最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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111話

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 フェリシテ様はいつ見ても姿が変わらないけど、カマル殿下はもちろん時代の流れと共に歳をとる。

 カマル殿下は立派な髭をこさえた品のある素敵なお爺さんになっていた。

 私たち3人を順々に見ては、「本当に変わらないな‥」と小さく呟く。懐かしんでいるのか、彼の目には薄っすらと涙が浮かんでいるようにも見えた。

「‥魔女狩りとは一体どういうことですか‥?」

 バートン卿が尋ねると、カマル殿下はどこか言いづらそうに口を噤んだ。

 代わりに口を開いたのはフェリシテ様だ。

「‥‥‥あんたたちが消えたあと、カマルにお願いされたんだよ。“俺が魔女狩りになるから協力してくれ”ってな」

 私たち3人は目を見合わせて首を傾げた。

「私もすぐには理解できなかったさ。簡単に言ってしまえば、コイツは“魔女狩り”という名の化け物になって、この国の魔女たちを襲ったんだ」

「「「え?!?!」」」

 カマル殿下は顎から伸びた長い髭を撫で下ろしながら照れたように笑っている。

「私の魔法でカマルの姿が化け物に見えるようにして、カマルはあちこちで魔女を襲い続けた。魔女たちに“魔女狩り”の存在を信じ込ませる為に随分と派手に暴れていたよ。魔女たちに怪我をさせないように気をつけながらな」

「何のためにそんなことを‥」

 バートン卿が驚愕したままカマル殿下に視線を送る。私はその傍らで、カマル殿下の行動の理由を察して衝撃を受けていた。


 ーー私はテラスでカマル殿下と話している時に飛ばされたんだ。あの会話が“きっかけ”だった。

 足が震えて、力なくへたり込む。床はつるんと平らだが、これまた結晶のような素材でできていてひんやりと冷たい。

 なんて言えばいいのか分からない。お爺さんになるほどの年月の間‥カマル殿下は己を犠牲にし続けてきたの‥?


「魔女は次第にその身を守るために拠点に集まりだした。それでも時折人里に降りては人間の為に力を使い続けてる。だから人間は魔女を恐れているわけじゃない。‥魔女を襲うこの男を恐れているってわけさ」

 フェリシテ様の笑顔は少し寂しそうに見えた。そんなフェリシテ様を、カマル殿下は優しげに見つめている。

「‥‥フェリシテが、協力してくれたからやりきれたんだ。ワープの魔法使いも秘密裏に何人か手伝ってくれたからな‥」

 懐かしげにそう語るカマル殿下。私はテラスでの言葉を思い出していた。

『何も出来てないのに何かを欲しがるなんて、すごく強欲だったなって』

 彼はあの日、夜風にあたりながらそう言った。
私の泣き言を聞いて、助けようとしてくれたのだろうか。歴史が大きく変わったことで消えていく命を、拾ってくれようとしたのだろうか。

 ーーー魔女と人間の間にも軋轢を生ませず、自分の人生だけを犠牲にすることによって。


「カマル殿下‥」

   彼の行動によって、レオンは生まれてきてくれた。レオンだけではなく、改変前と変わらずに生まれてきてくれた人は沢山いるはず。

   ーーーーでも、それって‥
私が思い描いた未来に繋げる為に、カマル殿下の運命を無理矢理捻じ曲げてしまったってことになるんじゃないのかな‥。何十年という期間の間、化け物として恐れられ嫌われ続ける運命を背負わせてしまったんじゃないのかな‥。

   足腰に力が入らずに、立ち上がることができない。口を開いても言葉は出てきてくれなかった。 そんな私を見て、すっかり優しいお爺さんになったカマル殿下は優しく笑う。

「迷惑だったか?サマンサ‥。世界の運命が変わったのだから、抗うことなく新しい運命を受け入れるべきだったと思うか‥?」

   しゃがれた声は沈んだ私の気持ちに寄り添うように優しかった。

「カマル殿下は、私が渇望していた世界を作って下さいました。‥でも、カマル殿下は未来の形がこうじゃなくてもよかったはずです‥。私が望んだせいでカマル殿下の運命が‥」

「サマンサは‥凛として‥そのうえ清廉な印象だけど、割と考え込むタイプだよな。案外根暗だって言われないか?」

「っ、言われたことはないですが‥」

   皇女という立場の私に言えないだけで、みんなには根暗だと思われていたのかしら‥?!
焦ってレオンとバートン卿を見ると、2人は首を小刻みに横に振っていた。そんな光景を見て、フェリシテ様が声をあげて笑う。

「むしろ俺はお前に感謝してる。レオンが生まれたと知った時、俺は人生で初めて何かを成し遂げられたんだって心の底から喜んだんだぞ」

   満足そうな表情を浮かべているカマル殿下に罪悪感を抱くことの方が罪なことなのかもしれない。

「カマル殿下‥ありがとうございます」

   私がそう言うと、カマル殿下は微笑みながら頷いてくれた。


「あんたそんなキャラじゃないだろ」

 唐突に憎まれ口を言い放つレオンに、カマル殿下は細く骨張った肩を揺らしながら笑う。

「俺は昔から善人だろ」

 そう言って笑い続けたカマル殿下が急に咽せだした。一度咽せるとなかなか収まらないらしく、ぜいぜいと息を荒らげている。

「‥無理を続けるからだ。いくら自分を癒す力があったって、魔女たちの抵抗を何百回何千回と受ければ流石にガタが来るだろう。あんたを癒す魔法がその体にほぼほぼ吸収されずに溢れ出して結晶は増えていくばっかりだ。あんたはもうすぐ死ぬよ、カマル」

 この部屋はカマル殿下の魔法から生み出されたものだったんだ‥。

「‥あぁ、だから聞きたかったんだ。‥‥サマンサ‥」

「はい‥」

「‥改変の前‥‥魔女狩りはいつ終わったんだ?」

 改変前の歴史に合わせてくれようとしていたんだ。
この人はどこまでも健気で真っ直ぐな人なんだなぁ‥。

 ぐっと目頭が熱くなる。私は涙ぐまないように瞳を上に向けた。何度か瞬きをしたあとに、一呼吸置いてから口を開く。

「‥‥魔女狩りは私が5歳の頃に終わりました。帝国歴340年の頃です」

「じゃああと3年くらいか‥。よかったよあと20年後とかじゃなくて‥」

   そう言ってカマル殿下が笑ったのと同時に、私たちの体がピリピリと痺れだした。どうやら次の場面に飛ぶらしい。

   次の場面には、もうカマル殿下はいないかもしれない‥。

   私はカマル殿下をそっと抱きしめた。敬愛の意味を持ったハグ。抱きしめてみると、彼の体が驚くほど小さくなっていることがよくわかる。
 

「カマル殿下のこと、一生忘れません‥」

「ははっ‥嬉しいなぁ‥」

   そうして、私たちの体は飛ばされた。


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