母のギフトがすごいんです

えだ

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第1章

第1話 平穏終わり

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 4年前のギフトで、母は言っていた。
『日常こそが幸せなのよ。その日常は当たり前に続くものではないから、どの瞬間にも咄嗟に対応できるようにしないと簡単に死ぬわよ』と。

 俺はそんな母の言葉を思い返しながら、初めて異世界人らしい魔法を使った。
 日常生活に必要な可愛らしい魔法とは違う、必死な形相で必死に繰り出された『防御魔法』だ。口で唱えずとも、手をかざすだけでも魔法は発動されるのだといま初めて気付いた。いや、おそらくこれも異世界人故のこと。通常魔法とは詠唱するのが常なのだから。
 心の中で念じただけで文字通りみんなを守ってしまった今の出来事は恐らくなのだろう。

「きゃああああ!」

 最年少のドトルの悲鳴が響く。レグラは声なき声を挙げ、俺のひとつ年下のジークは口をぽかんと開けながらその惨状を呆然と見つめていた。

 
ーー孤児院の1日の課題の中に水汲みという項目があった。俺たち4人はその日課をこなす為に森に入り、清く澄んだ川の水を水瓶に入れ、木製のリヤカーに積んだ。
 ここまではいつもと変わらなかった。いつも通りの日常だった。数日前のギフトについての会話を交わしながら、ケタケタと笑い合っていた。

 ドトルがぽちゃぽちゃと音を立てながら川の水で遊び、そんなドトルを横目にジークはため息を吐きながら「袖が濡れるだろ」と小言を言い、レグラと俺はそんな様子を見て微笑んだ。

 水瓶を積んだリヤカーは重い。ドトルは濡れた袖口に気を取られたまま歩き、レグラとジークと俺の3人はリヤカーを押した。「お前も押せよチビ」とジークがドトルに言うと、ドトルが何かを言う前に「いいじゃないのドトルはまだ小さいんだから」とレグラが言った。ドトルは鼻水を垂らしながらエヘヘと笑い、ジークは面白くなさそうに舌打ちをした。本当に、いつも通りのそんな時間だった。

 突如ゴオオオオオオオッ!!!と、けたたましい音が響いた。
その音が何の音なのか気付く前に空も森も、一瞬で一面が炎に包まれた。昔何かの本で見た、全てを焼き尽くす地獄の業火とはまさしくこのことだと思った。
 大きな音は止まず、更に空からは大きな火の玉が次々と降ってきた。そうして冒頭に戻るのだ。俺たちもこのまま火に飲まれるのだろう、そう思った瞬間、俺は願ったのだ。

 『このままじゃみんな死ぬだろ‥そんなの嫌だ‥!』
3人を抱え込むようにして、ぎゅっと目を瞑った。ドトルは泣き叫んでた。しっかり者のレグラも泣いていた。ジークだけは、俺を見て驚いた顔をしていた。

 俺たちの周りにだけ透明な膜が張られ、火はおろか降り注いだ火の玉さえも俺たちには当たらなかった。
 この地域を全て焼き尽くすまで、火の玉は止まらなかった。俺たちはただただ透明な膜の中で、この世の終わりを見守るしかなかったのだ。

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