今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ

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苛々するのですわ

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 見ていて苛々するのです。
私、アレクサンドラ・ノーランド。ぴちぴちの15歳ですわ。
ーーー何が苛々するのかって?

 私の真横で苦虫を噛み潰したような表情でトマトを一口食べた彼女‥
ジュリア・ノーランド。戸籍上、ジュリアは私の姉‥。ですが同い年なんですの。

 少々複雑になりますが、父は二度結婚しておりまして、一人目の女性との間にできた子どもがジュリア、二人目の女性との間にできた子どもが私ですわ。ジュリアの母はジュリアを産んですぐに亡くなり、私の母が現ノーランド侯爵夫人なんですの。まぁ何故私たちが同い年なのかは大人の性事情ということで置いておきましょう。
 ひとことでジュリアの状況を言い表すならば、物事つく前からすでに継母と腹違いの妹に囲まれて生活をしているのですわ。母も母でキツい性格をしていますから、ジュリアは息を潜めるように、静かに静かに暮らしているのです。
 一応一番上に5歳離れた兄もおりまして、勿論兄とジュリアは同じ母から生まれているのですが、兄は鈍感で無愛想で物臭なので我関せずと言った様子です。

「あぁ、アリー‥もっとトマトが食べたいなぁ‥」

 私はそう言って、わざと猫撫で声を出してみせました。ジュリアのお皿に残るトマトたちに目配せをしたあと、ジュリアをチラッと一瞥をすると、少し肩を震わせながら私を見つめ返してきます。
 先ほど母が料理についての質問をするためにシェフを呼び出した為、この場には母とジュリアと私とシェフがおりました。ちなみに父と兄は忙しなく公務をされている為食事はなかなかご一緒できません。

 シェフの目の前でトマトを残せば、母にどうしようもない小言を言われるかもしれないし、ジュリアのことだから、シェフを傷つけるかもしれないとでも思っているのかもしれませんわ。

 そしてその状況に、私は苛々するのです。

「お姉様、お、ね、が、い」

 語尾にハートをつけて首を傾げると、ジュリアはいそいそと私のお皿にトマトを移しました。その手はどこか意気揚々としているような気もします。

「みっともないわよ、アリー」

「だってぇ、どうしても食べたかったんですの。ありがとう、お姉様」

「アレクサンドラお嬢様、宜しければもっとトマトをご用意致しますが‥!」

 シェフが慌てたようにそう口に致します。

「結構ですわ。私、お姉様から頂くトマトが一番好きなんですの」

 これ以上リコピンはいりませんわ。

 ーーートマトくらい嫌いだと言って捨てればいいじゃない。侯爵令嬢なのだから、シェフに突き返せばいいのよ。母の小言なんか気にせずに、堂々としなさいよ。ちなみに母は人参が嫌いなんだからどっこいどっこいよ。それなのに、ビクビク顔色を伺って、未だにトマトが嫌いだと周囲に打ち明けられない貴女に苛々するんですの。

 ただ‥
 私がはっきりと「トマトが嫌いなんでしょ」と言えば全て解決することだとも思っていますわ。でも、その一言でまた、「どうして言わなかったの?」と聞かれたジュリアが顔を青くしてオロオロと周囲の目を気にするのも想像するだけで溜息ものですわ。

 ジュリアの侍女たちが私を怪訝そうに見ております。
またジュリア様の物を奪って‥とでも思っているんでしょうね!そう思う暇があるならば、主人の顔色くらい読めるようになりなさいな!私はジュリアがトマトを嫌いだと、物心がつく前から気付いてたわよ!貴女たち、ちゃんと目玉がついているのかしら?

 ギロリと一瞬で下から上までを見上げるようにメンチを切って差し上げますと、侍女たちは青い顔で竦みあがっておりました。
 ザマアミロですわ、おほほほ。

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