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第13話 ジェシー、芽生える

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 いつのことだっただろう。
婚約が決まってすぐくらいだったかな。久々にサラと話す機会があった。


 ーーー普段から口数少ないロンは私の前では更に口数が減っちゃう。口を開いても、出てくるのは可愛くない言葉ばかり。

 突然手を握られたことや、婚約を認めるように言われた時は本当にびっくりして仕方がなかった。
  ロンが何を考えているのかよくわからないまま、時間だけが過ぎていった。

 確かに私とロンが婚約すればお母様も叔母様も心から喜んでくれるだろうし、ロンと私は想いあっているわけじゃないけど嫌い合ってるわけでもない。
 むしろ長い間近くにいたから、ロンは本当はとても優しいところがあることも、天才なのではなくて努力家だということも知ってる。ロンは、いい人。

 でも、ロンは婚約するのが私でいいのかなぁ?

 漠然とそんなことを考えていた時だった。
ーーーサラが久しぶりに私に話しかけてきたのは。

「なんで貴女なのよ」

 頬をぱんぱんに膨らませたサラは私をきつく睨んでいた。サラがロンに片想いをしていたことは、いくら鈍いと言われている私でも気付いていた。

 友達になりたかったけど、友達になれなかった女の子。

「‥‥ロンとの婚約のこと?」

 私がそう問いかけると、サラはこくりと頷いた。
この時の私たちは12歳。入学した時から3年以上、サラはロンを想い続けていたのかな。それなら今、サラは一体どんな気持ちなんだろう。

 私が憎いかな、悲しくて仕方ないかな、それとも怒ってるかな。思い浮かぶサラの心情は、どれも暗いものばかり。

「‥‥‥ごめんね、サラ」

 私がサラの気持ちを予め分かっていたって、こればっかりはどうしようもない。ロンがサラの気持ちを知っていたって同じこと。謝っても意味がないし気休めにもならないけど、他に掛ける言葉も見つからなかった。

「‥‥ふん。私の方がロンくんのこと、理解してるのに‥!」

「‥‥」

 サラはロンと知り合ってから3年くらいしか経ってないし、2人が仲良く話しているところも見たことがない。
 それでも、クラスメイトだから私が知らないだけで2人は仲が良かったのかな。

「”私なんて生まれた時からロンのこと知ってるし”とか思ってるんでしょ!!」

「‥‥確かに生まれた時から知ってるけどさ」

「ぐぬぅ!!!」

 生まれた時から知ってる‥というより、ロンが生まれた時は私もすごく幼かったから、物心ついた頃から身近にロンがいたって感じかな。
 荒々しい三つ子のお兄ちゃん達とは違う、物静かだけど棘があって、でも本当は優しいロン。

「‥‥ロンのこと、沢山知ってるけどさ‥。でも私もしかしたらサラよりもロンのこと知らないのかもしれない」

 ロンはどんな風に授業を受けているのかな。教室ではお友達とどんな話で盛り上がっているんだろう。ロンもお兄ちゃん達や同級生達と同じように可愛い女の人にデレデレしたりするのかな。あんまり想像できないなぁ。

 優しくしてきたり、顔赤くして怒ったり、ツンツンして突き放してきたり。ロンの考えてること、最近は特にわからないんだよなぁ。

「当たり前じゃない!!私はずっとロンくんを追いかけてきたんだから!ジェシーよりも深くロンくんを知ってる筈よ!!」

 サラはフンッと鼻を鳴らすと、踵を返して歩き出した。勢いよく数歩進んだところで振り返り、びしっと指を差してきた。

「いいこと?!私はいつだって諦めないから!ジェシーがロンくんの婚約者として相応しくないと思ったら、いつでも国を挙げてロンくんのことお迎えしちゃうからね!!!」

「サラ、人に向かって指差しちゃいけないんだよ」

「きぃっ!!!」


 サラの後ろ姿を見ながら思う。
サラと話すのはやっぱり楽しいな、と。

 ワガママなお姫様だし、たまに意地が悪い時もあるけど、こうして忖度なく向き合ってくれるサラの存在は私にとってすごく貴重だったりする。

 ロンは私の婚約者なんだし、ロンのこともっと理解できるようにしないとなぁ。

 私はこの頃から、ロンにはバレないようにしながらもロンを観察することにした。

 ロンと同じクラスの子から教室内でのロンの様子を聞いてみたり、お母様たちがロンの話をしている時は聞き耳を立ててみたり。

 廊下でロンのことを見かけた時は積極的に目で追ってみた。

 柔らかな金の髪がさらさらと靡いていて、ロンは天使よりも綺麗な男の子。
 私がロンを見つける時、ロンはだいたい私を見ていることが多いみたい。目が合うと慌てて目を逸らされる。だから私はロンの横顔ばっかり見てる。
 ロンも私を観察してるのかな‥?そっか、ロンも私のことを今よりももっと知ろうとしてくれてるんだ。やっぱり真面目だなぁ、ロンは。



 ーーーーずっと、そう思っていたから‥。
婚約から5年経った今、ロンが頬を赤くしながら真剣に私の目を見つめてきた時、息が止まりそうになった。

「‥‥‥‥ジェシーと早く結婚したいって叔父さんに言いに来た。ジェシーのこと‥好きだから。‥‥だから、ジェシーの顔、見れてよかった」

 まさかロンがこんなことを言うなんて思わなくて、心臓が突然ばくばくと煩くなった。

 ロン、私のこと好きなんだ‥。
いつから想ってくれていたんだろう‥。

 その日を境に、ロンのことばかり思い浮かぶようになってしまった。一体私の頭‥どうしちゃったんだろう。

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