最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
88 / 123

87話

しおりを挟む

 レオンの仮説が正しければ‥
 さっきより時代が進んだ今に飛んだのは、ここでも魔女の母と接触する為‥。
 つまり先程同様に、近くに魔女の母がいるのかもしれない。会えばまた、次の段階に飛ばされてしまう‥。

「ーーー魔女狩りを‥どうするかは決められないけど、どちらにしても何故魔女狩りが行われることになったのかを調べないと」

 そう言葉を落とした後に、レオンの刺さるような視線を感じて思わず目を合わせた。

 宝石のような瞳。きっと決断ができていない腑抜けな私に愛想を尽かせているのかもしれない。

「‥皇女様、機会を逃したら何も変えられません。今のうちからしっかり覚悟を決めて下さい」

 レオンだって、少し前まで私を攫いたいとか言ってたじゃない‥。なのに自分ひとりだけ先に進んでる。
 たぶんレオンは魔女から2人で逃げ続けずに、過去に飛ぶと決めた時点で覚悟を決めたんだと思う。

 私が簡単に決断できるよう、敢えて私を突き放そうとしてるレオンを見てグッと目の奥が熱くなる。
 ーープチン、と何かが頭の奥で弾けた気がした。

「なによ!仕方ないじゃない!!私は貴方に居なくなってほしくないんだから!!!」

 少し前までは認めたくなかったこの想い。
レオンが猫だったという事実も相まって、否定しようとした恋心。

 だけどもう、そんなのどうでもいい。
いま足掻かないとレオンに伝わらない。レオンのことを知っていくうちに、レオンを信用して良い人間だと思った。環境がレオンを猫にさせたんだと思えた。

 それに、もしもまた裏切られたって全然いい。

「ーー消えちゃうくらいなら、敵でもいいから!!!近くにいてよ馬鹿!!!」

 気付いたらわんわん泣いていた。魔女に体を解放されてから一体何度涙を流したんだろう。過去にきてまでこうして泣くとは思わなかった。

 もう自分の気持ちに素直になりたい。もう解放させたい。全部全部取っ払って、使命とか全部放り出して、自由になりたい。

「一緒にいでよぉ、私のごど、好ぎ、なんでしょ?」

 ひぐひぐと嗚咽が煩い。涙も鼻水もダダ漏れだ。なんて汚い泣き方なんだろう。

 幼い頃から求められる皇女像であろうと意識して‥魔女の母から解放されてからも、何度も何度も折れそうになった心を何とかここまで繋いできた。“正しくありたい”と、葛藤に塗れながら生きてきた。

 でも、もうそんなのどうでもいい。

「っ‥」

 レオンは口を開いて何かを言おうとしたけど、声が出せずにまた口を閉じた。突然壊れた私を見て引いてるかしら。

 流れ続ける涙を拭って、キッとレオンを睨みつけた。

「レオンの言ってること、正しいよ!確かに懐柔する時間なんて無いし、そんな虫のいい話ないと思うよ!でも!‥レオンがいなくなるのは嫌なの!!!」

「ーーーーー‥‥皇帝陛下や、ロジェ様のために、頑張ってきたんじゃないですか」

 レオンが絞るような声でそう言った。泣き出しそうな、苦しそうな表情だ。

「そうよ!!お父様のことも、ロジェのことも助けたいわよ!!でも、レオンがいなくなるのも絶対嫌なの!!」

 うわぁんと声をあげる勢いだ。レオンとバートン卿がオロオロしながら「声を抑えて下さい」とかなんとか言っているけど、そんなこと構ってられない。

「ちょっと、なんだい。またあんたたちか。“皇女様”が赤ん坊みたいに泣いてるじゃないか!不甲斐ない男たちだねぇ」

 ーーこの街は至る所に背の高い塀があって、私たちは人目につかない塀の影に姿を隠していた‥のだけど、魔女の母がひょいっと私の目の前に現れた。

 もちろん魔女の母の後ろの方でレオンとバートン卿が「ああ~」っと軽く落胆しているのは言うまでもない。このトリップの鍵である魔女の母と会ったということは、またすぐにどこかへ飛ばされてしまうということ‥。

 そんな私たちの心情は露知らず、魔女の母は優しく微笑むなり私の頭をポンポン、と撫でた。

「‥あのあと、あんたたちのことは信じたんだ。だって目の前で3人とも消えちまっただろ?そんな魔法、誰かに授けたこともないんだ。だから未来から来たって信じることにした」

 魔女の母はそう言って、ニィっと口角を上げている。

 私はなんだか無性に魔女の母に縋りつきたくなった。魔女の母だって困るに決まっているのに、彼女の笑顔を見ると何でも受け入れてくれそうな気がしてしまう。

「フ、フェリシテ様ぁ‥‥」

 控えめにその名を呼ぶと、魔女の母はくすくすと笑いながら私の背を撫でてくれた。

「なぁ、何故そんなに泣いてるんだ。悲しい未来を変えたくて頑張ってるんだろう?」

 魔女の母は‥フェリシテ様は、こんなにも優しく声を掛けてくれる人なんだ。突然現れた私たちを信じて受け入れて、背中を撫でてくれる温かい人なんだ。

 そんなフェリシテ様が、未来では復讐の為だけに生きている‥。その苦しい未来を変えたくてここにきたのに‥。

「‥‥そこにいるレオン‥が、未来ではフェリシテ様の手下なんですけど」

「て、手下じゃありません!」

 私はレオンの言葉を無視してフェリシテ様に訴え続けた。

「ーー魔女狩りを無くしたいけど、そうするとレオンがこの世界に生まれないんです」

 突然こんなことを言われたって意味がわからないに決まってる。それでもフェリシテ様は真剣に私の話を聞いてくれていた。

「‥魔女狩りが行われたからこそ生まれ落ちた命が沢山あった‥‥ってことかい?‥‥そうか。好いた男を取るか、世界を取るか‥といったところなんだね。そりゃ悲しくて泣くよなぁ」

 小さく温かな手のひらは、いつまでも私の背中を撫で続けていた。おかげで嗚咽は止まってくれそうにない。

 どうすれば‥どの道を選べば、レオンのことも、お父様やロジェのことも、フェリシテ様のこの温かさも‥失わずに済むんだろう。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...