128 / 214
129話 襲撃4
しおりを挟むあの集団は眠り姫を強奪せよと繰り返しながらこちらへ迫ってくる。
奴らからこちらに攻撃してくることは無いがこちらが奴らの進路を邪魔したりでもすると容赦なく攻撃をしてきた。
「晴輝君! 作戦変更だ! 多分あの中に指揮系統は存在していない! 指示役はもっと遠くの場所からここに指示を飛ばしてるみたいだから君はとりあえず傷付いた人を回復していってくれないかい!?」
「了解!」
指揮を取っているのはあのスピーカーの声の様だし、どれだけ探しても指揮役が見つかる事は無いだろう。
俺は元々指揮役を倒す役割を任されていたが、その指揮役が居ないとなれば俺の仕事はなくなってしまう。
そこで急遽俺は回復役を担う事となった。
俺は前線で戦っている人へと回復を掛ける。
今の俺なら何人もの怪我人を同時に治す事くらい楽勝にできる。
前まではそんな事出来なかったが、賢明のレベルが上がったことや、治す力の強化がきっかけで更に自由度が広がった。
賢明など何に使うのか分からなかったが、こういう時に力の制御を楽にする能力があったようだ。
そして俺はもう1つ気になっていたことがあった。
「コナー、少し試したいことがある、少しの間ここから離れるから、怪我人のフォローを頼んだ!」
「…………分かった、けど出来れば早く戻ってきて欲しいな、この数と対して死傷者無しで乗り切れるか分からないからね…………。」
「ありがとう、じゃあ行ってくる!」
俺は前線へと進んで行った。
途中で近くにいた人々を重傷軽傷関係無しに治しながら進んでいき、最前線へとつき、あの狂った集団の所まで来た。
一か八かだが、俺は1つ試したい事があった。
それは俺の治す能力のもう1つの力だ。
乱れを治す、つまり治すという力には治めるという力も含まれているのだ。
もしあの集団が誰かに洗脳されたりしている状態なのだとしたらこれで正気を取り戻すはずだ。
もし洗脳状態じゃ無かったとすれば、それはそれでいい。
誰かに洗脳されている人という事はその人自身には罪は無い可能性がある。
だが、洗脳されていなければ話は別だ。
慈悲をかける必要が無くなる。
俺は早速目の前にいる痩せ細った人の頭を掴み、それを治めた。
その瞬間、その人は生気が抜けたようにその場に倒れ込んだ。
洗脳が解けたのかは分からないが、元々いつ倒れてもおかしくないような状態だったから、別段おかしいとは思わなかった。
多分人は洗脳によって動かされていたのだろう。
やはりこの集団は洗脳によって動かされているのか?
俺は続いて屈強な肉体をした人を治めた。
しかし、その人は変わらず眠り姫を強奪せよと呟きながらこちらに迫ってきた。
もう1回治めようと試みるがやはり効かない。
そうか…………こいつは洗脳されてないのか。
俺はそいつを即座に斬り捨てた。
いくら屈強とはいえ、俺の魔力を込めた一撃には為す術なく倒れた。
刀や俺自身に血が飛ぶ。
「…………。」
肉を断ち切った感覚が手に残る。
ゴブリンやオークなどの人型のモンスターを切った時とは違う生々しい感触。
その時初めて俺は人間を殺したという事に気づいた。
しかし、不思議とそこまでのショックは無い。
そんな事よりも今はこいつらを何とかしなくては。
俺は最前線に居たあの集団の人を片っ端から治めていく。
すると、一つ分かったことがあった。
それは、痩せ細った人は催眠が切れると倒れてしまい、屈強な人は催眠を解いたとしても特に変わらずにこちらに迫ってくるということだ。
屈強な人は最初から催眠を受けていない可能性もあるが、俺がその思考を乱れたものから治したとしても依然として攻めの姿勢を崩さないという事は、元からそういう思想なのだろう。
しかし、あのやせ細った人は違う。
俺があの人たちを治めると、あの人たちは倒れる前に一瞬ハッとした様な顔になるんだ。
つまり、あの人たちは催眠を受けた普通の人なのだろう。
そうなのだとしたら…………。
俺は1つの作戦を思いついた。
コナーに話そうとも思ったが、コナーは離れた所に居る。
仕方がない、言わないままで決行するしか無いようだな。
俺はその場から少し離れた建物を登っていく。
階段などを使っている暇は無いので少しのでっぱりを使って登った。
そしてあの集団を見下ろす。
ここからだと何処に誰が居るのか良く分かる。
俺は遠くから痩せ細った人を探し、そして全員を治めた。
「くっ!」
流石に負担が大きい。
遠くからこの能力を使うだけでも負担が増えるというのに、更にそれを複数人に使うとなると出力が落ちてしまうし負担も増える。
だからこそ痩せ細った人をピックアップして正確に治めていく。
催眠が解けたと思われる人達は次々と倒れていく。
本当はあの人たちは治してあげたいのだが、今はそんな事をする余裕は無い。
申し訳ないが、踏まれていてもらおう。
そうして今見える中の痩せ細った人を全員治めた時にはもう俺の頭はショート寸前だった。
まるで頭から湯気が出てきそうなほど熱く痛い。
しかし、そこで俺が止まる訳にはいかない。
俺はサクッと頭を治してコナーの元へ駆けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる