母のギフトがすごいんです

えだ

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第1章

第3話 地獄絵図

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『あんたが生まれた日はね、海がね、凪いでいたんだって。
どうしようもなくなったとき、それを思い出してね』

 数多くのギフトの中で、母の声が唯一震えていた言葉。だから妙に心に残っていたのかもしれない。
 
 だけど俺はその言葉を思い返しながら、見事に膝から崩れ落ちた。
どうしようもなくなったとき‥‥って、今じゃないのかよ。


「いやぁっ、いやぁぁっ」

 ドトルが泣いている。レグラも涙をこぼしながら驚愕し、ジークも真っ青な顔をしていた。

 町は焼け落ちていた。大きな化け物に踏み潰されたような足跡がそこらじゅうにあり、無事な建物はひとつもなかった。孤児院も、もちろん原型など残されていなかった。

「うっ、うぇぇぇっ」

 レグラが堪えきれずに嘔吐した。当然だ。こんなの地獄だ。
血と、燃えきれずに残った人体の一部。こんな惨状、一生目に焼き付いて離れないだろう。鼻の奥をつんと刺激するこの匂いは一体何が燃えた匂いなのか。前触れもなく俺たちの町は消えた。

 森から動き出したのは一夜明けてからだった。大きな物音もなかった為、俺たちは町に戻ったのだ。だけど、

「戻ってくるんじゃなかった‥」

 自然と出た俺の声は、なんとも弱々しくて情けなかった。
ジークは何も言わずにレグラの背中をさすっている。

「‥‥‥神様は、いなかったの?」

 ドトルがそう言って走り出した。教会に向かって走り出したのかもしれない。だけど教会の方も、遠目からでも全焼してるのが分かる。

「ドトル、危ないから、おいで‥」

 声に力が入らない。本当は大きな声でドトルを呼んだつもりだったけど、これじゃあまるで死にかけた蝉だ。

 一体生きている人はいるんだろうか。もしかしたらどこかに避難しているのだろうか。

 とにかくドトルを連れ戻そうと足を進めたそのときだった。


 何か黒いものが建物の影から飛び出したのと同時、ドトルの体が宙に舞った。

「ーーードトル?!」

 ドトルの小さな体が、宙に。


 そこからは無我夢中でドトルの元に走った。宙に浮かんだ筈のドトルは一瞬で地面に伏した。ドトルの身に何かがあったのは間違いなかった。


「なんだよ生き残りのガキ共が何人もいるじゃねぇか」

 俺がドトルの元に駆け寄った時、軍服を着た男が気怠そうにそう言った。煙草を吸いながら、俺たちを虫を見るような目で見ている。

「ドトル?!ドトル、大丈夫か?!」

 ぬめっと、生温かい嫌な感触がした。首を切られたらしい。ぐったりと力のないドトルに発狂しそうになる。

「次はお前を殺すか。だるいけどな」

 男は俺に短剣を向けたけどそれどころじゃない。ドトルを早く助けないと。回復魔法なんてしたことない。したことないけど、このままじゃドトルは間違いなく死ぬ。回復魔法の詠唱法なんて知らないから、俺はまた心の中で唱えた。

『血止まれ!頼むから、ぜんぶ治ってくれ!!』

 途端にドトルの体は白い光に包まれた。
軍服の男はその光景に驚き、「なんだこれ」と立ち尽くしている。
血は止まり、真っ青だったドトルの表情は少しずつ生気を取り戻していった。

「リージュ!ドトル!!」

 背後からジークの声が聞こえた。どうやら駆けつけてくれたようだった。
ドトルの体を纏う光は消えない。きっと間違いなく回復してくれているんだろうけど、瞬間的に治るものでもないのかもしれない。

 俺はドトルをそっと地面に寝かせて、軍服の男を見た。

「お?なんだぁ?やるかぁ?」

 男がにやりと笑う。こんなにも腹の底から怒りが沸いたのは、この時が初めてだった。
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