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66話
しおりを挟むーーお父様が言うには、ドラージュ公爵がお父様と私が会えるよう働きかけてくれていたみたい。まぁ今回王宮に逃げ込むという形で急遽お父様と再会することができたのだけど。
レッドメイン家はその後予想通り王宮に来たけど、あくまでもお父様との対話が目的とのことで王宮とは戦う意思がないことを示していた。
私たちは王宮の中に一時的に滞在させて貰いながら、レッドメイン家の代表者であるクラウス卿とお父様の協議がまとまるのを待つことになった。
ちなみにクラウス卿はレッドメイン侯爵家の次期当主であり、お義母様の弟だ。気品のある吊り目顔の男性で、纏っている雰囲気はお義母様によく似ていると思う。
私は基本的に部屋から出ずに過ごしていた。それでもたまに部屋の外に出ると、近衛兵や王宮のメイドたちからの軽蔑の眼差しを感じて居心地が悪かった。
人の少ない離宮での暮らしは、理解者に囲まれてとても幸せなものだったのだと思い知らされる。それでも私にはここで嫌われてしまう絶対的な理由があるから、ひっそりと息を潜めるようにしながら大人しく過ごしていた。
クラウス卿は私との対話も求めているみたいだったけど、お父様はそれを頑なに拒み続けていたらしい。
王宮に来て丸2日。お義母様を解放してくれと求めるクラウス卿と、私の暗殺を企んだ分はしっかりと反省させるべきだと訴えるお父様。
ロジェから対話の様子を聞いていても、どうやらお互いの主張は延々と平行線を辿っているようで、終着点が見えそうにもない。
王宮に来るまでは、私を暗殺したがっているお義母様が王宮に戻ってきたら、益々お父様やロジェに会える機会がなくなってしまうと思っていた。
ーーだけど、私は念願だったお父様との再会も果たすことができた。
私自身が魔女で、この体もいつ奪われるかわからない。だから‥今後はもう王宮に足を踏み入れない覚悟を持っている。
‥‥それならもう、お義母様を解放してもらったっていいじゃない。きっと再び私を暗殺しようとは思わないだろうし、お母様が解放されればきっとレッドメイン家も大人しく帰ってくれるんじゃないかしら。
私がその旨をお父様に伝えたいとバートン卿に伝えると、バートン卿は静かに頷いて部屋を出て行った。
ーーーその頃、クラウス卿は皇帝との協議を終えて白砂宮と呼ばれる宮にいた。白砂宮は王宮の敷地内にあり、迎賓館としての機能を持つ。
クラウス卿はとてもせっかちで短気な男だ。そんな彼も、いくら勝機しかない戦いとはいえ辛抱強く丁寧に皇帝との協議を進めてきた。
‥が、話しても話してもまるで暖簾に腕押し。皇帝が皇女を守る姿勢を全く崩さない為に、そろそろクラウス卿の我慢も限界に近付いていた。‥そんな時だった。
手厚い警備の中、何故か白砂宮のクラウス卿の部屋にひとりの幼女が現れた。
「なんだ貴様は‥」
「いいこと教えてあげようか?」
幼女は突然現れた癖に当たり前の如く上から目線だった。クラウス卿が幼女に剣先を向けながら凄むと、幼女はヘラリと笑って両手をあげ降参のポーズをとった。
「‥‥どこから来たんだ?小さすぎて護衛のもの達が気付かなかったのか?」
「‥‥ちょうどいいタイミングだと思ったのよね。だってこうしてゾロゾロ王宮に集まるなんて滅多にないじゃない?だからあんたのことも使ってあげるわ」
幼女は両手を上げながらも決して怯える様子などはなく、まるで踊りだしそうなテンションで言葉を並べた。
「貴様さっきから何を言って‥」
「私ね、皇女様の秘密知ってるの」
「‥‥‥なんだと?」
にやりと不敵に笑う幼女に、クラウス卿は思わず聞き返してしまった。この幼女が何者なのかはさっぱり分からないが、今の状況を打破できる可能性があるのならとりあえず話だけでも聞いておこうと思ったのだろう。
「皇女様は魔女なのよ」
「‥‥‥‥は?何を言うかと思ったら‥」
「皇女様、ずっと悪い噂が絶えなかったでしょ?その間、ずっと魔女に取り憑かれてたのよ。そして今、体が解放されたけど魔女に悪戯されちゃって魔女になったのよ。あは、笑える悲劇だと思わない?」
クラウス卿は瞬きを何度か繰り返して暫く黙り込んだ。幼女の口から紡がれた話は、実際に魔女が存在していたこの国ではあり得ない話ではなかった。
「‥‥‥貴様、その話は本当か‥‥?どこに証拠が‥、というか‥お前は誰だ?!」
幼女の話が本当ならば、この盤面を覆せるどころか一気に皇女を処刑することができ、尚且つ皇女を暗殺しようとしていた皇后はヒーロー扱いである。
「‥‥王宮には魔女殺しの秘薬があるわ。それを飲ませればその場ですぐ死ぬわよ。でもまぁ、殺すのは後からでいいの。その前にちょっと遊んでやりたいからね。ただ秘薬を飲ませようとすれば、皇女はそれを慌てて拒否するはずよ。そうすればほら、話し合いもうまく進むんじゃない?」
「‥‥‥貴様も魔女か‥?」
クラウス卿が青ざめながら問い掛けると、幼女はにっこりと笑った。
「‥どうだっていいのよ。ほら、私の目を見て?‥今すぐ私のことなんて忘れさせてあげるから」
ーー魔女の母はこうしてクラウス卿を嗾けた。クラウス卿は魔女の母の存在を綺麗さっぱり忘れてしまったのだが、皇女が魔女であることと、王宮に魔女殺しの秘薬があるということは何故か明確に脳に残っていた。
クラウス卿は駆け出すようにして部屋を飛び出した。
何故脳内に突然“皇女が魔女だ”と過ったのかはわからない。だが、これは間違いなくクラウス卿にとっては追い風だった。
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