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112話
しおりを挟む私たちが飛ばされた先は、森の拠点の広場のようなところだった。
相変わらず拠点の中は至る所に魔法が仕組まれているし、多くの人で賑わっている。なんだか商人のおじさんのような人たちもちらほら見える気がするんだけど気のせいかしら。
「わっ!サマンサ様?!」
澄んだ声が聞こえて振り返ると、そこには背が伸びた少年姿のレオンがいた。
声もまだ高くあどけなさも残っているけど、大人のレオンに随分と近付いた気がする。この数年の間に呼び捨てじゃなくなっているなんて‥
「レオン、大きくなったわね」
なにやら腰には剣までぶら下げている。
「はいっ!っていうか大人の俺‥まだパジャマ着てんの‥?恥ずかしいからやめてよ~」
「「うっ」」
言葉に詰まる大人のレオンとバートン卿をよそに、私は幼いレオンの後ろでなにやらモジモジしている男の子が気になった。
「も、もしかして貴方はテッド‥?」
癖のある灰色の髪に丸眼鏡。済ましたクールなテッドとは印象が全然違うけど、見た目の特徴は間違いなく彼だわ。
「は、はい‥」
やっぱり‥!私は嬉しくなって思わず口元が緩んでしまった。大人のレオンも私と同じような表情を浮かべている。
レオンとテッドは改変前も幼馴染だった。こうして少年姿の2人が一緒に過ごしていることを微笑ましく思っているのかもしれない。
「えっ?!サマンサ様!テッドのこと知ってるんですか?」
レオンが目を丸めて驚いている。その素直な反応が可愛らしくて私は目を細めた。
私たちにとっては一瞬の出来事だけど、カマル殿下が歳を重ねていたように彼らも歳を重ねている。
敬語まで使えるようになって‥。と、しみじみしていると幼いレオンにジッと見つめられていることに気が付いた。‥そういえば会話の途中だったわね。
「テッドも私の騎士だもの」
ーーーノエルとテッド‥。あの夜に助け出せなかった大切な仲間。
いま目の前にいるテッドが幸せに生きていけることを心から願うばかりだ。
きっとその為の過去へのトリップも、もうすぐ終わりを迎える。
「ぼ、僕も騎士になれているんですか?!」
モジモジしていたはずのテッドはパァッと表情を明るくした。一方のレオンは眉を顰めて「えぇ?!」と声をあげている。仲良さそうに見えるのに、どうしてそんな反応をしているのかしら‥?
不思議そうな私たちに気が付いたのか、幼いレオンは説明をしてくれた。
「テッドは一緒に剣術を習っているんですけど、昔から歳の離れたお姉ちゃんにべったりなんです。だから騎士をやってるなんてびっくりで‥」
そうなんだ‥!改変前のテッドからは想像しにくいけれど‥そっかぁ、この世界では魔女狩りで家族を亡くしていないから、大好きなお姉さんに甘えることができているのね。
「私が知ってる世界では2人とも騎士だったけど、絶対にその道を選ばなきゃいけないわけじゃないからね。やりたいことが見つかったらどうかその道を選んで欲しい」
できれば騎士になって近くにいてほしい。でも強制して押し付けてしまうのは嫌‥。
こうして2人ともすくすくと成長してくれていることに安心したし、幼いレオンが私を認識してくれている以上‥もしもレオンが騎士という道に進まなくてもきっとまた出会えるはずーー
「え‥?!サマンサ様‥‥俺と結婚してくれないんですか‥‥‥?」
「え?!?!」
幼いレオンの台詞に驚いて、思わずパッと大人のレオンを見てしまった。大人のレオンは眉を少しあげて、戸惑っているようにも見えた。
ど、ど、どうしよう。前回はあまりにも小さくて可愛い男の子のプロポーズを微笑ましく受け止めていたけど、そもそも私とレオンは結婚を約束してるわけじゃない。
というか恋心を素直に自覚できるようになってすぐ、レオンの存在が消えてしまうかもとハラハラしながら過ごしてきた。具体的な将来の話なんて‥。
‥そもそも改変後の私は"真っ当"な皇女として生きているはず。貴族や他国の王族に嫁ぐという運命が待っているんじゃないかしら‥。ずん、と途端に心が重く沈む。
そこまで思考を巡らせてから目を伏せると、大人のレオンは幼いレオンの両肩を力強く叩いた。
突然の檄に驚いた幼いレオンが「わっ」と驚きの声をあげる。
「名家の生まれではない俺が皇女様と結ばれるためには、お前が言ってた魔法騎士団長とやらになるしかない。だから死ぬ気で目指せよ!!」
レオンは本気で幼い自分に訴えかけていた。今度はくるっと私の方を向き、ぐんぐんと近付いてくる。
「もうここまできたら貪欲になります‥。希望があるなら俺は望みますよ。皇女様との未来を‥」
手が届くような距離で、大人のレオンは真剣に私を見つめながらそう言った。まっすぐな眼差しは私の心を簡単に焦がしてしまう。ドキドキと煩い胸に両手を当てながら、私はこくこくと頷いた。
「おいっ。俺はお前なんかに言われなくたって死ぬ気で頑張る気満々なんだよ!い、今から小さいサマンサ様に会いに行くし!!」
「「「え‥?!」」」
私とレオンとバートン卿の声が被る。
「今日は皇女様の10歳のバースデーパーティーだからね!!」
幼いレオンはそう言って得意げな顔をした。
ーー10歳のバースデーパーティー‥。全てが始まったあの誕生日だわ。
ここまでの記憶が荒ぶる感情の波となって押し寄せてくる。辛くて苦しかった日々は、もう消えて無くなったのだとしみじみ感じてしまう。
‥まぁ、まだ旅の途中なんだけど。
「呼ばれたのはあんたじゃなくて私だろ。ついでにあんたを連れてってやるだけさ」
ふいに聞こえてきた声はフェリシテ様のものだった。
「フェリシテ様‥!」
箒の上に横向きに座りながらプカプカと宙に浮くフェリシテ様。相変わらず姿は幼いままだけど、フェリシテ様がいるだけで安心感に包まれる。
魔女の母ではなく、フェリシテ様がフェリシテ様のままでいてくれていることにも心からホッとする。
「どうだ?レオン。ここまであんたのことを育ててやったんだぞ?あんたは否定していたが、やっぱりあんたの育ての親は私じゃないかい?」
その言葉を聞いた大人のレオンが渋い顔をして頭をポリポリ掻くと、フェリシテ様は愉快そうにケタケタと笑った。
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