《完結》王太子妃、毒薬飲まされ人生変わりました。

ぜらちん黒糖

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第一章

②王太子妃、憑依する

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​「間違いないのか?」

​絞り出すようなトムスの声が、暗く沈んだ部屋に響いた。

​「ええ、間違いありません」
​医師は沈痛な面持ちで答えた。

​「先生、妻を助けて下さい!お願いします!」
​トムスは医師の白衣の肩を掴み、必死に懇願する。

その力ない姿に、ヘレンは一瞬、彼への疑惑を忘れた。

​「トムス様、全力を尽くします」
​医師は静かにそう答え、数人のメイド以外は部屋を退出させられた。

​ベッドの傍に幽体として立つヘレンは、自分の体が懸命に治療されているのを呆然と見つめる。

​(私が毒を飲まされた……?)
​(一体誰に?)
​(私はなぜ毒を飲まされたの?どうやって毒を飲まされたの?)

​混乱と恐怖の中、ヘレンの心には一つの確固たる感情が湧き上がった。

ベッドに横たわる自分を見つめ悔しさが募る。

​(誰がこんな酷いことをしたの?誰が……)

​翌日、国王陛下と王妃陛下がお見舞いに来てくれた。ヘレンの意識のない姿を見て、彼らは心から涙を流してくれた。

その深い優しさに、ヘレンは王家への信頼を新たにする。

​両陛下がお帰りになったあと、可愛い妹のローズも駆けつけてくれた。

​ヘレンは自分の体が横たわっているベッドの側に立って、ローズを見つめた。

​ローズは優しくヘレンの髪の毛を手ぐしで整えてくれている。子供の頃から「お姉様、お姉様」とヘレンの後ろを付いて来る大人しい女の子だった。

​ローズはヘレンの顔を暫くの間見つめていたが、最後にヘレンの体をしっかりとハグした。その光景がヘレンの気持ちを温かくさせる。

​(ローズ、来てくれてありがとう)

​ヘレンは声をかけたが、ローズは振り返ることなくそのまま出て行った。

​それから、ヘレンは丸一日、部屋の中をウロウロしながら犯人について、そしてこの奇妙な状態について考え続けた。

​その時、一人のメイドが部屋に入ってきた。ヘレンのおむつ交換に来たようだ。

​ヘレンは恥ずかしくて自分の体を見ることができなかった。だが、メイドは一人で手際よく交換を済ませていく。

​(そう言えばおむつ交換はずっと同じメイドね……ああ、そうか。他のメイドはやりたがらないのかもしれない)

​(このメイドの名前は……マリー、マリーだったわ)

​感謝を込めて、ヘレンは部屋を出て行こうとしているマリーに声をかけた。

​(ありがとう、マリー)

​その瞬間、マリーがぴたりと足を止めおそるおそる振り向いた。

​「ヘレン様……?」

​マリーはベッドの上のヘレンを見て、首を横に振った。
​「……気のせいよね、やっぱり」

​ヘレンはマリーの態度に焦る。

​(マリー、聞こえているの? まさか……マリー、聞こえているの?)

​そう叫びながら、ヘレンが透明な両手をマリーに伸ばし、すがりつこうとしたその瞬間、​ヘレンの体が温かい感覚に包まれた。

​数秒後、その感覚は収まり、ヘレンはゆっくりとまぶたを開けた。

​目の前には、白く塗られた部屋の壁があった。自分の手を見る。それは、ヘレンにとって見覚えのある手ではなく、日焼けした手だった。

​ヘレンはハッとして、すぐに壁にかかっている鏡を見た。そこに映っていたのは、疲れた表情をしたメイドのマリーだった。

​「やっぱり……私、マリーになってる」

​自分の声が、マリーの甲高い声になっていることに気づき、ヘレンは息を飲む。

​(この体が、私のものに……。私はマリーの意識を乗っ取ってしまったの?)

​ヘレンは神経を集中し、マリーの潜在意識を探った。すると、マリーの意識は、窓のない小さな部屋に閉じ込められ、うずくまり不安そうにしているのが見えた。

​(マリー……)

​王太子妃の華奢な体とは違う、メイドとして働くために鍛えられた、粗野で力強い筋肉の感触。

​ヘレンは、新たな「目と体」を手に入れた。

​そして、自分がなぜ毒を飲まされたのか真実を見つけるために、マリー(ヘレン)は王太子妃の部屋から静かに出て行った。


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