最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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90話

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 私はレオンと手を繋ぎながら、カマル殿下から熱烈な愛の言葉を浴びせられるという不思議な体験をしていた。

 レオンもバートン卿も、カマル殿下がこの時代の皇族であると知ってしまった手前決して無碍にはできない状態だ。
 そもそもフェリシテ様と会えばすぐにまた場面が変わるから、それまでの辛抱とでも思っているのかもしれない。

「俺は絶対に王座を奪うんだ!!そしたらサマンサ!!君を側室に迎え入れよう!!」

 ーーカマル殿下は派手で豪快であり、皇族の中でも“特殊”であると後世にも伝えられてきた人物だ。

 実際に本人を目の前にして、なるほど!としみじみ思う。彼はまだ10代半ばの少年だけど、争い続きの壮絶な人生を送ってきた。その中で培われた彼の人間性は『強気・前向き・屈しない』といった感じで大変素晴らしいのだけど、いかんせんレオンに握られている右手の圧が凄い。

「‥‥殿下、私のような庶民が側室だなんて恐れ多いです」

「大丈夫だ!俺が何とかする!」

 カマル殿下はそう言ってファサッと眩しいほどのブロンドの前髪を掻き上げた。どちらかといえば純朴そうな可愛らしさのある顔付きなのがまた色々とギャップを感じる要因なのかもしれない。

 きっとこの人、喋らなければとてもモテていたはずね。


「‥でも、私にはこの人がいますから」

 右手でレオンと手を繋ぎ、左手の指でレオンのマントを掴みながらそう伝える。こうして直接お断りをしても、カマル殿下は元気の良いままだ。

「あぁ!俺が王座を奪うまでは長い道のりだからな。それまでに整理をつけておけばいい。俺は懐が深ーー」

「あんたなぁ。いい加減にしろよ‥」

 ーーあぁ、ついにレオンがキレてしまった‥。
レオンは握っていた手を解くと勢いよくカマル殿下に掴みかかった。
 バートン卿が慌てて止めに入るものの、レオンの怒りは収まりそうにもない。茂みに隠れていたカマル殿下の従者達もわらわらと飛び出し、あわや殺し合いが始まるという所で幼い少女の笑い声が聞こえてきた。

「フェリシテ様!」

「また会ったな~。なんだお前ら、今度は乱闘か」

 フェリシテ様がそう言ってクスクス笑うと、カマル殿下もレオンもバツが悪そうな顔をして掴み合う力を緩めた。その隙を見て2人の間にバートン卿やカマル殿下の従者の人たちが割って入る。

「この無礼者が。あとでその首叩き斬ってやるからな」

「やってみろこのクソガキが」

「な~に~を~?!貴様、俺が誰だか分かったうえで言ってるんだろうな?!」

「戦いに敗れた賊だろう。ふんぞり返って威張れるほどの立場じゃないだろ」

「はぁ?!俺は!!この国の!!皇子だぞっ!!!」

 レオンはもう完全に開き直ってしまったらしい。自分がこの時代の人間じゃないからって、あまりにも口が悪過ぎるんじゃないかしら‥!
 従者達がギラギラした目付きでレオンを睨んでいるわ‥。フェリシテ様がレオンの側にいるから迂闊に斬りかかれないようだけど‥

「レオン‥!もうやめて!」

「‥‥しかし‥」

 フェリシテ様がカマル殿下とレオンの顔を交互に見つめて呆れたように笑うと、バートン卿がさらっと事情を説明してくれた。

「‥ほぅ。カマル、あんたは今朝も私に“惚れた”とかなんとか言ってなかったかい?」

「うっ!!!」

 カマル殿下は明らかに狼狽えた。引き攣った顔をしながら時折私の方をちらちら見ている。

「予想してたことだけど、やっぱりあんた皇室のカマル殿下だったんだね。私にちょっかい出してた理由は、私の力を都合良く使いたかったからってわけか。まぁ分かってはいたけど。
あんた達が毎日色んな手伝いをしてくれるの、便利だったんだけどねぇ」

 フェリシテ様がそう言うと、カマル殿下はワシワシとブロンドの髪を掻いたあと、大きく息を吐いた。

「仕方ないだろう?!俺にはもう、お前の力に頼るしか道は残されてないんだ!!」

「ーーー改変する前なら‥。今頃私はあんたとこの森で多くの時間を過ごして‥もしかしたらあんたの読み通り、都合の良い女になっていたかもしれないなぁ」

「改変‥?」

「ーーだが、いまはあんたに構う時間がないんだよ」

「っ、またそれかよ!!俺はこのままじゃ何も手に入れられない!!‥‥俺は諦めないからな!!!王座も、グレースも、サマンサも!!!」

 カマル殿下はそう吐き捨てると、レオンをきつく睨みつけてからその場を離れていった。

「‥困った男だなぁ。まぁ、必死なんだろうな」

 フェリシテ様がそう言って溜息を吐くと、レオンも苛立ちながら深い溜息を吐いていた。

 ーーグレース‥。きっとグレース皇后陛下のことね。カマル殿下が処刑されてすぐに不審死を迎えたグレース皇后陛下‥。
 カマル殿下がグレース皇后陛下を想っていたとなると、グレース皇后陛下の“不審死”はカマル殿下の死と関連している可能性がある。

 皇室の死が続いてから始まった魔女狩り‥。
ーー魔女狩りのきっかけはカマル殿下とグレース皇后陛下にある可能性が濃厚ね。

 カマル殿下たちがその場を離れたのを確認してから、私はカマル殿下とグレース皇后陛下の死について皆に共有した。

「カマルが王座を狙った上で処刑されるのは想像がつくが‥そうか、皇后陛下も‥。うーん。あまり考えたくないんだが、一番有りそうな展開を言ってもいいかい?」

「はい。なんでしょうか‥?」

 フェリシテ様は顎に人差し指を置き、渋る様子を見せながらも口を開いた。

「魔女狩り対策に動き回ることもなく、あんたたちの存在すら知らなかったら‥‥私は長い人生の中で初めて言い寄ってきた男に恋に落ちていたかもしれない」

 少し恥ずかしそうに、フェリシテ様はそう言った。

「‥改変する前、カマル殿下に恋に落ちていた可能性は十分あり得ますね」

「ああ。だがカマルにとって私は踏み台でしかなく、王座と皇后を求めて奴は離れてしまう。そうなったら私はもしかすると狂いかけるかもしれないな。‥‥長く生きすぎたせいか、特定の誰かの温もりを求めたくなる気持ちが、容易に想像できてしまう。あはは、参ったなぁ」

 フェリシテ様はそう言って笑うけど、私は笑うことなんて出来なかった。いまのフェリシテ様はとても明るくて清らかだけど、きっと計り知れない孤独感も感じているのかもしれない。

「貴女と殿下との間のすれ違いがあり、殿下はその後処刑にて死亡、皇后を恨む貴女が皇后を殺し‥皇帝が魔女狩りを始めてしまう‥‥という流れでしょうか」

 バートン卿が控えめにそう声を落とす。

「んー‥もし私が手にかけたのなら、“不審死”と言われるのかね。魔女がやったと分かっていればそう記載されると思うけどな」

「確かにそうですね‥。でも、ならば何故魔女狩りが始まったのでしょう」

「ーーーあのクソガキが死ぬ間際にでも、魔女たちが反逆するとかなんとか言ったんじゃないですかね」

 話を聞いていたレオンが、静かにそう言った。

 確かに、もしもフェリシテ様が皇后を恨んでいると分かっていれば‥皇后に危害が加えられないよう、そう吹聴するかもしれない。

 そして、その直後皇后が原因不明の死を遂げたら‥
魔女が殺したのだと決めつけ、魔女狩りを決断するのかもしれない‥。

 ーー魔女狩りのきっかけが点と点で結ばれていったような気がした。
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