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129話 襲撃4
しおりを挟むあの集団は眠り姫を強奪せよと繰り返しながらこちらへ迫ってくる。
奴らからこちらに攻撃してくることは無いがこちらが奴らの進路を邪魔したりでもすると容赦なく攻撃をしてきた。
「晴輝君! 作戦変更だ! 多分あの中に指揮系統は存在していない! 指示役はもっと遠くの場所からここに指示を飛ばしてるみたいだから君はとりあえず傷付いた人を回復していってくれないかい!?」
「了解!」
指揮を取っているのはあのスピーカーの声の様だし、どれだけ探しても指揮役が見つかる事は無いだろう。
俺は元々指揮役を倒す役割を任されていたが、その指揮役が居ないとなれば俺の仕事はなくなってしまう。
そこで急遽俺は回復役を担う事となった。
俺は前線で戦っている人へと回復を掛ける。
今の俺なら何人もの怪我人を同時に治す事くらい楽勝にできる。
前まではそんな事出来なかったが、賢明のレベルが上がったことや、治す力の強化がきっかけで更に自由度が広がった。
賢明など何に使うのか分からなかったが、こういう時に力の制御を楽にする能力があったようだ。
そして俺はもう1つ気になっていたことがあった。
「コナー、少し試したいことがある、少しの間ここから離れるから、怪我人のフォローを頼んだ!」
「…………分かった、けど出来れば早く戻ってきて欲しいな、この数と対して死傷者無しで乗り切れるか分からないからね…………。」
「ありがとう、じゃあ行ってくる!」
俺は前線へと進んで行った。
途中で近くにいた人々を重傷軽傷関係無しに治しながら進んでいき、最前線へとつき、あの狂った集団の所まで来た。
一か八かだが、俺は1つ試したい事があった。
それは俺の治す能力のもう1つの力だ。
乱れを治す、つまり治すという力には治めるという力も含まれているのだ。
もしあの集団が誰かに洗脳されたりしている状態なのだとしたらこれで正気を取り戻すはずだ。
もし洗脳状態じゃ無かったとすれば、それはそれでいい。
誰かに洗脳されている人という事はその人自身には罪は無い可能性がある。
だが、洗脳されていなければ話は別だ。
慈悲をかける必要が無くなる。
俺は早速目の前にいる痩せ細った人の頭を掴み、それを治めた。
その瞬間、その人は生気が抜けたようにその場に倒れ込んだ。
洗脳が解けたのかは分からないが、元々いつ倒れてもおかしくないような状態だったから、別段おかしいとは思わなかった。
多分人は洗脳によって動かされていたのだろう。
やはりこの集団は洗脳によって動かされているのか?
俺は続いて屈強な肉体をした人を治めた。
しかし、その人は変わらず眠り姫を強奪せよと呟きながらこちらに迫ってきた。
もう1回治めようと試みるがやはり効かない。
そうか…………こいつは洗脳されてないのか。
俺はそいつを即座に斬り捨てた。
いくら屈強とはいえ、俺の魔力を込めた一撃には為す術なく倒れた。
刀や俺自身に血が飛ぶ。
「…………。」
肉を断ち切った感覚が手に残る。
ゴブリンやオークなどの人型のモンスターを切った時とは違う生々しい感触。
その時初めて俺は人間を殺したという事に気づいた。
しかし、不思議とそこまでのショックは無い。
そんな事よりも今はこいつらを何とかしなくては。
俺は最前線に居たあの集団の人を片っ端から治めていく。
すると、一つ分かったことがあった。
それは、痩せ細った人は催眠が切れると倒れてしまい、屈強な人は催眠を解いたとしても特に変わらずにこちらに迫ってくるということだ。
屈強な人は最初から催眠を受けていない可能性もあるが、俺がその思考を乱れたものから治したとしても依然として攻めの姿勢を崩さないという事は、元からそういう思想なのだろう。
しかし、あのやせ細った人は違う。
俺があの人たちを治めると、あの人たちは倒れる前に一瞬ハッとした様な顔になるんだ。
つまり、あの人たちは催眠を受けた普通の人なのだろう。
そうなのだとしたら…………。
俺は1つの作戦を思いついた。
コナーに話そうとも思ったが、コナーは離れた所に居る。
仕方がない、言わないままで決行するしか無いようだな。
俺はその場から少し離れた建物を登っていく。
階段などを使っている暇は無いので少しのでっぱりを使って登った。
そしてあの集団を見下ろす。
ここからだと何処に誰が居るのか良く分かる。
俺は遠くから痩せ細った人を探し、そして全員を治めた。
「くっ!」
流石に負担が大きい。
遠くからこの能力を使うだけでも負担が増えるというのに、更にそれを複数人に使うとなると出力が落ちてしまうし負担も増える。
だからこそ痩せ細った人をピックアップして正確に治めていく。
催眠が解けたと思われる人達は次々と倒れていく。
本当はあの人たちは治してあげたいのだが、今はそんな事をする余裕は無い。
申し訳ないが、踏まれていてもらおう。
そうして今見える中の痩せ細った人を全員治めた時にはもう俺の頭はショート寸前だった。
まるで頭から湯気が出てきそうなほど熱く痛い。
しかし、そこで俺が止まる訳にはいかない。
俺はサクッと頭を治してコナーの元へ駆けた。
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