最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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108話

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「わぁ!なんだよあんたら!」

   突然響いた男性の声。どうやら飛ばされてきた場所に人がいたみたい。

「お、驚かせてしまってすみません」

  辺りはカラッと晴れていて、肌に触れる空気は生温かった。一体ここはどこなんだろう‥。どれくらいの時間が経っているのかな。

「魔女さまなのか?!あんまり長居するなよ!」

   私たちの登場に驚いていたおじさんは、ぶっきらぼうにそう言い放ってその場から離れていった。

   ーーーあんまり長居するなよ‥??

   一見その言葉の意味だけを考えると魔女を疎ましく思っているようだけど、私たちを見つめる様子は怪訝そうには見えなかった。

「‥一体何が起きたのでしょうか‥?」

  目をパチパチと瞬かせているバートン卿は寝巻き姿のままキョトン顔だ。レオンに至っては横になりながら静かに眠っている。

  私はまだ眠る前だったし、夜風に当たるからとマントも羽織っていた。まさかカマル殿下との会話がきっかけで飛ばされるなんて思わなかったとはいえ、寝巻き姿の2人には申し訳ない気持ちになってしまう。

  眉を下げながらバートン卿に事情を説明する。すぐに理解をしたバートン卿は、「こういうパターンもあるのですね‥」と小さく驚いていた。

  生温い風がレオンの髪を撫でると、やっとレオンが目を覚ました。驚いたように飛び起きて辺りを見渡すレオンを見て、私は小さく笑ってしまった。こんな些細なことも愛おしく感じるのだから、誰かを好きになるという気持ちは凄いなぁとしみじみ思う。


  レオンにも事情を説明したあと、私たちは周辺を探索して現状を把握することにした。
ここは小さな町の外れのようで、さっきのおじさん以外に人も見つからない。

「っ、やっぱりここ‥」

   レオンが険しい顔をしながらポツリと声を漏らす。

「知ってる場所なの?」

「‥はい。俺の家があった場所の近くです‥。改変前とは街並みが少し違うのですぐには気付きませんでした」

   私は目を見開いて固まった。バートン卿も息を飲むような表情を浮かべている。はやる気持ちをなんとか抑えながら、確かめるように尋ねた。

「そ、そ、それって‥‥この時代にレオンが存在してるってことなんじゃ‥?!」

   レオンの生家の近くということは、そういうことよね?!

「分かりませんけど、とりあえず向かってみましょうか。もしかしたらまだ俺が生まれる前かもしれませんし。元々父の婚約者だった女性を追い出すのが今回の使命だったりして‥」

   冗談めいた口調でそう言い放ったレオンに、バートン卿は困り声をあげる。

「‥それはすごく嫌な使命だな‥」
 
 
   長い足を次々と前に運んでいるレオンは、辺りをきょろきょろと見渡しながら幼い頃の記憶を思い返しているようだ。

「ここら辺一体は、夜になると風が強まるんです。‥改変前は近所にももっと民家があった気がするんですけどね‥」

   防風林が連なる中、一軒の民家が姿を現した。温かみを感じるような木の家だ。

「素敵なおうちね」

   レオンは幼い頃に暴動の煽りを受けて天涯孤独になり、フェリシテ様に拾われた過去を持つ。懐かしげにこの家を眺めるレオンは、時折切なげに目を細めていた。

「‥あなた方は‥どちら様ですか?」

   突然背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには教会のシスターらしき年配の女性がいた。
 レオンはその女性に見覚えがあるようで、パァっと表情を明るくしている。

「シスター!」

   元気よく声をあげたレオンを見てシスターはキョトンとした。

「あ‥の‥失礼ですが、お会いしたことがありましたか‥?すみませんねぇ‥私最近すごく忘れっぽいんです‥」

「遠い昔にちょっと‥。‥‥俺たち、この家の人に用があって‥」

   弾むような口調でそう話したレオンと対照的に、シスターの表情は暗く沈んでいく。その様子に私たちは一気に緊張感を抱いた。まるで心臓を鷲掴みにされてしまったみたいだ。

「‥この家の‥ご夫婦が事故で亡くなって‥。ご子息がいるはずなんですが、事故のあと誰も彼の姿を見ていないんです。教会が運営する孤児院で引き取ろうと思っているのですが‥」

   ーーーそんな‥。事故で、死亡‥?

   声が出てこなかった。レオンになんて声をかけたらいいのかが分からない。

「あっ!ちょっと!」

   シスターが呼び止める声を無視してレオンが家の中に入っていく。私とバートン卿もレオンの後に着いていった。

   階段を駆け上がったレオンは廊下の突き当たりにある窓を開けた。

「レオン‥?!」

   窓から身を乗り出したレオンは、一階部分の屋根に降り立った。

「皇女様、危ないですのでそこで待っていて下さい」

   ‥一体どうしたのかしら‥。

「‥‥レオンはきっと、自分が隠れている場所が分かるのだと思います」

   隠れている場所‥。じゃあ、もしレオンの予想が当たっていたら‥。改変後の世界に"レオン"が存在してくれたということ‥?

   ゴクリと息を飲みながら、レオンが戻ってくるのを待った。

   何やら抵抗しているような子供の声が聞こえてきて、私はバートン卿と目を合わせたあとに窓に駆け寄った。

「こらっ!危ないから暴れるな!ーーーあっ!」

   そんなレオンの声が聞こえた途端、窓から子どもが飛び込んできた。その男の子は前を見ずに突っ込んできたらしく、窓から様子を見ようとしていた私にぶつかった。

   私は尻もちをつきながら、なんとかその子どもをキャッチした。その体はまだ小さく、幼い。

「「皇女様!!」」

「大丈夫よ」

「くそっ!放せよっ!!!」

   腕の中で暴れた拍子に、その子どもの頭が私の顎に直撃した。痛い。痛いけど、全然気にならない。


 ーーー赤茶色の髪、アーモンド型の形のいい瞳。あぁ‥


「あなた‥レ‥オン‥??」

「はぁ?!そうだけど??!!つーか、えっ?!なんで泣いてんの?!」

  ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。泣いてばかりで嫌になっちゃうなぁ、もう。

   目をまん丸にした子ども時代のレオンは、号泣する私に驚くあまり抵抗するのことを忘れてしまったようだ。

「ありがとう、レオン‥生まれてきてくれて、本当にありがとう‥!」

   そう言って泣きながらレオンを強く抱きしめると、レオンはだんだんと目を潤ませて私の胸で静かに涙を流し始めた。

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