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第十三章 思いがけない王命

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「お父様……」

 私は、愕然とした。バルバラ様をなだめるのにお忙しくて、それどころでは無いと思っていたのに。するとお父様は、従僕たちに向かってこう告げた。

「お前たちが忠告してくれて、助かった。モニクを監視してくれ。明日、王宮からお迎えが来るまで、部屋からは一歩も出すな」

 かしこまりました、と頷くと、従僕たちは左右から私の腕を取った。モーリスが、気色ばむ。

「お前たち!」
「モーリスさん。悪いけど俺たち、薄給にはもううんざりなんですよね」

 従僕の一人が、ため息をつきながら言う。

「王太子妃を輩出した家となったら、待遇も良くなるでしょ。てなわけで、モニクお嬢様には、何としても王太子殿下に嫁いでいただかないといけないんです」

 私が家出しようとしていることに感付いて、お父様をそそのかしたのは、どうやら彼ららしかった。確かに、給料が安いのは事実だけれど。それは、お父様の領地経営の下手さと、バルバラ様やローズの浪費のせいなのに……。

「お前たちは、お嬢様の幸せを考えないのか!」

 モーリスが、声を荒らげる。

「大体……」
「モーリス」

 お父様は、モーリスの言葉をさえぎった。冷ややかな眼差しで、彼を見すえる。

「いい機会だ、ついでに言おう。お前はクビだ。そして、コレットも」

(何ですって……!?)

 私は、耳を疑った。雇われたばかりのコレットはともかく、モーリスは、代々サリアン伯爵家に仕える、執事の家の出だというのに……。

「お前の小言には、正直うんざりしていてね。王太子妃の実家となれば、良い執事は今後いくらでも雇える。さあ、わかったなら荷物をまとめて出て行け。コレットもだぞ」

 モーリスが、呆然と立ち尽くす。私は、従僕の一人が薄笑いを浮かべているのに気付いた。どうやら執事の座を狙っているらしく、機会あるごとにお父様に取り入っている男だ。私は、カッとなった。

「お父様! 私のことはともかく、モーリスのことは考え直してくださいませ! 彼は、心底このサリアン家のことを思って……」
「黙れ」

 お父様が、苛立たしげにわめく。

「お前はとにかく、明日の迎えに備えて支度していろ! ……まったく、本当に家出を企むとは。お前がそこまでふしだらな娘とは、思わなかった!」

 言いたいことだけ言い捨てると、お父様は踵を返して去って行ったのだった。
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