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115話
しおりを挟むフェリシテ様はちょっと行ってくる、といって皇帝陛下の元へと向かった。少しだけ若いお父様が立派な椅子に腰を掛けている。
やっぱりフェリシテ様は皇族にも並ぶような立ち位置なのだと改めて思う。帝国にとっても、魔女たちのその力は是非とも国の発展に役立てて欲しいと心から願っているようだ。
‥‥これが本来あるべき姿だった。悲しみの種が取り払われた、幸せな世界ーーー。
お父様の近くには幼いロジェもいて、小さい頃は女の子にしか見えない顔をした男の子だったことを思い出した。
そのロジェの側に、高貴な装いの天使のような男の子を見つけた。まさか、と思いながらも遠くからぽつりとその男の子の名を口にする。
「ノエル‥?」
ダルトワ王国の元貴族だとは聞いていたけど、なんだか思ったよりも位が高そうな気がするのだけど‥
「ノエル様をご存知なのですか‥?」
幼い私が私に問う。
ーーーノエル‥様‥???バートン卿とレオンも目を瞬かせ、不思議そうな表情を浮かべていた。
「え、えぇ‥知っているわ」
「‥ノエル様は凄いですよね。数年前にパーティーで見かけた時は下を向いてらしたのに」
「‥‥‥何か落ち込んでたの?」
幼い頃の記憶は、その後に訪れた地獄のような日々に押し潰されていることが多い。
ノエルは昔私と出会って救われたと言っていた‥けど、私にはその時の詳しい記憶がない。
もしかしたら当時の私のほんの些細な一言が彼を救ったのかもしれないけど。
「当時はダルトワ王国の公爵様のご養子になられることに不安があったようで‥」
公爵?!ノエルって、公爵家のお坊ちゃんだったの?!と驚く私の耳元にバートン卿が小声で耳打ちをしてきた。
「改変前は養子になったという事実はありませんでした。伯爵家の三男だったはずですが‥」
「そ、そう‥」
このあと幼い私に説明を求めると、彼女は快く現状を教えてくれた。
なんでもノエルの元々のお家は多くの商売をやっていて、その中のひとつが“魔法道具”の輸入販売だったらしい。きっと改変前は魔女狩りでその文化が廃れてしまったのでしょうけど、魔女が生きている今の時代には大成功のビジネスだった。
ノエルの遠方の親戚だった公爵家は跡取りに恵まれなかったが、勢いに乗るノエルのおうちからノエルを養子として迎え入れることになり、両家は更に勢いつくことになった‥とのこと。
確かにキラキラの服を着て優雅に腰掛けている方がノエルには似合っているような気がするわ。
汚い服を身に纏って病的に私に執着していた奴隷だなんて、絶対あってはならない姿だと思う‥。
「貴女はノエルになんて声をかけてあげたの?」
私がそう尋ねると、幼い私はこめかみを描きながら伏せ目がちに呟く。
「いえ、それが‥私は“大丈夫ですか?”と一言お声を掛けただけなんです。‥‥‥ですが‥」
「‥‥ですが?」
もしかしたら改変前も、私は“大丈夫ですか?”くらいの些細な声掛けしかしていなかったのかもしれない。だからあまり記憶になかったのかも‥。
まぁ改変前は養子にはなっていなかったらしいから、きっと別な悩みを抱えていたんだろうけど。
「えっと‥その。‥‥それからよくお手紙が届くようになりまして」
「‥‥え?ノエルから?」
「はい‥」
私とレオンは目を合わせ、それからまた幼い私を見やった。ちなみに幼いレオンはずっと険しい表情のまま私と幼い私を交互に見つめている。
改変前‥確かにノエルは言っていた。“一目惚れだった”と‥。
自分の家が大成功し、そのうえ公爵家の跡取りになり‥そのうえカートライト帝国の友好国の来賓として、皇女のバースデーパーティーにまで参加している‥‥ということは。
「レオン、なんだかまずい気がするんだけど‥」
「奇遇ですね。俺も今焦り始めているところです」
改変前とは違い、ノエルにはしっかりとした後ろ盾がある。私に正式に求婚できるほどの、大きな力を持っている。
「もしやこれを回避する為にここに‥?!」
「そうかもしれませんね‥」
ノエルが幸せそうな姿でこの世界を生きていること自体は本当に喜ばしいことだけど‥私はレオンのことが好き。
改変前には親孝行ができなかったから、改変後は政略結婚も当然のことながら受け入れるべきなんじゃないかと思うこともあった。
でも、改変後の世界だって‥幼いレオンは私を見て頬を赤らめながら求婚してくれているし、幼い私はレオンに恋に落ち、彼のことを“待っている”と頷いた。
世界を作り直しても、想い合ってる。‥そうなるように仕組まれた部分があったとしても、想う気持ちは本物だ。
神様には許してもらえないかもしれないけど、もうここまで世界を変えてしまったんだ。
ならもう少しだけ、我儘にならせて欲しい。
ーー幼い私は挨拶に回らなくてはならないようで、私たちに深々と頭を下げてからその場を離れていった。幼いレオンは幼い私に声を掛けることができず、大人のレオンの後ろで静かに彼女を見つめている。
「‥‥‥俺、サマンサ様と結婚できないんですか‥?」
私たちのさっきの話から事情を察した幼いレオンは、微かに瞳を揺らして不安げに呟く。
私は少し腰を曲げて、彼と視線を合わせた。
「‥‥‥まだ分からないわ。‥‥でも、私は貴方と結婚したい」
真っ直ぐそう伝えると幼いレオンは目を見張り、みるみるうちに耳を赤く染めた。
暫く黙っていた幼いレオンはやがてコクリと頷き、自信に満ちた顔つきになった。
「‥‥俺、サマンサ様に相応しい男になります!」
そう宣言した幼いレオンの元に、フェリシテ様の箒がやってきた。ぷかぷかと宙を浮きながら、クイックイッと柄の部分が糸を引かれるように動いている。何やら合図をしているようだ。
「あ、フェリシテ様が呼んでるんで‥行ってきます!!」
それを聞いてフェリシテ様の方に視線を向けると、彼女はお父様と会話を交わしている最中だった。‥この機会にレオンを紹介してくれるつもりなのかしら‥?
緊張した面持ちの幼いレオンは蝶ネクタイを整えた後、少しぎこちない足取りでフェリシテ様の方へと向かっていった。
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