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②スマホの中の愛
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西山が朝、目覚めるとふかふかのベッドの上で横になり、隣には昨日の女が裸で眠っていた。
(え?ここは……ホテル……じゃない。……彼女の部屋なのか?)
西山は記憶を辿ってみたが、よく思い出せない。店を出てしばらく一緒に歩いていたのは覚えているが…。しかしこの状況を見て、これは……やってしまったかもしれない、そう思った。
西山は女の顔を覗き込んだ。
(!……誰だ?いや、なんとなくだが相席の女性の面影がある)
女は化粧が落ちていて、お店の中で見ていた可愛らしい顔ではなかった。
(まずい、俺のタイプじゃない)
西山はそのまま姿を消すことにした。静かにベッドから出ると、そっと着替えを済ませ、時々眠っている彼女を見ながら、荷物を手に取ると、ゆっくりと玄関へ向かった。
その時、目覚めた女に声をかけられた。
「帰るの?幸彦さん」
下の名前を呼ばれて驚く西山だったが、冷静を装って返事をした。
「ああ、用事を思い出したからね。起こしてしまったようで悪かった。それじゃあ 失礼するよ」
忍び足で音を立てないように、靴を履いてドアを開けた時、また声が聞こえた。
「また今度ね」
(いや、もう会うことはないよ)
そう思いながら、返事をせず外へ出た。
玄関前で一応、忘れ物はないか、カバンの中、上着やズボンのポケットの中を確認した。
「大丈夫だ、スマホも財布も全部ある」
通りの道に出て建物を振り返り、西山が見上げてみると、寝ていたはずの女が、三階のベランダからバスローブを着込んだ姿で、西山に手を振っていた。
西山はぎこちなく手を振り返し、そのまま早足に立ち去った。
❖
それから三ヶ月が経った頃、西山の会社に新入社員が入ってきた。
朝礼で課長が社員に紹介をする。
「本日から勤務することになった梅沢結菜さんだ。じゃあ、自己紹介してください」
「はい。えー、本日から働くことになりました梅沢結菜です。私は、このビルの他のフロアの会社に在職していました。たまたまこちらの求人が目について、お給料も良かったので、思い切って転職しました。よろしくお願いします」
お辞儀をした結菜は、顔を上げると西山を見つめて微笑んだ。固まったように動かない西山。
(今確かに、俺の方を見て、彼女、微笑んだよな。やっぱりあの時の女か?似ている気はするけど……)
課長が大きな声で西山を呼んだ。
「西山さん、彼女の指導係頼むよ」
突然の指名に、少し返事が遅れてしまう西山。
「は、はい」
そんな西山の目の前に梅沢結菜が立っていた。
結菜は西山に小さな声で囁いた。
「またお会いできましたね、西山さん」
(あ~、やっぱりか……)
「そ、そうだね、久しぶり、元気だった?」
結菜はにっこりと笑って西山の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「はい、母子共々健康です」
「はあ?」
西山が一歩下がり改めて結菜を見ると、彼女はお腹を右手で擦っていた。
(え?ええっ!)
西山幸彦に、恐怖の時間が始まろうとしていた。
(え?ここは……ホテル……じゃない。……彼女の部屋なのか?)
西山は記憶を辿ってみたが、よく思い出せない。店を出てしばらく一緒に歩いていたのは覚えているが…。しかしこの状況を見て、これは……やってしまったかもしれない、そう思った。
西山は女の顔を覗き込んだ。
(!……誰だ?いや、なんとなくだが相席の女性の面影がある)
女は化粧が落ちていて、お店の中で見ていた可愛らしい顔ではなかった。
(まずい、俺のタイプじゃない)
西山はそのまま姿を消すことにした。静かにベッドから出ると、そっと着替えを済ませ、時々眠っている彼女を見ながら、荷物を手に取ると、ゆっくりと玄関へ向かった。
その時、目覚めた女に声をかけられた。
「帰るの?幸彦さん」
下の名前を呼ばれて驚く西山だったが、冷静を装って返事をした。
「ああ、用事を思い出したからね。起こしてしまったようで悪かった。それじゃあ 失礼するよ」
忍び足で音を立てないように、靴を履いてドアを開けた時、また声が聞こえた。
「また今度ね」
(いや、もう会うことはないよ)
そう思いながら、返事をせず外へ出た。
玄関前で一応、忘れ物はないか、カバンの中、上着やズボンのポケットの中を確認した。
「大丈夫だ、スマホも財布も全部ある」
通りの道に出て建物を振り返り、西山が見上げてみると、寝ていたはずの女が、三階のベランダからバスローブを着込んだ姿で、西山に手を振っていた。
西山はぎこちなく手を振り返し、そのまま早足に立ち去った。
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それから三ヶ月が経った頃、西山の会社に新入社員が入ってきた。
朝礼で課長が社員に紹介をする。
「本日から勤務することになった梅沢結菜さんだ。じゃあ、自己紹介してください」
「はい。えー、本日から働くことになりました梅沢結菜です。私は、このビルの他のフロアの会社に在職していました。たまたまこちらの求人が目について、お給料も良かったので、思い切って転職しました。よろしくお願いします」
お辞儀をした結菜は、顔を上げると西山を見つめて微笑んだ。固まったように動かない西山。
(今確かに、俺の方を見て、彼女、微笑んだよな。やっぱりあの時の女か?似ている気はするけど……)
課長が大きな声で西山を呼んだ。
「西山さん、彼女の指導係頼むよ」
突然の指名に、少し返事が遅れてしまう西山。
「は、はい」
そんな西山の目の前に梅沢結菜が立っていた。
結菜は西山に小さな声で囁いた。
「またお会いできましたね、西山さん」
(あ~、やっぱりか……)
「そ、そうだね、久しぶり、元気だった?」
結菜はにっこりと笑って西山の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「はい、母子共々健康です」
「はあ?」
西山が一歩下がり改めて結菜を見ると、彼女はお腹を右手で擦っていた。
(え?ええっ!)
西山幸彦に、恐怖の時間が始まろうとしていた。
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