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113話 足
しおりを挟む赤いボタンにコナーの手が伸びる。
俺は何か起こるかもしれないので、一応近くで待機する。
コナーがボタンを押すと、金属の筒はゴブリンのダンジョンと同じように開いた。
その時の挙動も同じような感じだったので、やはりゴブリンのダンジョンと同じものと考えていいだろう。
しかし、その中身はゴブリンのダンジョンとは違った。
「…………足?」
「足だねぇ、何かあるとは思ってたけど、まさかの足かぁ。」
その足は前の腕と同様に切断部分は良く見えなくなっていた。
「うわ、この液体何!? すっごい情報量、色んな技術がふんだんに使われてるよ。」
「あー、やばい、晴輝、コナーの目を今すぐ塞いで!」
「了解。」
「えっ! ちょ、止めてよ! 見せて!」
このままコナーを放っておくとあと数時間はこの手液体を眺めていそうなので俺はコナーの目を塞いだ。
ずっとここでこうしていて何が起こるか分からないし、やる事やったらすぐにここから出たい。
ゴブリンやウルフが攻めてこないとはいえ、街の人も心配だし、これ以上ここに留まったらここのものを次々と調べまくって真面目に1週間くらいかかりそうだからな。
「もう、別にちょっとくらい良いじゃないか、要点だけ、要点だけだから!」
「はぁ、別にいいが、とりあえず足を取ってからにしてくれるか?」
「うん! 分かった!」
そこまでの時間をかけてられないのは事実だが、それでもここの事をもっと調べるのも必要な事ではあるからな。
俺は一旦コナーを離し、液体に思いっきり腕を突っ込む。
そして足を掴み、思いっきり引き抜いた。
この液体は謎の脱力感を引き起こすため、俺はできるだけ素早く行った。
前回よりは脱力感が少ないが、それでも大分その脱力感を防ぐ事が出来た。
「もういい!? もういいよね!?」
「…………あぁ、いいぞ。」
コナーは今すぐにも調べたくてうずうずしている様子だった。
しかし、陽夏の様子を見ているとこれからコナーはこの足に引き寄せられるはずだ。
「コナー、これからお前は自分の意思に関わらずこの足に引き寄せられるはずだからな。」
「…………あぁ、そうだったね、けどそんな事よりも今はこの液体が…………あれっ?」
コナーの体がくるりとこちらを向く。
やっぱりだ。
コナーはこの足に向かっている。
「ああっ! 今は液体が見たいのに!」
コナーは悲しげに言うが、体は無情にもそれとは逆方向に向かっていく。
そしてその足をコナーは触った。
直後、俺の感覚が書き換わった。
またこの感覚だ。
「この感覚は…………凄い、情報の波が押し寄せているようだ、陽夏ちゃんは今から気絶したんでしょ? 僕もしそうだ。」
「そうか、痛みとかは無いのか?」
「痛いよ、凄く。けどまぁ、こういう痛みには慣れてるからさ、まぁともかく後はよろしく!」
そう言ってコナーは自分から座り込んだ。
そしてそのままコナーから力が抜けフラッと倒れ込んだ。
俺はコナーをできる限り治す。
やはり脳にはダメージがいっている様だ。
治さなかった時どうなるかは分からないが、少なくとも治しておいて悪いことはないだろう。
俺はコナーの脳を治していく。
「それにしても凄い落ち着きようだったわね。私の時は結構呻いてたのに…………。」
「それが普通の反応だよ、コナーがちょっと落ち着きすぎてるだけだ。」
本当に人生何周目だ? と聞きたくなるほどコナーは落ち着いている。
その幼い見た目とは反比例するかのような落ち着き具合にたまに驚いてしまう。
今回なんか気絶しそうということを早めに悟り、痛みに耐えながらも俺達に迷惑がかからないように座ったんだろう。
どうやったらそんな事が出来るようになるのか俺にはさっぱり理解出来ない。
コナーを治すと、コナーは真顔からとろんとした寝顔に変わっていった。
やはり痛いものは痛かったのだろう。
「…………それにしてもこうやって見るとただの子供よね。」
陽夏がほっぺたをつんつんしながらそう言う。
ずるい…………じゃなくて、コナーが可哀想なので俺はその手を制した。
「別に良いじゃない、このぷにぷにを触らない方が損よ。」
「コナーが可哀想だろ? 俺はそんな事しないからな? 別にコナーのほっぺたがぷにぷにすべすべで物凄く触り心地が良さそうだからといって断じて触ったりはしないぞ?」
「いや、絶対触りたいじゃん…………まぁいいわ、今日はこのくらいにしてあげるわ。」
いや、本当に触りたいわけじゃないからな?
そんな事を言っても陽夏は信じてくれないだろうし、俺はその言葉は言わなかった。
コナーが起きればかなりの謎が解けるかもしれない。
陽夏は起きた時にかなりの記憶があったし、コナーも何か記憶があるかもしれない。
陽夏とは何の関係も無く、新たな謎が生まれるかもしれないが、それはしょうがないだろう。
本当ならこのほっぺたをぷるぷるしまくって今すぐにでも起こしたいが、それはコナーがあまりにも可哀想だからやめておこう。
この幸せそうな寝顔を崩す事は俺には出来ない。
なので、俺達はコナーが自然に起きるまでその場でぷらぷらしながら待った。
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