上 下
151 / 240
第十三章 思いがけない王命

13

しおりを挟む
「モーリス……!? 本気で……?」

 ええ、とモーリスは真剣な顔で頷いた。

「アルベール様のお父上は、国王陛下のご親戚です。陛下がそのことをお知りになったところで、アルベール様に非情な仕打ちはなさりますまい」
「……でも」

 私は、ためらった。

「アルベール様はご処分を免れたとしても、サリアン家が見逃してもらえるとは思えないわ。陛下や王太子殿下をコケにして、お父様は一体どんな目に遭わされることか……」

 それを聞いてコレットは、目をつり上げた。

「この期に及んで、旦那様のご心配ですか?」
「そりゃ、そうよ。それに、お父様がご不興を買えば、バルバラ様やローズだって路頭に迷うかもしれない。あなたたち、使用人もよ。そんな大勢の人を犠牲にするなんて、私には……」
「モニク様!」

 コレットは、身を乗り出した。

「よく、思い出してくださいまし。モニク様が殺人の嫌疑をかけられた時、旦那様やバルバラ様、ローズ様は、信じてくださらなかったではないですか。いつもモニク様のために尽力してきたアルベールよりも、そんな彼らを選ぶというのですか? アルベールとサリアン家、モニク様にとって大切なのは、一体どちらなのです!」 

 私は、思わず絶句した。モーリスも、頷く。

「サリアン家を思ってくださるお嬢様のお気持ちもわかりますが、もう少しご自分のご希望を仰ってもいいと思いますよ。あの殺人と記憶喪失事件以来、お嬢様は自己主張ができるようになられたと、私は喜ばしく思っていました。また、元通りになられるのですか?」

 私は、ハッとした。その通りだ。前世で命を落とす直前、私は誓ったではないか。

 ――生まれ変わったら、今度こそちゃんと自己主張する……。

 私の背中を押すように、モーリスが付け加える。

「そして使用人たちのことなら、ご心配無く。彼らの今後は、私が責任を持ってどうにかいたします」
「モーリス……」

 私は、思わず彼の手を取った。

「ありがとう、本当に……」
「よし、では早速、準備しましょう!」

 コレットが、勢い込む。

「必要な物は、後でお届けしますから。モニク様は、とにかく早く屋敷を出られた方がいいです」
「わかったわ」

 私は、お母様の形見のブローチと、アルベール様からいただいた指輪と香水、そして最低限の着替えを準備した。コレットが、コンパクトな荷物にまとめてくれる。廊下に人気が無いのを確認して、私たち三人は、部屋を出て玄関へと向かった。

「辻馬車を拾いましょう。私も、一緒に付いて……」

 だが、そんなコレットの言葉は、途中で止まった。私たちの前に、お父様と数人の従僕が立ちはだかったのだ。

「どこへ行く気だ? まさか、アルベール様の所じゃあるまいな」

 お父様は、険しい表情で仰った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,218pt お気に入り:2,375

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,635pt お気に入り:58

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:27,327pt お気に入り:11,875

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:979pt お気に入り:15

処理中です...