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関東平定
関東騒乱
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「上様、北条より使者が参られました。」
(やはり来たか)
謙信はこうなると予測していたのだ。
「使者の役目、ご苦労、早速だが、氏康殿の要件をお聞かせ願いたい」
「はっ、それでは
我が殿より以下の条約について思うところをお伝えいたします。」
「当家は上杉殿と和睦をお願いしたいと考えております。」
「ほほう。して氏康殿はどのようなことをお考えであるか」
「はっ。その為の条件として…
ひとつ、上杉殿の関東管領を正式に了承いたすこと
ひとつ、上杉殿が擁立している古河公方を了承いたすこと
ひとつ、佐野家、結城家は北条に外交をさせて頂くこと
ひとつ、上杉殿と婚姻同盟をご検討いただきたい。
ひとつ、それぞれ質となる人物を送ること
ひとつ、武田との戦となった時に静観して頂きたい」
(やはりそう来たか)
謙信の関東管領を認めるということは傘下に入ったとみなされてしまう。
しかし、謙信と婚姻同盟が出来れば、その中での発言は増すようになるだろうし、実際にこの条件で北条が一番欲しているのが、謙信の正室が北条方であるということであろう。
また質となる人物もそれなりの者でなくてはならないため、北条は養子縁組も狙っておる。
名より実を、また将来的な布石も計算してきている。
(やはり氏康は侮れぬ、上杉の後継者問題に関与してくることになる、嫌なところをついてきよる…)
「重要な要件のため、しばしお時間をいただけるかな」
ひとまず使者を遠ざけ、家臣を集め評定を開くこととなった。
開口一番、吠えたのが宇佐美である
「なりませぬ。これは上杉家の存亡に係わる一大事ですぞ」
元々謙信の後継者問題は以前からあり、重臣一同から常々諫言されてきていた。ここに来てのっぴきならない状況に追い込まれたのは謙信自身であった。
(これは良い機会じゃ)
そう考えたのは宇佐美である。越後では国内の事よりも信濃の件で武田のこと、関東の件で北条のことがありと、国内の問題が後回しになっていたのである。
元より越後自体、一枚岩のまとまった集団ではなく、謙信の求心力によってまとまっているに過ぎない。
万が一謙信が亡くなってしまった場合、越後は昔のようにバラバラになってしまい、近隣諸大名の格好の餌食となると考えていたので、この機会に後継者問題をはっきりさせ、後顧の憂いをなくしてしまおうと考えたのである。
「3つ目までは良しとしましょう。ただし正室を北条から迎えるなどは言語道断。また養子縁組も組み込んでくるというのは明らかな上杉家の乗っ取りでありましょう。」
「ここは足利藤氏殿の後ろ盾もかねて、藤氏殿のご息女をお迎えするのが妥当なのではござらぬか。
また養子縁組に関しては、政景殿は仙洞院様を正室に迎えられておることから、次男の顕景殿(のちの上杉景勝)を殿の養子としてもらい、北条の養子と対にしてもらわねばなりますまい。」
本来、犬猿の仲といわれている宇佐美と長尾政景ではあるが、その宇佐美より自身の血縁を押し上げられては反対のしようもない。(ただし、宇佐美は側室として自身の娘をねじ込んでいくのをこの時は誰も知る由もなかったが)
様々な意見が出されたが、結局のところ宇佐美の案が通り、謙信の正室は足利藤氏のご息女を迎え、北条からは側室を迎えるとなり、養子縁組に関しては北条氏康の七男。北条 三郎を迎えると同時に長尾政景の次男の顕景殿(のちの上杉景勝)を養子縁組するようになった。
これにより上杉、北条の外交戦は一通りの結末を迎えるのだが、関東がこれでうまく収まるわけではなく、意外なところから新たな火種が生まれていたのであった。
「結局、上杉の思うがままではないか」
「小国とはいえ武士の一分がある。結城と和睦など断じてできん。」
当時の戦国期はすでに100年を超えており、3代にもわたり、争い続けてきた歴史がある。
そのため近隣諸国との蟠りがあるのはどの国も同じことで、ここ関東においては上杉と北条だけの問題ではなかった。
北条の目が武田に向いて関東の諸国は一先ずの脅威はなくなったものの、本来の隣国とのいざこざが再燃するカタチとなっていた。
関東管領の謙信としては関東の静謐を望んでいるが、当の諸国はそれぞれの思惑があり、まとまることはなかった。
宇佐美定満の元に困り顔の河田 長親がやって来ていた
「殿には困ったものです。。。」
河田 長親が珍しく愚痴をこぼしていた。
関東の諸侯からの陳情が毎日山のように来るようになってしまったのだ。
さまざまな問題の大義が欲しく、関東管領である謙信の許可を求めてやってくるのである。
しかし、謙信はまったく興味を示さず、事務手続きはすべて河田 長親など側近の役割となっていた。
「それも大切な勤めよ。懸命に励め」
宇佐美は年長者らしく、河田 長親の労を労いつつ発破をかけていた。
「それより武田もいよいよ腹を決めたようじゃな。」
「そのようで。
家中の粛清とは信玄坊も思い切ったことをいたしました。また徳川と結び、今川領の割譲を決めたとか、これで北条も黙ってはおりますまい。」
「当家は両家と約定があるため、静観となりますが、この結果で対処が変わってくるようですな。」
隣国の政情がまたも不安定になってきている中、越後に救援依頼がやってくるのである。
「大宝寺殿より使者がお待ちです」
越後の最北で隣接している大宝寺氏は謙信と懇意にしていた。
大宝寺 義増は元々統率力がなく、領国内で内紛がたびたび起こっており、今回も援軍を要請しにきたのである。
「畏まった。すぐに援軍に馳せ参じよう。」
こうして大宝寺氏と親交が深い揚北衆の本庄繁長を含む親衛隊3,000を連れて大宝寺氏の領国へ進軍したのだ。
「上杉殿、此度は面目ない。領内にて数カ所同時に一揆が起こってしまい、直ちに鎮圧せねばならなくなった。我らで片はつけるゆえ、万が一の後詰めをお頼み申す。」
今回は大宝寺の内紛で小規模な紛争であり、後詰め依頼だったので、越後軍に槍働きがあったわけでもなかった。
しかし、そのタイミングで重大な事件が起こった
「ご注進!関東にて結城、小田が合戦、佐野、長野も時を同じく参戦した模様。」
「諸国からの連絡は?」
「はっそれぞれ自家の事ゆえ、仲介不要との事」
斎藤 朝信が
「長野殿も参戦したのか?」と使者へ尋ねると
「佐野殿より戦を仕掛けた模様です」
「長野殿は本格的に攻めるのでなく、降りかかった火の粉を払うだけのため、援軍はなくて良いとのこと」
「なるほど、殿、いかがいたす?」おおよその内容がわかったところで謙信に伺った。
「此度の件…
何かの意図を感じる…
誰ぞ絵を描いているものがおるやもしれん」
「各大名へ停戦の使者を送り、暫し様子を見る」
こうして謙信は暫く様子を見ることにし、大宝寺家の内紛がおさまったのを見届けて帰国したのだが、またもや事件が起こった。
「長野業盛殿、討ち死に」
「なんと⁉︎どういうことか?」
遡ること14日前
唐沢山城で開かれた評定にて
「このままでは活路が見いだせん。上杉軍が来る前に、何か策を言うてみよ」
「確かに唐沢山城は天下の名城、籠城すれば落ちることはござらぬが、解決にはなり申さん。ここは先手必勝、こちらから仕掛けてはいかがか?」
「どこに攻め入ると言うのだ?」
「こちら、上野国の長野領。」
「信玄公も落とせなんだ上野の地を我らだけではどうにもなるまい」
「確かに、攻め滅ぼすのは無理でも、国境の郡を占拠する程度なら、我らだけでも可能では?」
「何か策はあるのか?」
「長野殿は剛の者。攻め入れば必ず出て参ります。そこで…」
「ご注進!
佐野軍6,000が国境を越え進軍中。」
「まさかそのような数で攻めて来ようとは、狼藉目的か片腹痛いわ、全軍出陣!」
進軍を進めると新たな情報が入り、佐野軍は国境沿いの郡にて魚鱗の陣で待機しているとのこと。
「鶴翼にて包囲殲滅する」
長野業盛はほぼ同数の6,500を引き連れて来ていた。
兵数の差がないため、後は、兵、指揮官の差になるが、歴戦の長野軍が圧倒していた。
「他愛もない。何しに出て来たのじゃ。」
手応えのない戦となり、長野業盛は今後のことを考えはじめていた。
そんな時に
「佐野軍、敗走いたします。」と注進が入った。
(なんと手応えのない、この機会に戦力を削っておくか)
「全軍追撃に入れ。」
通常、野戦では双方、大きな被害は出ず、被害が大きくなるのは、追撃戦の時、逃げる側が圧倒的に不利なのだ。
伝令を出した業盛自身真っ先に追撃に入って戦果を確かなものにしようとしていた。
その後…
「長野殿は先頭にて追撃を進めていたところ、佐野軍が予め伏せてあった伏兵2,000にて防戦虚しく、討ち死にいたしました。」
「まさか、業盛殿が討ち死にするとは…」
「現在、長野家中では今後どうするか検討していますが、後継者がいないため、お家存続の危機となっております。」
「一先ず、隣国の太田殿に国境へ援軍を送ってもらい、佐野殿への対処としている模様です。」
「太田殿より、援軍要請も来ております。火急の件ゆえ、援軍を送り申したが、上杉殿の方で対処して欲しいとの事。」
「それは道理である。すぐに援軍を送る、北条高広殿、御頼み申す。」
「かしこまった。」
「長野家中のことは斉藤殿に向かってもらい、対策を協議致す。」
「各々、まだ何か起こるやもしれん。十分に警戒をしておくようお願い申す」
この日の評定は済んだが、時をおかず、春日山にある大名より使者が到着する。
「珍しい客が来たものよ」
「御目通り、御礼申し上げます。」
真田家の使者として真田昌幸が来たのである。
若手ながら知勇兼備のものとして武田家では早くも頭角を表していると評判のものである。
「長野殿の件は、残念に思っております。」
「此度、御目通りを願いましたのは、沼田の地の割譲の件で来させてもらいました。
我が父は先代、親交のあった長野業正殿より真田へ沼田の地は任すと、ことづけられております。長野家中をまとめて、当家で統治したいと考えております。
信玄公へは転拠の願いを申したところ、随分反対され申したが、謙信公の判断に委ねると許可をいただきました。
此度は武田家の思惑でなく、真田家が長野殿との信義を守るためのお願いでござる。
どうか、よろしくお願い申します。」
「なるほど、武士の本懐といったところか、だが、武田の手のものに関東へ入られては、他のものへ示しがつかぬ。特に北条は黙ってはおらぬと思うが?」
「確かに謙信公の言われる通りでございます。
なので真田としまして、小名ではございますが、上杉家、北条家とそれぞれ臣従させていただくことは出来ないでしょうか?」
「なんと、真田は三国の大名に仕えるというのか?」
「はい、今まで通り武田家へは父が、上杉家へは私、昌幸が、北条家には、嫡男の信幸を質として預けます。」
「それでは親兄弟と戦うことになるが?」
「戦国の世なれば、家名を残すため小名の生き様とお受けいただきたい。」
「なるほど、天晴れ真田よ。面白い。長野の家中のものが納得するなら、沼田の地は真田に任せてみよう。」
こうして、長野家当主の討ち死により、此の地は真田がおさめていくことになる。
佐野からすれば長野家の弱体が期待されたが、嫌な相手が出てくることになるのである。
このことを評定にて話しをすると、北条高広は不満たらたらであった。
元々、北条高広は関東出身のため、此度の長野家の問題で、関東への割譲もあるのでは?と期待していただけに、肩透かしを食らったようなものだった。
「それにしても…関東はまだまだまとまることが難しいですな。」
宇佐美は今回の沙汰については少し懐疑的で、災いの元を招き入れたのでは?と考えていた。
「まだ、黒幕の姿が見えぬ。今回の関東騒乱は誰かが絵図を書いておる。
真田は別の思惑で入ってきたと思われる。今暫く、様子を見る」
「真田を中心に荒れるとお考えですな。では準備だけは怠らぬよう、備えておき申す。」
まだ関東の騒乱は激しくなっていくのである。
(やはり来たか)
謙信はこうなると予測していたのだ。
「使者の役目、ご苦労、早速だが、氏康殿の要件をお聞かせ願いたい」
「はっ、それでは
我が殿より以下の条約について思うところをお伝えいたします。」
「当家は上杉殿と和睦をお願いしたいと考えております。」
「ほほう。して氏康殿はどのようなことをお考えであるか」
「はっ。その為の条件として…
ひとつ、上杉殿の関東管領を正式に了承いたすこと
ひとつ、上杉殿が擁立している古河公方を了承いたすこと
ひとつ、佐野家、結城家は北条に外交をさせて頂くこと
ひとつ、上杉殿と婚姻同盟をご検討いただきたい。
ひとつ、それぞれ質となる人物を送ること
ひとつ、武田との戦となった時に静観して頂きたい」
(やはりそう来たか)
謙信の関東管領を認めるということは傘下に入ったとみなされてしまう。
しかし、謙信と婚姻同盟が出来れば、その中での発言は増すようになるだろうし、実際にこの条件で北条が一番欲しているのが、謙信の正室が北条方であるということであろう。
また質となる人物もそれなりの者でなくてはならないため、北条は養子縁組も狙っておる。
名より実を、また将来的な布石も計算してきている。
(やはり氏康は侮れぬ、上杉の後継者問題に関与してくることになる、嫌なところをついてきよる…)
「重要な要件のため、しばしお時間をいただけるかな」
ひとまず使者を遠ざけ、家臣を集め評定を開くこととなった。
開口一番、吠えたのが宇佐美である
「なりませぬ。これは上杉家の存亡に係わる一大事ですぞ」
元々謙信の後継者問題は以前からあり、重臣一同から常々諫言されてきていた。ここに来てのっぴきならない状況に追い込まれたのは謙信自身であった。
(これは良い機会じゃ)
そう考えたのは宇佐美である。越後では国内の事よりも信濃の件で武田のこと、関東の件で北条のことがありと、国内の問題が後回しになっていたのである。
元より越後自体、一枚岩のまとまった集団ではなく、謙信の求心力によってまとまっているに過ぎない。
万が一謙信が亡くなってしまった場合、越後は昔のようにバラバラになってしまい、近隣諸大名の格好の餌食となると考えていたので、この機会に後継者問題をはっきりさせ、後顧の憂いをなくしてしまおうと考えたのである。
「3つ目までは良しとしましょう。ただし正室を北条から迎えるなどは言語道断。また養子縁組も組み込んでくるというのは明らかな上杉家の乗っ取りでありましょう。」
「ここは足利藤氏殿の後ろ盾もかねて、藤氏殿のご息女をお迎えするのが妥当なのではござらぬか。
また養子縁組に関しては、政景殿は仙洞院様を正室に迎えられておることから、次男の顕景殿(のちの上杉景勝)を殿の養子としてもらい、北条の養子と対にしてもらわねばなりますまい。」
本来、犬猿の仲といわれている宇佐美と長尾政景ではあるが、その宇佐美より自身の血縁を押し上げられては反対のしようもない。(ただし、宇佐美は側室として自身の娘をねじ込んでいくのをこの時は誰も知る由もなかったが)
様々な意見が出されたが、結局のところ宇佐美の案が通り、謙信の正室は足利藤氏のご息女を迎え、北条からは側室を迎えるとなり、養子縁組に関しては北条氏康の七男。北条 三郎を迎えると同時に長尾政景の次男の顕景殿(のちの上杉景勝)を養子縁組するようになった。
これにより上杉、北条の外交戦は一通りの結末を迎えるのだが、関東がこれでうまく収まるわけではなく、意外なところから新たな火種が生まれていたのであった。
「結局、上杉の思うがままではないか」
「小国とはいえ武士の一分がある。結城と和睦など断じてできん。」
当時の戦国期はすでに100年を超えており、3代にもわたり、争い続けてきた歴史がある。
そのため近隣諸国との蟠りがあるのはどの国も同じことで、ここ関東においては上杉と北条だけの問題ではなかった。
北条の目が武田に向いて関東の諸国は一先ずの脅威はなくなったものの、本来の隣国とのいざこざが再燃するカタチとなっていた。
関東管領の謙信としては関東の静謐を望んでいるが、当の諸国はそれぞれの思惑があり、まとまることはなかった。
宇佐美定満の元に困り顔の河田 長親がやって来ていた
「殿には困ったものです。。。」
河田 長親が珍しく愚痴をこぼしていた。
関東の諸侯からの陳情が毎日山のように来るようになってしまったのだ。
さまざまな問題の大義が欲しく、関東管領である謙信の許可を求めてやってくるのである。
しかし、謙信はまったく興味を示さず、事務手続きはすべて河田 長親など側近の役割となっていた。
「それも大切な勤めよ。懸命に励め」
宇佐美は年長者らしく、河田 長親の労を労いつつ発破をかけていた。
「それより武田もいよいよ腹を決めたようじゃな。」
「そのようで。
家中の粛清とは信玄坊も思い切ったことをいたしました。また徳川と結び、今川領の割譲を決めたとか、これで北条も黙ってはおりますまい。」
「当家は両家と約定があるため、静観となりますが、この結果で対処が変わってくるようですな。」
隣国の政情がまたも不安定になってきている中、越後に救援依頼がやってくるのである。
「大宝寺殿より使者がお待ちです」
越後の最北で隣接している大宝寺氏は謙信と懇意にしていた。
大宝寺 義増は元々統率力がなく、領国内で内紛がたびたび起こっており、今回も援軍を要請しにきたのである。
「畏まった。すぐに援軍に馳せ参じよう。」
こうして大宝寺氏と親交が深い揚北衆の本庄繁長を含む親衛隊3,000を連れて大宝寺氏の領国へ進軍したのだ。
「上杉殿、此度は面目ない。領内にて数カ所同時に一揆が起こってしまい、直ちに鎮圧せねばならなくなった。我らで片はつけるゆえ、万が一の後詰めをお頼み申す。」
今回は大宝寺の内紛で小規模な紛争であり、後詰め依頼だったので、越後軍に槍働きがあったわけでもなかった。
しかし、そのタイミングで重大な事件が起こった
「ご注進!関東にて結城、小田が合戦、佐野、長野も時を同じく参戦した模様。」
「諸国からの連絡は?」
「はっそれぞれ自家の事ゆえ、仲介不要との事」
斎藤 朝信が
「長野殿も参戦したのか?」と使者へ尋ねると
「佐野殿より戦を仕掛けた模様です」
「長野殿は本格的に攻めるのでなく、降りかかった火の粉を払うだけのため、援軍はなくて良いとのこと」
「なるほど、殿、いかがいたす?」おおよその内容がわかったところで謙信に伺った。
「此度の件…
何かの意図を感じる…
誰ぞ絵を描いているものがおるやもしれん」
「各大名へ停戦の使者を送り、暫し様子を見る」
こうして謙信は暫く様子を見ることにし、大宝寺家の内紛がおさまったのを見届けて帰国したのだが、またもや事件が起こった。
「長野業盛殿、討ち死に」
「なんと⁉︎どういうことか?」
遡ること14日前
唐沢山城で開かれた評定にて
「このままでは活路が見いだせん。上杉軍が来る前に、何か策を言うてみよ」
「確かに唐沢山城は天下の名城、籠城すれば落ちることはござらぬが、解決にはなり申さん。ここは先手必勝、こちらから仕掛けてはいかがか?」
「どこに攻め入ると言うのだ?」
「こちら、上野国の長野領。」
「信玄公も落とせなんだ上野の地を我らだけではどうにもなるまい」
「確かに、攻め滅ぼすのは無理でも、国境の郡を占拠する程度なら、我らだけでも可能では?」
「何か策はあるのか?」
「長野殿は剛の者。攻め入れば必ず出て参ります。そこで…」
「ご注進!
佐野軍6,000が国境を越え進軍中。」
「まさかそのような数で攻めて来ようとは、狼藉目的か片腹痛いわ、全軍出陣!」
進軍を進めると新たな情報が入り、佐野軍は国境沿いの郡にて魚鱗の陣で待機しているとのこと。
「鶴翼にて包囲殲滅する」
長野業盛はほぼ同数の6,500を引き連れて来ていた。
兵数の差がないため、後は、兵、指揮官の差になるが、歴戦の長野軍が圧倒していた。
「他愛もない。何しに出て来たのじゃ。」
手応えのない戦となり、長野業盛は今後のことを考えはじめていた。
そんな時に
「佐野軍、敗走いたします。」と注進が入った。
(なんと手応えのない、この機会に戦力を削っておくか)
「全軍追撃に入れ。」
通常、野戦では双方、大きな被害は出ず、被害が大きくなるのは、追撃戦の時、逃げる側が圧倒的に不利なのだ。
伝令を出した業盛自身真っ先に追撃に入って戦果を確かなものにしようとしていた。
その後…
「長野殿は先頭にて追撃を進めていたところ、佐野軍が予め伏せてあった伏兵2,000にて防戦虚しく、討ち死にいたしました。」
「まさか、業盛殿が討ち死にするとは…」
「現在、長野家中では今後どうするか検討していますが、後継者がいないため、お家存続の危機となっております。」
「一先ず、隣国の太田殿に国境へ援軍を送ってもらい、佐野殿への対処としている模様です。」
「太田殿より、援軍要請も来ております。火急の件ゆえ、援軍を送り申したが、上杉殿の方で対処して欲しいとの事。」
「それは道理である。すぐに援軍を送る、北条高広殿、御頼み申す。」
「かしこまった。」
「長野家中のことは斉藤殿に向かってもらい、対策を協議致す。」
「各々、まだ何か起こるやもしれん。十分に警戒をしておくようお願い申す」
この日の評定は済んだが、時をおかず、春日山にある大名より使者が到着する。
「珍しい客が来たものよ」
「御目通り、御礼申し上げます。」
真田家の使者として真田昌幸が来たのである。
若手ながら知勇兼備のものとして武田家では早くも頭角を表していると評判のものである。
「長野殿の件は、残念に思っております。」
「此度、御目通りを願いましたのは、沼田の地の割譲の件で来させてもらいました。
我が父は先代、親交のあった長野業正殿より真田へ沼田の地は任すと、ことづけられております。長野家中をまとめて、当家で統治したいと考えております。
信玄公へは転拠の願いを申したところ、随分反対され申したが、謙信公の判断に委ねると許可をいただきました。
此度は武田家の思惑でなく、真田家が長野殿との信義を守るためのお願いでござる。
どうか、よろしくお願い申します。」
「なるほど、武士の本懐といったところか、だが、武田の手のものに関東へ入られては、他のものへ示しがつかぬ。特に北条は黙ってはおらぬと思うが?」
「確かに謙信公の言われる通りでございます。
なので真田としまして、小名ではございますが、上杉家、北条家とそれぞれ臣従させていただくことは出来ないでしょうか?」
「なんと、真田は三国の大名に仕えるというのか?」
「はい、今まで通り武田家へは父が、上杉家へは私、昌幸が、北条家には、嫡男の信幸を質として預けます。」
「それでは親兄弟と戦うことになるが?」
「戦国の世なれば、家名を残すため小名の生き様とお受けいただきたい。」
「なるほど、天晴れ真田よ。面白い。長野の家中のものが納得するなら、沼田の地は真田に任せてみよう。」
こうして、長野家当主の討ち死により、此の地は真田がおさめていくことになる。
佐野からすれば長野家の弱体が期待されたが、嫌な相手が出てくることになるのである。
このことを評定にて話しをすると、北条高広は不満たらたらであった。
元々、北条高広は関東出身のため、此度の長野家の問題で、関東への割譲もあるのでは?と期待していただけに、肩透かしを食らったようなものだった。
「それにしても…関東はまだまだまとまることが難しいですな。」
宇佐美は今回の沙汰については少し懐疑的で、災いの元を招き入れたのでは?と考えていた。
「まだ、黒幕の姿が見えぬ。今回の関東騒乱は誰かが絵図を書いておる。
真田は別の思惑で入ってきたと思われる。今暫く、様子を見る」
「真田を中心に荒れるとお考えですな。では準備だけは怠らぬよう、備えておき申す。」
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