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①相席の代償
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会社の帰り道、西山幸彦(28)は昼休憩の時に、後輩の佐藤から聞かされた怪談話を思い出していた。
幽霊になった若い女が、成仏できずに人間界を彷徨っていた。誰に話しかけても見向きもされず、誰も自分に気づいてくれない。そんな時に一人だけ自分に気がついた男がいた。だからその男に近づいてもっと話がしたくてその男の前に現れたのだが、男は女の幽霊を間近で見て恐怖でショック死してしまった。
そんな話を後輩の佐藤から聞かされていた。
(もしも、目の前に現れた女の幽霊が、美人だったら?男の勝手な思い込みで、相手がとても怖い幽霊だと決めつけていなかったら?)
(そうすれば男は死なずに済んだかもしれない)
腕時計を見るとまだ夕方の6時前で、しかも明日は土曜日で会社は休みだ。
西山は駅へ向かっていたが、行き先を変えた。晩飯を食べて帰ることにしたのだ。目に入った大衆食堂に入ることにした。
かなり年季の入った店で、建物は外壁がかなり汚れていた。しかし中へ入ってみると古びてはいたが清潔な感じがした。
西山は狭い店内の入り口の席に座り、メニュー表を眺めて即決する。
「親子丼とビールください」
「あいよ」
店の主人が元気よく返事をした。
先に瓶ビールとグラスが並べられ、西山はすぐにグラスに注ぎ、口にした。
「ぷはぁ」(美味い!)
ビールを飲んでいるうちに親子丼が運ばれ、西山は食べ始める。
そのうち夕食時のせいか、店が混み始める。西山は気にせず食べていたのだが、その時、女に声をかけられる。
「すみません、相席よろしいですか?」
「え?」
顔を上げてみると年の頃25歳くらいの女が立っていて、店内を見てみるとどこも席が埋まっていた。
「あ、はい、どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
西山に礼を言うと、女は店の主人に声をかける。
「あのう、唐揚げ定食ください」
「あいよ、ちょっと時間かかるけどいい?」
「はい、お願いします」
「はいよ」
西山はできるだけ女を気にしない素振りをして食べ続けた。自分の咀嚼音にも気をつけて、できる限り音がしないように注意をした。
親子丼を食べ終わり、後はビールを飲み干すのみとなったのだが、心のなかで(ビールを頼むんじゃなかった)と後悔していた。
目の前に若い女が座るとは思ってもいなかったので、なんだかビールが飲みにくい。女の視線を気にしながらビールを飲んでいると彼女の唐揚げ定食が届いた。
すると、女が突然声をかけてきた。
「よろしかったら、唐揚げ一つ、召し上がりませんか?」
「え?」
「私のせいでゆっくりビールを飲めなくなったでしょ?」
「コホン、あ、いえ、そんなことはないですよ、本当に」
「ここの唐揚げとっても美味しいんです。ビールと合いますから」
西山は女の顔を見つめ、心なしか胸がときめいた。
(よく見ると可愛いな)
それは、スケベ心に負けた西山が警戒心を解いて気を緩めた瞬間だった。
「あ、では一つだけ」西山は図々しいと思いながらも、唐揚げを一つ割り箸でつまんだ。
女は西山が食べるのをじっと見ていた。女の視線を感じながら一口かじってみた。
「あ、美味い」
女はにっこり笑って「ね?私の言った通りでしょ?」
微笑んだ女の顔を見て西山の心臓は激しく波打った。
(俺の……タイプかもしれない)
その後、女もビールを頼み、そしておつまみも追加注文したりして、会話が弾み意気投合する。
「ねえ、これからどこかで飲み直さない?」
「え?いいねぇ、それ、うん」
明日は、会社も休みというのもあったが、西山はすっかり気が緩んでいた。
西山が伝票に手を伸ばした瞬間、先に伝票を取った女がテーブルの上に錠剤を一錠差し出した。
「これ、酔い止めの薬なの。私はもう飲んだけど、西山さんも飲んでおいたら?酔いが回って寝ちゃったらもったいないでしょ?お会計は私が払いますから、このお薬飲んでおいてね」
そう言ってレジのところでお金を払い始めた。
女は西山がなんの警戒もせず、薬を飲んでいるところをじっと見つめていた。
幽霊になった若い女が、成仏できずに人間界を彷徨っていた。誰に話しかけても見向きもされず、誰も自分に気づいてくれない。そんな時に一人だけ自分に気がついた男がいた。だからその男に近づいてもっと話がしたくてその男の前に現れたのだが、男は女の幽霊を間近で見て恐怖でショック死してしまった。
そんな話を後輩の佐藤から聞かされていた。
(もしも、目の前に現れた女の幽霊が、美人だったら?男の勝手な思い込みで、相手がとても怖い幽霊だと決めつけていなかったら?)
(そうすれば男は死なずに済んだかもしれない)
腕時計を見るとまだ夕方の6時前で、しかも明日は土曜日で会社は休みだ。
西山は駅へ向かっていたが、行き先を変えた。晩飯を食べて帰ることにしたのだ。目に入った大衆食堂に入ることにした。
かなり年季の入った店で、建物は外壁がかなり汚れていた。しかし中へ入ってみると古びてはいたが清潔な感じがした。
西山は狭い店内の入り口の席に座り、メニュー表を眺めて即決する。
「親子丼とビールください」
「あいよ」
店の主人が元気よく返事をした。
先に瓶ビールとグラスが並べられ、西山はすぐにグラスに注ぎ、口にした。
「ぷはぁ」(美味い!)
ビールを飲んでいるうちに親子丼が運ばれ、西山は食べ始める。
そのうち夕食時のせいか、店が混み始める。西山は気にせず食べていたのだが、その時、女に声をかけられる。
「すみません、相席よろしいですか?」
「え?」
顔を上げてみると年の頃25歳くらいの女が立っていて、店内を見てみるとどこも席が埋まっていた。
「あ、はい、どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
西山に礼を言うと、女は店の主人に声をかける。
「あのう、唐揚げ定食ください」
「あいよ、ちょっと時間かかるけどいい?」
「はい、お願いします」
「はいよ」
西山はできるだけ女を気にしない素振りをして食べ続けた。自分の咀嚼音にも気をつけて、できる限り音がしないように注意をした。
親子丼を食べ終わり、後はビールを飲み干すのみとなったのだが、心のなかで(ビールを頼むんじゃなかった)と後悔していた。
目の前に若い女が座るとは思ってもいなかったので、なんだかビールが飲みにくい。女の視線を気にしながらビールを飲んでいると彼女の唐揚げ定食が届いた。
すると、女が突然声をかけてきた。
「よろしかったら、唐揚げ一つ、召し上がりませんか?」
「え?」
「私のせいでゆっくりビールを飲めなくなったでしょ?」
「コホン、あ、いえ、そんなことはないですよ、本当に」
「ここの唐揚げとっても美味しいんです。ビールと合いますから」
西山は女の顔を見つめ、心なしか胸がときめいた。
(よく見ると可愛いな)
それは、スケベ心に負けた西山が警戒心を解いて気を緩めた瞬間だった。
「あ、では一つだけ」西山は図々しいと思いながらも、唐揚げを一つ割り箸でつまんだ。
女は西山が食べるのをじっと見ていた。女の視線を感じながら一口かじってみた。
「あ、美味い」
女はにっこり笑って「ね?私の言った通りでしょ?」
微笑んだ女の顔を見て西山の心臓は激しく波打った。
(俺の……タイプかもしれない)
その後、女もビールを頼み、そしておつまみも追加注文したりして、会話が弾み意気投合する。
「ねえ、これからどこかで飲み直さない?」
「え?いいねぇ、それ、うん」
明日は、会社も休みというのもあったが、西山はすっかり気が緩んでいた。
西山が伝票に手を伸ばした瞬間、先に伝票を取った女がテーブルの上に錠剤を一錠差し出した。
「これ、酔い止めの薬なの。私はもう飲んだけど、西山さんも飲んでおいたら?酔いが回って寝ちゃったらもったいないでしょ?お会計は私が払いますから、このお薬飲んでおいてね」
そう言ってレジのところでお金を払い始めた。
女は西山がなんの警戒もせず、薬を飲んでいるところをじっと見つめていた。
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