最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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79話

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 滝の麓を視界に捉えた。空気はひんやりと涼しく、周辺の岩には多くの苔が生えている。流れてる水は清く透明だった。

「レオンはどうしてこの場所を知ってるの?」

「来たことはありませんでしたが、子どもの頃に魔女からこの場所のことを聞いたことがあったんです。最東端の谷には、魔女の為の果実があるのだと‥。それを王宮の北西に位置する場所にも何株か移して育てていたと言っていました。そこにも滝があると言ってたので、滝の周辺に実がなるのかと‥」

「なるほどね‥。魔女の母はその北西の方に向かった可能性が高いのよね」

「恐らく。空を飛ぶのにも魔力を使いますから、そこで補給していると思いますよ」

 私たちの行動を読んで、もうここに向かってきているかもしれない。‥でも、ここにはレオンと私の2人きりだから‥誰かを操ることはできないし、魔女の母はどうやって私たちを追い詰めるつもりだろう。

 レオンがいてくれるというだけでかなり心強いけど、それでも魔女の母は脅威でしかない。
 ーーー早く果実を見つけないと。

「レオンは果実を見たことがあるの?色や形はどういうものなのかしら‥」

 馬から降りて冷たい川に指を入れながら尋ねてみる。

 透明な水の中に小さな小魚を見つけて、内心嬉しくなった。こんな些細なことで皆が喜んで暮らせる日々が早く訪れてほしいと、切に願うばかりだ。

「んー‥、確か赤黒いと言っていたような気がするんですが‥。形は‥小さい‥‥いや、大きい‥‥?‥‥すみません、幼い頃に一度聞いただけなので、細かいところが思い出せません」

 レオンは申し訳なさそうに眉毛を下げていた。

「むしろすごいと思うわ。本当に谷があって、滝もあったじゃない。覚えている方だと思うけど」

 少し照れ臭そうに口角を上げたレオンは、馬の手綱を木に縛ると道中で購入していた深緑色の布を取り出した。

「そういえばなんか色々買ってたわよね」

「すぐに果実が見つかるかは分かりませんし、見つかってからもすぐに使える魔法が増えるかも分かりません。この地が山深いのは想像できてましたので、暫く山暮らしになるかと思いまして‥」

「山暮らし‥!寝床のことなんて全く考えてなかったわ」

「ちょうど良く洞窟なんかがあればよかったんですが、残念ながらありませんでしたね。日持ちする食べ物も買っておいてあるので、今日のところは全力で寝床を作ろうと思います」

 まさか野宿を経験することになるとは思っていなかったわ。でも、何故だかわからないけど、異様に気分が高揚しているのが分かる。

「レオン!私は何をすればいいかしら‥?!」

「ふっ、皇女様、ウキウキしすぎですよ」

「ウ、ウキウキなんてしてないわ!」

 くすくす笑い続けるレオンをキッと睨み付け、私は荷解きをすることにした。

「すみません、可愛らしくてつい‥」

 ボッと耳が赤くなった気がして、レオンの方を見れなかった。レオンはこうして唐突に爆弾を落としてくるから油断ならない。


 レオンは自然に生えてる木々を利用しながらも、時折細長い木を伐採して集めていた。私はレオンのすぐ近くで枝や落ち葉を集め続けた。

 事前に買っていた縄を巧みに使いながら、レオンはみるみるうちに木々を組み立てていく。ある程度の骨組みが出来上がると、そこに細い木を立てかけ始め、あっという間に小さな建物のようなものができあがった。

 元々自生している木を利用しながら出来上がったそれは、確実に数日前に泊まった宿のベッドと同等のサイズ感があった。

 天井にあたる部分には細い木や葉付きの枝を沢山並べ、自然の素材を用いた屋根が出来上がった。

「ね、ねぇ、レオン!貴方どうしてこんなものが作れるの‥?!」

 きっと普通に街中で生活している人にはこんなスキル身につかないと思うけど‥

「幼い頃、あの子ども姿の魔女と生活するにはあまり人目につかないように山奥で過ごすしかなかったんです。いくら人の意識を操れても、毎日毎日子ども2人で生活を続けていくと、キリがなくて。‥山奥の小屋暮らしをしているうちに、山のもので遊ぶことが自然と身についていって‥」

 レオンはそう言いながら、キュッと木の柱を紐で縛り上げた。爽やかな笑顔を浮かべるレオンは、無邪気な少年のようにも見えるし、頼もしい男の人にも見える。

「すごい特技だわ‥。レオンがいたらどこででも生きていけるわね‥」

「ははっ」

 レオンが作業をするたびにチュニックの袖口から腕の筋が見える。逞しい腕が視界に入る度に胸が煩くなって、何度も何度も目を逸らした。

 私が集めた葉っぱは地面に敷き詰められた。その上から大きな布を敷くと、立派な寝床の完成だ。

「すごいっ!すごいわレオン!!」

 まさか何もない山の中でここまで立派な寝床にありつけるなんて。

 レオンは私の反応を見ると何処となく嬉しそうに口角を上げた。その優しげな瞳と目が合うとまたもやすぐに胸が鳴ってしまう。

「‥‥皇女様が喜んでくれると、俺まで嬉しくなります」

 レオンが頬を染めてそう言うと、見事に私の頬もボッと熱くなった。

 寝床の入り口付近で火を焚き、道中で買っていたパンを齧る。火はぱちぱちと火花を散らしながらも赤く揺らいでいた。

「山の中の野宿ですし、最近朝晩は特に冷えますから‥火は燃やし続けなければいけませんね。魔女のことを考えると火は目立ってしまいますが、この服装では近くで火を燃やしていても正直寒い筈です」

「‥‥でも、レオンが作ってくれた寝床がなかったら、きっともっと風に当たって酷い思いをしていたはずよ」

「ーーーーここに布をこうして縛れば‥」

 レオンは火が届かない高さに、紐を通した布を広げて木々に縛った。

「あ、火が見えないように‥?」

「はい。空から飛んできた時に、少しでも見つかりにくいようにと‥。まぁここは滝の近くですし、魔女がこの谷に来れば遅かれ早かれ見つかるんですが。寝込みを襲われるのは避けたいですからね」

 ーーレオンの言葉に頷いた。
次第に空が暗くなっていく。不安な気持ちを抱く私たちは、どこか寄り添うようにしながら太陽が沈んでいくのを見つめていた。

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