《完結》人生を生き直し、恋に落ちる。

ぜらちん黒糖

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第二章 

⑤オーディション

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金五郎は今、テレビ局の会議室の前の廊下に立っていた。いよいよオーディションが始まるのだ。

二階堂沙知絵から紹介されたこのオーディションに背水の陣で臨んでいる。

緊張しながら待っているとドアが開いて女性が現れ中へ入るように言われた。

金五郎が中に入るとサングラスをかけスーツ姿でオールバックの男性が机に肘をついて指を組みじっと金五郎が入ってくるのを見つめていた。

演出家の柴倉さんだ。

「よく来てくれたね、君が砂袋金五郎さんだね?」

「砂袋金五郎です。よろしくお願いします」

「では早速だけど、台本の18ページ、3行目からの権堂のセリフ言ってみてくれる?」

金五郎は頭の中で台本をめくり、セリフを見つける。

スナックのオカマママさんのセリフだ。

金五郎は緊張の中、演技を始める。

「やぁだぁ~~お客さん、もう酔ってるのぉ~~?」

セリフはそれだけだった。

「それじゃ、23ページの頭からやってもらえる?」

柴倉はアシスタントの女性(先程金五郎を中に招いてくれた人)に金五郎の相手をするように言った。

「じゃ、始めてくれる?」

金五郎が口を開く。今度は殺し屋の役だった。台本を見るとト書きはなかった。

「動くな、動くとお前の命は保証できないぜ」

「分かったわ、でもどうして私が狙われるの?」

「それ以上口を開くな、次、俺の許可なく喋ったらお前を殺す」

「……」

「いい子だ、では質問だ。隠し金庫の鍵はどこにあるんだ?」

答えない女。

殺し屋が囁くように言った。

「お前の体に聞いても……いいんだぜ」

「カット!」

演出家が女性に指示を出す。

「山上くん、君、椅子に座って紐で縛られているつもりで演技してくれるか?」

「はい」

女性はすぐに椅子を持ってきて座り両手を後ろに持っていく。

「良し!では演技をして下さい、砂袋さん」

(演技?自由にやれということか?)

金五郎が椅子に座った女性にセリフをかける。

「動くな、動くとお前の命は保証できないぜ」

「分かったわ、でもどうして私が狙われるの?」

金五郎はねちっこい目つきで女の肩に両手を置くと、耳元で囁くように言った。

「それ以上口を開くな、次、俺の許可なく喋ったら……お、ま、え、を殺す」

女が黙る。金五郎の演技が乗ってくる。

「いい子だ、では質問だ、隠し金庫の鍵はどこにあるんだ?」

答えない女。金五郎は左腕をゆっくりと女の顎下に通すと絞め上げたまま、

「お前の体に聞いても……いいんだぜ」

そう言って右手で軽く女の胸をさする真似をした。

「カット!」

演出家の柴倉が満足そうに言った。

「君には、スナックのオカマのママの役をやってもらおうかなと思っていたけど、殺し屋がいいかもね」

演出家の反応の良さにホッとする金五郎。

「まだ残りのオーディションがあるから確約はできないけど、必ず君の役を見つけるから」

「ありがとうございます」金五郎は頭を下げた。

「じゃあ、今日はご苦労さんだったね、追って連絡するから」

そう言って部屋を出ていった。

女性が声をかけてきた。

「お疲れ様でした、砂袋さん」

「お疲れ様です。あ、俺はもう帰っていいんでしょうか?」

「はい、構いませんよ」

「あ、私、山上りこと言います。よろしくお願いしますね」

「あ、はい、こちらこそ」

部屋を出て廊下で左と右に別れることになった二人。別れ間際に山上が言った。

「砂袋さんの演技って、なんかゾクゾクします」

「え?」

「じゃ、これで失礼します」

山上は右に曲がって行った。残された砂袋はふと考える。

「ゾクゾクって……いやらしいってことかな……」

金五郎が一階玄関フロアに行くと二階堂沙知絵が待っていた。

「どうでしたか?」

「うん、まあ感触は良かったけど、でもオーディションってあんなにすぐ終わるものなの?」

「柴倉さんは、砂袋さんの演技力を確かめたかっただけだと思います」

「俺の演技力を?俺に演技力なんてあるのかな……」自信なさげに言う金五郎に沙知絵が答える。

「何言ってるんですか、舞台で演技をしていた人が」

「まあ、それはそうだが」

「山村の医者の役、素晴らしかったですよ?」

ニッコリと笑う金五郎。
「そう?ありがとう、あれ、頑張ったんだよ、俺」

そこへ沙知絵のマネージャーが現れ呼びにきた。

「じゃ金五郎さん、またね、頑張って下さいね」

「ああ、頑張るよ」

二階堂沙知絵は玄関前に止めてある車に乗り込んで姿を消した。

「そうか、山村の医者の役、素晴らしかったか……ん?この役って……四、五年前の舞台だったはずだが……」

金五郎は、二階堂沙知絵が、その頃にはすでに自分を見つけて、陰ながら見守っていてくれたことに気づく。

「うちの劇団の舞台を見に来てくれてたんだ……あの子」

金五郎の胸に熱いものが込み上げてくるのと同時に目頭も熱くなる。

「くそっ、年のせいか、涙もろくなっていけねえ」

金五郎は涙を手で拭きながら、玄関出口へ向かって歩いて行った。
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