最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
58 / 123

57話

しおりを挟む

 ーー魔女の母がこの世に生まれたのは今から300年ほど前。
その間、魔女の母の容姿は現在の姿と変わることはなかった。

 彼女自身がその力に気付いたのは生まれてから13年ほど経った頃だったが、その頃には既に彼女は周囲から奇異な目で見られるようになっていた。

 年子の妹にはとっくに背を抜かれ、7つ下の弟にも背を抜かれた頃、両親からは気味が悪いと遂に突き放された。それでも健気に家の仕事を手伝っていた彼女だったが、とうとう見知らぬ老人に売られそうになった。

 ーー彼女は歳を取らない代わりに始まりの魔女として生まれた特殊な存在だった。彼女は恐らく神に選ばれた存在だったのだろう。この境遇で育っても、とても綺麗に澄んだ心を持っていた。

「いやだ‥!私、売られたくない‥」

 物心ついてから自分の気持ちを誰かに訴えたのはこの時が初めてのこと。
 元々気弱だった彼女は自分の意見を通す以前に、自身の家族にすら目を合わせて話すこともできなかった。幼い頃から叩かれ貶され気味悪がられていたのだから当然のことといえばそれまでなのだが。

 売られる寸前、母の目を見て訴えた途端‥
母の瞳は突如色が変わったよう光を失った。表情を変えぬまま、まるで操り人形のように「わかったわ」と言って老人に断りを入れたのだ。

 しっかりと目を合わせて訴えれば気持ちが伝わるのだと思った彼女は、この日を境にどんどん自分の意見を伝えるようになった。自分を突き放していた筈の家族たちが、憧れていた筈のを与えてくれることに心から幸福を感じていた。

 やっぱり家族だから‥本当はずっと自分を愛してくれていたのだと、涙を流して喜んだ。

 しかし不思議なことに、村の子どもたちや見知らぬ大人たちすら、目を合わせて訴えればみんなが彼女の都合の良いように行動することに気が付いた。

 そのうえ、「抱きしめてほしい」「頭を撫でてほしい」という希望通りに愛してくれていた両親が、時間が経つとまたふと自分に殴りかかる。

 そんなことが繰り返されていくと、彼女もさすがにこれがではないのだと気が付いてしまった。

 周囲の人々も、お前といると体が勝手に動いている気がして気持ちが悪いと言い出した。
 村を追い出されそうになり、また咄嗟に目を見て訴えようとしたが虚しくなってやめた。

 彼女の心はそれでも澄んだままだった。不思議な力を持って生まれ、その代償に老けない体を貰った。これが自分の運命なのだと受け入れていたのだ。

 そのまま寿命を全うしようと、各地を転々としながら生きていく為に最低限その力を使った。
 歳を取らない体でも、様々な体験や経験を重ねて精神は成長していく。自分の秘密を明かせるほど心を許せた友も、あっという間に大人になり家族を持ち子供に恵まれた。

 自分はそういう人生を送れないのだと悲しくなる時もあったが、その友がついに老衰で死ぬと、そろそろ自分も死ぬのだろうと気が楽になった。

 だがその友の子どもが死に、さらにまたその子どもが家庭を持ってもまだ彼女の命は終わらなかった。


 もう生まれてから何年経っているのか分からない。幼女のまま、時間だけが過ぎていく。まさか自分は死ねないのか、その疑問を抱いた途端に彼女の澄んだ心は段々と形を歪ませていった。

 心を許せる友人というのは何人もできるわけではなかった。特別な条件を有する彼女には、尚のことなかなか理解者は現れない。

 家族に愛されたかった、またもう一度あの頃のように心を許せる友人が欲しかった、彼女自身も誰かに愛されて家族を作ってみたかった。

 他人の心を求めて、虚しくなっていく一方だった。


 彼女もただ年月を重ねて生きていたわけではなく、愛されている人は愛される理由があることに気がついた。
 もちろん家族間の無償の愛もあれば、幼き頃の彼女のように無償の愛など貰えない人もいる。

 でも、様々な人々を観察していくうちに、友人の多い人や他者から好かれ易い人の特徴が分かるようになっていた。

 ーーーー私も、愛されたい。

 永遠に幼女の姿をしている彼女は、どの街に行っても保護をされる対象でしかなく、決して頼られる存在ではなかった。
 愛されたいのであればとされなくてはならない。そう確信した彼女は困っている人に積極的に声を掛けるようになった。


 母の病気を治したいと泣く子どもの悩みを聞いた彼女は、“この子がどんな薬でも作れるようになればいいのに”と願った。そうすると、その子は彼女の願い通りどんな薬でも作れるようになった。

 水不足で悩む人には、“好きな時に雨を降らせる力があればいいのに”と願った。そうすると、その人はたくさんの雨を降らせてその土地を豊かにした。


 彼女は自身が他者に何らかの力を授けることができるのだと、この時ようやく気付いたのだ。

 だけどその力を他者に授けると、彼女の中に満ちていたが削ぎ落とされるような感覚があった。そして決まって力が抜けて、しばらくの間満足に体が動かなくなる。

 数年力を溜めないと、他者に力を授けることはできなかった。その為困っている人みんなを救えたわけではないけど、彼女に救われた人々は彼女をまるで神のように崇拝した。

 彼女はこの時やっと、はじめて己の心が満たされた気がした。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...