最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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116話

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 フェリシテの元へ向かった幼いレオンは、ただでさえ場の雰囲気に飲まれて緊張していた。なんせ、彼は元々そこそこいい暮らしが出来ていた程度の庶民であり、物心つく頃からは魔女の拠点で生活をしながら剣術を磨くごく普通の少年なのだ。

 それが、今やすぐ目の前にこの帝国の皇帝がいる。

 皇帝はフェリシテからレオンの存在を聞いていた。なんでも、女性にしか魔法を授けていなかったフェリシテが男性に魔法を授けたのはカマル以来のこと。

 ちなみにカマルは突然王宮から失踪したことになっており、数年前まで“暗躍”していた魔女狩りの正体がカマルであったということは、フェリシテ含めごくごく僅かな者しか知らない。

 レオンは只者じゃないから“特別”に魔法を授けてやったんだ、とフェリシテはレオンのことを紹介した。

 フェリシテの存在は神に近いものがあり、過去の皇后であるグレースの命を救った救世主でもある。もちろんいまの皇帝のことも赤子のことから見ている為、むしろ皇帝の方がフェリシテに敬語を使うほどの関係だった。

 皇帝とフェリシテは少し高く上がったところにいる為、レオンは常に2人を見上げた状態だった。

「ほれ、レオン。挨拶をしな」

 フェリシテにそう振られたレオンは汗いっぱいの手をぎゅっと握り締めながら元気よく挨拶をした。

「お、お初にお目にかかり光悦です。わ、私はフェリシテ様の愛弟子のレオンと申します!!」

 レオンがここまでカチンコチンに固まりながら、懸命に挨拶をしようと頑張る姿にフェリシテは吹き出した。レオンがフェリシテの名前に“様”などと付けたのも初めてのことだ。

 知らぬうちに空気を読んで発言する力が身に付いたのだな、とフェリシテは目を細めた。

「弟子‥というよりも息子だな。うん」

 フェリシテのその言葉にレオンの耳はカァーッと赤く染まる。ちょうど思春期に入り始めている頃であり、レオンはフェリシテに深く感謝している反面それを素直に伝えられたことはない。
 本当はここでも恥ずかしさのあまり突っぱねてしまいたかったが、それはグッと堪えた。

「フェリシテ様の御子息ですか。レオン殿、顔を上げて見せてくれ」

「はい!」

 レオンはまたもやギュッと拳を握り締め、勢いよく顔を上げた。少しでも勇ましく見えるよう、唇を固く一本に結んでいる。

「いい顔付きをしているなぁ。燃えるような毛先もいい」

 レオンの髪は赤茶色だが、光を浴びると綺麗な赤に見える。レオンは少し表情を綻ばせ、深く頭を下げた。

「ありがとうございます!」

「ハキハキしていて気持ちの良い子ですね、フェリシテ様」

 皇帝にレオンを褒められたフェリシテもまた表情を綻ばせ、当たり前だろ、と頷く。

「レオン、お前は将来何になるんだっけ?」

 “魔法騎士団長”という言葉を期待し、フェリシテはレオンに声をかけた。
 フェリシテは基本的に日常生活に役立つ魔法ばかりを授けてきた。その為、帝国の直接的な戦力に結びつく力は皆無だった‥が、“魔法騎士団”というワードを皇帝に植え付けることで、将来的に魔法使いで構成された騎士団が帝国の戦力になると皇帝に伝えたかったのだ。

 そして、その初代騎士団長はレオン。皇帝にとっては喉から手が出る程に欲しい戦力であり、そのうえフェリシテが“息子”だと公言している以上、より一層サマンサとの婚約に近づく。

 が、懸命に凛々しい表情を保っているレオンは、緊張のあまり思考がうまく回っていなかった。

「はい、私は将来‥‥サマンサ様と結婚致します!」

 突然フェリシテに話を振られ、混乱したレオンは堂々とそう言ってのけてしまった。
 平然としていたはずの周囲が途端に騒めき立つ。

「な、なんと‥!」

「そっちじゃないよ、アホなのかい」

 目を丸める皇帝と呆れた表情のフェリシテを見て、レオンは“しまった!”とすぐに気が付いた。

「ですがその前に!!」

 かなりの早口でそう言い切る。それからまるでこれから先の話が本題だと言うかのように、小さく咳払いをした。

「ーーー私は、フェリシテ様から授かった魔法も、日々鍛錬している剣術も、どちらも極め上げ‥この帝国初の魔法騎士団長となります!!」

「ま‥魔法‥騎士団長?」

 皇帝が目を丸めると、レオンは己の胸にグッと手を置きながら言葉を続けた。

「はい。魔法の力は偉大で、恐ろしいものです。争いのために使うべきではない‥。ですが昨今情勢は激しい変動が続き、帝国のより一層の結託と強大な力が必要になっていると‥私は思います。魔法の力で人を傷付けたくはありません。ですが間違いなく抑止力にはなるかと」

「た‥確かにそんな騎士団があれば、近隣諸国は手も足も出せぬだろうが‥」

「普段はただの騎士団でもいいのです。本当に帝国に危険が差し迫った時にだけ活躍するような存在でもいい。でも、その存在が居るだけで‥帝国に更なる安寧がもたらされると思いませんか‥?」

 レオンがそう熱弁すると、皇帝は「あぁ‥確かに」と頷いてみせた。

「だが‥結婚とは‥?」

「あ、えっと、その!!それは!!」

 その話になった途端に、レオンは頬をボッと赤く染める。

「‥‥信じていただけないかもしれませんが、サマンサ様は近い将来フェリシテ様から魔法を授かるのです」

「なんと」

「時を超える魔法です‥。そして、私は大人のサマンサ様とその隣にいる大人の私を、この目で確認したのです‥」

「なんと!!!」

 必死に言葉を並べ続けたレオンは、自分の周りが相当煩くなっていることにやっとこの時気が付いた。

 え!と思い周囲を見れば、キョトンと目を丸めたロジェや、目をうるうるさせた美少女のごときノエルがレオンを見つめている。
 それどころか貴族の装いの大人たちがこぞってレオンに視線を送っていた。

「あんた焦ると多弁になるもんだねぇ」

 フェリシテだけがいつも通りの調子である。
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