ロジェは魔女の存在を知らないのだから、私が突然人が変わったように冷たくなったとしか思っていない筈よね‥?どうしましょう。ロジェからしたらおかしなことを口走ってしまったわ。

「僕もずっと姉上に会いたかったんです。姉上‥‥本当に良かった‥。姉上が戻ってきてくれて‥本当に‥‥」

 え?‥戻ってきてくれて??

 ロジェの体をパッと離し、可愛らしく成長したその姿をまたもや瞳に焼き付ける。

「‥‥今の、どういう‥‥」

「??体を‥解放されたんですよね??」

「し、知ってたの?!」

「確定した形で知ったのは最近ですけど‥」

 えへへ、とロジェは笑った。
そうなのね‥。じゃあ、ロジェは本当に心から私に会いたくて来てくれたんだ‥。

 変に力が抜けてしまい、少し緩めの笑みが溢れた。

「‥心配も、迷惑も、沢山かけちゃったわね‥」

「僕はこうして姉上と再会するために頑張ってきたんだなって、今心から思いました。姉上は魔女の被害者なんです。姉上は何も悪くないんですから謝らないでください」

「ロジェ‥」

 どうしましょう‥。姉としての贔屓目もあるのかもしれないけど‥ロジェが物凄く素晴らしい成長を重ねているわ‥。

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