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第2話
しおりを挟む遥か50年以上前、オズバーン家が勇者の一族として当たり前に崇められていた頃‥“勇者の母の義務”というものが存在した。
オズバーン一族は皆、勇者の一族としての誇りを持ち、気高く己を鍛え上げた恐ろしいまでの戦闘集団だった。
勇者か勇者じゃないかは“勇者の力”を持って生まれたかどうかで決まる。教会によって勇者の力があると判断されればめでたく勇者と認められるのだ。
しかし勇者が生まれるのは何十年に一度という確率であり、殆どのものがただの騎士だった。だが誇り高きオズバーン家は次に生まれてくるであろう勇者を守り抜くべく、その剣を磨き続けた。
オズバーン家は公爵の地位が与えられており、広い敷地に沢山の訓練場を持ち、数多くの騎士団を所有していた。
ある日そんなオズバーン家に嫁いだのはロザリー侯爵家の娘、クラリスだった。2世代前の勇者が生まれた際も生んだのはロザリー家の娘だった。その後ロザリー家ではなかなか女児が生まれずオズバーン家に嫁ぐことができなかったが、クラリスが生まれたことで状況は一変した。その頃のオズバーン家の長男とも歳の差は然程なく、2人の結婚は当然だった。
クラリスもオズバーン家同様、気高く誇り高いロザリー家で厳しく育て上げられていた為、自分の息子が勇者だとわかった際には涙を流して喜んだ。
「クラリス様、勇者の母の義務を‥」
「ええ、わかっております」
クラリスはまだ生まれて間もない息子の腹に手を翳した。
みるみるうちに息子の腹から光の玉のようなものが現れ、クラリスの手のひらに吸い込まれていった。
この時クラリスは光の玉の正体である“勇者の力”をその身に宿すことに最大限の力を使っていた。
長い時間をかけて大量の汗をかき、意識を朦朧とさせながらも義務を果たすことで精一杯だった。
オズバーン家は勇者輩出の一族であるが故に魔王にも目をつけられていたのだが、魔王がそう簡単に腰を上げることはなかった。
だが、魔王が全勢力をもって動き出すタイミングがある。それは勇者の誕生を知った際だ。勇者が鍛えあげられる前に殺してしまえと襲ってくるのである。
だからこそ勇者を生んだ母のみができる“勇者の母の義務”で勇者の力を母の体に隠すのだ。
母体とは不思議なもので、勇者である息子を守ろうとするのか、ものの見事に勇者の力を息子の体から消し去れるのだ。噂には勇者の力は母の魂に格納されるのだとか。
勇者が己の力を磨き、魔王に立ち向かえる年齢になった際に母から勇者の力を戻される‥これで本当の勇者の誕生となるのだ。
クラリスは息子を守るべく必死だった。
己の神経をすべて義務に集中させていた。息子を守り抜く為、力を緩めなかった。
この時既にヤツの策略に嵌っていたのだと、どうして気付けなかったのか。思い返すだけでも‥
「殺してやりたい‥」
はっ。しまった。思わず前世を振り返って悪態を吐いてしまった。
この赤い瞳を見たら自然と前世が脳裏を過ったのだ。
「っ‥‥!!殺すなら殺せっっ!!」
そう言って目の前の子供は吠えた。グレーの髪から覗く赤い瞳は、私をキツく睨みつけている。
「なんと無礼な!!!」
「貴様っ!!覚悟っ!!!」
使用人たちが刀を振り上げた為、私は片手を上げて制した。
「勝手なことをするな。こいつは私のものだぞ?」
「す、すみません!アデルお嬢様!!」
誰がお前のものになった!と言いたげに、目の前の小さな子供は目を鋭くさせて今にも噛みつきそうな表情をしている。
ーーこの子供は、分家といえどもオズバーン家の血筋であるグレイディ家の子孫なのだ。殺すわけがないだろう。
とりあえず一刻も早くこの子供を生で見たくて立ち入り禁止部屋に顔を出した。他に奴隷はおらず、今はこの子供のみがこの部屋にいる。
「お前、名前はなんと言うのだ」
オズバーン家が根絶やしされて早何十年。
よく生き残ってくれていたな。オズバーン家同様グレイディ家も襲われたのだろう。その過程でなんとか逃げ延びて奴隷となったのかもしれない。
「誰がお前なんかに話すか!!」
「「っっ!アデルお嬢様!!」」
抜刀の許可をとでも言いたげに、使用人たちが私を見る。
「はぁ。これじゃあ会話が進まない。お前らは出て行け、使用人」
「なにを言いますか!そんなこと許されるわけが‥!!」
私は懐からルビーを2つ取り出した。こんなこともあろうかと、父上から頂いた宝石を忍ばせているのだ。
「口止め料だ。もっと欲しいか?」
「し、しかし‥」
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つまり、今後も賄賂を与えてやるということだ。
使用人2人の目の色が変わった。だがまだわずかに残った理性が首縦に降らせないらしい。
「私の魔力を馬鹿にしてるのか?
こんなガキ、いざとなれば私ひとりでどうにでもできる」
「わ、わかりました‥!」
これを機に宝に目が眩んだ使用人、ジェフとダンは今後も私の駒となるのだがそれは今はおいておこう。
2人きりになった途端、私はグレイディ家の子孫であるこの子供をギュッと抱きしめた。こうしてまともに触れ合うことすら出来なかった我が子を思い出しながら。
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