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114話
しおりを挟む私たち3人はそれぞれパーティー仕様の装いになった。
バートン卿は夜空のような紺色のジャケットを、レオンは沈む夕陽のような紅いジャケットを羽織った。
パジャマ姿ではなくなった2人を見て、幼いレオンとテッドが「おぉ‥」と声を漏らしている。
2人は贔屓目なしでとてもかっこいい。どこか艶やかな色気があるバートン卿と、爽やかな笑顔が似合うレオン。きっとパーティー会場では多くの視線を集めるに違いないわ。
「皇女様、お綺麗ですよ」
大人のレオンが目を細め、私を見つめながら言う。
透き通った綺麗なレオンの瞳が妙に照れ臭くて、私は目を逸らした。
「あ、ありがとう」
私が身に纏っているドレスの色はレオンと同じ夕陽色。これは‥敢えて色を揃えられたのかもしれないわね。フェリシテ様、さっき店員さんに耳打ちをしていたし‥。
それを言葉にするのがなんとなく小っ恥ずかしくて黙る私を、フェリシテ様はにやにやと笑いながら眺めていた。
どうやらテッドはお留守番らしい。少し寂しげにお辞儀をしたテッドに手を振りながら、私たちはワープの魔女の魔法で飛ばされた。
フェリシテ様が先程言っていた通り、私たちはきっとこのパーティーに参加する為にここに飛ばされてきたのだと思う。
私たちがバースデーパーティーに参加する理由は、一体何なんだろう。
約10年前のあの日、パーティーの途中から体を乗っ取られて半狂乱状態だった私は、詳しいことをあまり覚えていない。
確か“魔女の母”が来賓の方々に無礼なことをして‥場が荒れていたような気がするんだけど。
悶々とそんなことを考えているうちに、景色は王宮に変わっていた。以前訪れた時よりも何十年か経ったあとの王宮は、私たちの時代の王宮と何ら変わりがなかった。
王宮の門の前に現れた私たちに門兵たちは驚いた様子を見せていたけど、珍しく華やかな衣装を身に纏ったフェリシテ様を見るなり深々と頭を下げた。
「ようこそお越しくださいました。皇女様がお待ちでございます」
「ふふ、そうかそうか」
門兵たちはオマケで現れた私たちを警戒することもなく門を通してくれた。どうやらフェリシテ様の信頼は相当に厚いらしい。
「‥幼い私とも接点があるのですか?」
私がフェリシテ様にそう尋ねると、フェリシテ様はニコッと笑って頷いた。
「あぁ。なんせ、大人のあんたはしょっちゅう消えてしまうからねぇ。幼いサマンサは会いに行けばいつでもいるし」
「わ、私も好きで飛んでいるわけでは‥」
「ははは。冗談だよ。それにあと数年で、大人のサマンサと子どものサマンサは合体するだろ?」
今までのペースで言えば、次の場面はもう元の時代になっていてもおかしくない。ただ‥
「どんな風に戻るのか‥ここまでの記憶はあるのか、分からないことばかりですけど‥」
少しだけ不安な気持ちを吐き出すと、フェリシテ様は私の背中をポンっと叩いた。
「なんとでもなるさ。もし記憶がなくても、今日こいつとサマンサを引き合わせるわけだし」
フェリシテ様がそう言って幼いレオンを見た。
幼いレオンは緊張した面持ちで蝶ネクタイを触っている。
「‥ありがとうございます、フェリシテ様‥」
幼いレオンのことも、幼い私のことも‥そして大人の私たちのことも。全員の幸せを願って行動してくれているのだと思う。
もしかしたら改変前の話を聞いて、贖罪を果たしたい気持ちなんかもあるのかもしれない。
王宮内に通されて、そのままパーティー会場へと向かう。
遠くにいた幼い私がフェリシテ様にすぐに気が付き、嬉しそうに頬を緩ませている。
何の汚れも知らない、ひだまりに咲く花のような笑顔。改変前の地獄のような苦しみを知らない、無垢な皇女だ。
「フェリシテ様!来ていただけないかと思っておりました。お越しくださりありがとうございます」
幼い私はそう言って深々と頭を下げている。
「遅れて悪かったねぇ。連れてくる客が突然増えてしまってさ」
フェリシテ様はやれやれ、と軽い調子で幼い私に笑いかけていた。そんなフェリシテ様にほころぶような表情を見せる幼い私は、きっとフェリシテ様のことが大好きなのだろう。
「こちらの方々は‥?」
幼い私と目が合うと、彼女は何度も何度も瞬きを繰り返した。パーティー会場内でもかなりの視線を感じている気がする。きっとみんな、“皇女にそっくりなこの女は誰だ”と思っているのでしょうね‥。
「えーっと、こっちの紅いドレスを着てるのが大人になったサマンサで、この紅いジャケットの赤い髪の男が大人のレオン、こっちの紺色のジャケットのロン毛は未来の騎士団長、こっちの小さいのがレオンだ」
フェリシテ様が雑な説明を終えると、幼い私はポーッと私を見た後にまたポーッと大人のレオンを見やった。
「こ、こんにちは。お誕生日おめでとう‥」
私が控えめに声を掛けると、幼い私はハッと我に返り「ありがとうございます」と微笑んでくれた。
魔女が当たり前に存在する世界だからか、こんな状況を受け止めることも容易いようだ。
大人のレオンは幼い私を見て目を細め、柔らかく微笑んでいた。私が幼いレオンの可愛さにメロメロになったように、レオンもまた幼い私にそんな感情を抱いてくれているのかもしれない。
幼い私はそんなレオンを見て、みるみるうちに頬を赤く染めていった。あぁ、“落ちたな”と思う。
元々レオンは私の好みの顔なのよね。離宮で体を解放された時は絶望の中で死の恐怖に襲われていて、とても恋にときめくような胸の内じゃなかったけど‥
きっと平和な世の中でごく普通にレオンと出会っていたら、すぐに惹かれていたかもしれない。目の前にいる、幼い私のように‥。
「かっこいいでしょ?」
「えっ、あっ、そのっ‥!!」
私の問いかけに大いに慌てる幼い私。
そんな幼い私に、大人のレオンは華麗に跪いた。
そして、そっと幼い私の手を取る。まるで絵本の中のお姫様と王子様のようで、大人の私が少し妬いてしまいそうな程に美しい光景だった。
「皇女様‥。どうか俺が迎えにいくまで、誰のものにもならないでください」
「っ‥!!!!は、はい‥!」
幼い私は目を回しながら必死に頷いていた。
レオンは満足げに微笑むと、ゆっくりと立ち上がり私の元へとやってくる。そして、私の額に小さくキスをした。
私まで赤くなるのは小っ恥ずかしいから、私は済ました顔をして何ともないふりをする。だけど額に心臓がついてるのかと思うほど、キスを受けた部分がトクトクと煩かった。
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