今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ

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教育の時間ですわ

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 社交パーティーを2日後に控えたこの日、私はアンナにお使いを頼んだ。白いアンティークの箱、通称パンドラの箱を開けるとアンナは目を丸くした。何だこれはと言いたげですけど、これ全部あんたの主人が買ったやつだからね?それともジュリア様のものをこんなに奪ってたのね?!とでも思ってるのかしら。

 アンナは臍の枕で少しは学んだのか、へらへらする頻度が減ったと思う。無意識に悪気なく媚びてた甘え上手が、少し世間の厳しさを知った‥って感じかしらね。

 そんなアンナの視線を感じながらテーブルの上に黄金の塊を置く。そう、黄金の眼鏡置きよ。

「こ、これは‥」

「これをライラに渡したいんだけど呼んできてくれるかしら?忙しそうにしてたら呼ばなくて大丈夫よ」

「わかりました‥」

 暇だったのかライラはすぐに来ました。どこか頬は痩けているし、目は虚です。

「アウェイで頑張ってるみたいね‥」

「ホ、ホームに帰りたいです‥」

 そろそろ疲れも溜まって、集中力も切れる頃でしょう。

「これを貴女にあげるわ!これで初心にかえるのよ!」

 そう言って手渡したビカビカの黄金の眼鏡置き。
ライラが気の抜けたような溜息を吐きます。そうよね、しょうもないわよね。すごくわかるわ。

 これ以上このしょうもないものが増えないように、見張りをお願い‥。

「‥っ、わかりました!!」

 意を汲んでくれたらしいライラが涙を流しながら敬礼してくれた。ありがとう、ありがとう!ライラ!!!


「‥何かそっちで変わったことはある?気付いたこととか」

「んー‥特にはありませんけど‥‥あ!」

「なんですの?」

「意外にもジュリアお嬢様の侍女たちからアリー様の悪口を聞かないです」

「へー、それは意外ね」

 ジュリアの侍女であるアンナが気まずそうな顔をしています。‥そりゃ当然ですわね。

「何故だかわかりませんが‥」

 そう言ってライラはアンナを見ました。

「えっ」

 視線を受けたアンナが固まっています。

「‥‥何故ですか?態度的にはアリー様のこと嫌ってますよね」

 随分と直球ね、ライラ‥。

「‥‥‥っ、あの。その‥。ジュリア様がそういった話題を非常に嫌うので‥」

 つまり言ってはいるのね。聞こえないようにしてるだけで。というより、へー‥ジュリアが嫌がるんだ。ふぅん。

「どういう風に嫌うの?お姉様の怒る姿なんて想像できないわ」

「あ‥えーっと。丸一日、どの侍女とも口を利いてくれなくなります‥」

「あはは、傑作だわ。静かに怒るのね、お姉様は」

 私がそう笑うと、アンナは気まずそうにこめかみを掻いていた。
想像すると笑えるけど、やられたら精神的に地味にくるわね。まぁそういう私はジュリアなんかに怒られるだなんてヘマ絶対にしないのだけど!!!

 ライラは蓋が開いたままのパンドラの箱を見てフッと笑った。

「どうしたの?ライラ」

「いえ‥少し久しぶりに見たので。ジュリア様の為にも頑張ります‥!」

 パンドラの箱のガラクタが増えないように、という意味ね。
‥‥まぁ別にジュリアの為じゃないんだけど。何回言っても覚えないんだから!ジュリアの為じゃなくノーランド家の為よ!!

 ふとアンナを見ると、アンナは意味がわからないようで眉を顰めていた。アンナはジュリアの侍女。どうして私の侍女であるライラがジュリアの為だなんて発言してるのか気になるわよね。あ、もちろんジュリアの為ではないけど!!

「‥‥アンナはこの箱の中を見てどう思った?」

「え、あ‥いや、その‥。ジュリア様が購入されていたものが、沢山あるなぁと‥」

 遠回しに、全部あんたが奪ったのねとでも言いたいのかしら。

「そうよ。ここの箱にあるのは全てお姉様から奪ったもの」

「‥‥‥」

 何故、と言いたいようだけど‥口答えするわけにもいかないから言えないのよね。もどかしそうだわ。

「‥‥一番最近購入したのは発毛剤だったけれど‥アンナはあの時あの場にいたわよね?」

「え、あ、はい」

「一体どんな精神状態で見ていたわけ?」

「え?‥‥珍しい商品を見て、ジュリア様がはしゃぐ姿が素敵だと‥」

「やっぱりね。その際のクラリッサ嬢の顔は見たのかしら?」

 まぁジュリアしか見えていなくて、ぽわぽわしているんでしょうけど。

「ほ、微笑まれておりました」

「あ、そう。クラリッサ嬢はその時どう思ってるか分かる?」

「それは‥商品が売れて良かった‥ではないでしょうか」

 何が言いたいの?と言いたげにアンナが眉を顰めています。私はそんなアンナがおかしくて笑ってしまいました。

「少しだけ正解してるわ、おめでとう。だけど正解にはちょっと足りないかしら。そうね‥‥わぁ、この阿保また自分には必要ない商品でも買ってくれた!ちょろいわ~、いいカモだわ~。って思ってるわね」

「なっ!!」

 一気に顔を赤くして、アンナはついに怒りの表情を見せました。ジュリア様がそんなことを思われている筈がない!って怒ってるのかしら。

「ねぇ、前から思ってたけど貴女たちお姉様側の侍女はどうしてそんなにポンコツなの?私がただ意地悪で奪ってると思っているんでしょう。頭も悪いし目も悪いし、救いようがないわよ。ねぇ、お姉様がトマトを嫌いなこと、知ってる?」

「っ?!?!」

「ずーーーーっと昔から嫌いなのよ。でも貴女たちはぽわぽわして、ジュリア様かわいい~ってろくに仕事もしないで。主人の好き嫌いくらい、誰よりも分かるようになりなさい!!恥ずかしい!!」

 私が捲し立ててそう言うと、アンナはついに涙を流し始めました。でもその表情に怒りはみえません。反抗心や怒りによる涙ではないはね。‥少しでも伝わったならいいけど。

「スーザン、アンナのこと部屋まで送って差し上げて?」

「えっでも!」

 アンナが声をあげました。まだお仕事が!とでも思っていそうね。

「少しひとりで考えて、頭を冷やしてきなさい」

「‥‥はい」

 そうして、アンナはスーザンと共に部屋を出て行きました。



「‥ジュリア様の好き嫌いが分かるようにとアリー様が仰っていたけど‥ジュリア様がこの世で一番好きなもの、何だかわかる?」

 廊下を歩きながら、スーザンがぽつりと言葉を落とす。

「っ‥」

 恥ずかしい、とアンナは顔を下げた。ジュリアは好きなものが沢山ある。それは知ってる。だけど、一番がわからないのだ。

「‥アリー様だよ」

「えっ」

「ジュリア様は、世界で一番アリー様が好き」

「な、何故‥」

「何故アリー様がジュリア様から奪うのか。奪っているのかよく考えてみるといい」

 スーザンが言い終わった時、既にアンナの部屋の前だった。スーザンは小さく鼻で笑って、アンナの頭のてっぺんに片手を置いた。

「そう言う私も、アリー様が世界一好きだ。アリー様の本質を知ったら、たぶん誰もが好きになる。きっとアンナ、お前もな」

 そう言って、スーザンはアリーの元へ帰っていった。

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