《完結》異常な女に好かれた男

ぜらちん黒糖

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⑦新たな危機

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満里奈が西山の前を素通りすると、小さく西山が怯える。

満里奈は冷蔵庫を開けると、自分の分の缶ビールと、きゅうりの漬物を取り出し、お箸を持つと西山の目の前のテーブルに並べた。

「どうぞ」
満里奈が低い声で勧めた。

「あの、葉山さん、俺、今日はやっぱり、ネカフェかビジネスホテルに泊まるよ」
そう言って西山は立ち上がろうとしたが、満里奈が西山の膝を押さえた。足に力が入らず立ち上がれなかった西山が満里奈の顔を見た。

「あの……」

動揺する西山の隣に満里奈が座った。

西山は恐る恐る横を向いて、満里奈の横顔を見た。長い髪のせいで満里奈の横顔は見えなかったが、言いしれぬ不安が西山を襲う。

「西山さん」突然、満里奈が口を開いた。

「はい」すぐに返事をする西山。

「佐藤君から聞いたことあるでしょう?怪談話」

「え?あ、うん」

西山は必死に記憶を遡る。結菜とのことがあってすっかり忘れていたが、断片的に思い出した。

「多分。それが、どうかした?」

「あの話はね、少しだけ違うの」

西山は、ただでさえ満里奈の雰囲気が怖くなっているのに、その上、幽霊の話をしようとする彼女を止めようと口を挟む。

「あの、今、そんな話はやめようよ。そんなことより、結菜をどうするか助言をくれないかな?」

無表情で無言のまま、満里奈はきゅうりの漬物にお箸を突き立てた。

ドスッ!

「ヒッ!」思わず悲鳴を上げて両手で口を押さえる西山。

「あ、葉山さん、どうぞ、続けて」

満里奈が話し始めた。

「私は、子供の頃から地味な女で、全く男の子からは人気がなかった」

「年頃になっても、誰も見向きもしてくれなかった」

「そんな私が社会人になって、初めて人を好きになった」

「私は勇気を振り絞り、その人に告白をした」

「だけど、その人は、私を嘲笑うかのように拒否して、挙句に、その理由を述べた」

「勘違いしないでくれ、君に親切にしたのは、仕事のためだ。業務をこなすためには協調が大事だからだ。だから俺と君との間に恋愛感情は持ち込まないでくれ」

「さらに、そう言って立ち去る前にこう言われた」

「君は俺のタイプじゃない。どちらかというと、君は気持ち悪い」

そのセリフをよく使っている西山は、ぎくりとする。

「彼はそのまま私を置いて立ち去った」

ピシッ……と、乾いた音が響いた。西山が視線を落とすと、テーブルの上で漬物の皿が真っ二つに割れていた。満里奈がもう一本のお箸を突き立てていたのだ。

恐怖で声の出ない西山に、満里奈が奈落の底から絞り出すような悲しい声で、思い出すように話した。

「佐藤君に怪談話を教えたのは私なのよ」

満里奈は突き刺したきゅうりの漬物を口に入れて、咀嚼しながら西山に説明を始めた。

「佐藤君から聞いたわ。あなた、女の幽霊の心情を汲み取り、気持ちを分かってあげたらしいわね」

戸惑いながら返事をする西山。

「ど、どうかな。もうだいぶ前のことで覚えてないけど、そうだったのかな」

「誰にも見てもらえない女の幽霊の気持ちを、ただの怖い存在として見るのではなく、あなたは一人の女性として気持ちを代弁してくれた」

(いや、俺はそこまで考えて喋ったわけじゃないんだけど……)

「そんなあなただったら、きっと私のことも見てくれるんじゃないかと、そう思ったの」

(え?)

「私は、あなたのことが好き。誰にも女として見られたことのない私だけど、あなただったら私を受け入れてくれるんじゃないかと…」

突然、満里奈が西山にしなだれかかってきた。

「葉山さん?」

「西山さん、私を抱いて欲しいの」

「へ?」

そう言って満里奈の唇が西山の唇を塞いだ、その時、玄関のチャイムが鳴った。

ピンポーン

静まり返った部屋にチャイムが響く。

満里奈は西山に唇を重ねたまま身動きしなかった。ドアホンに出るつもりはないようだ。しかし……
チャイムは執拗になり始めた。

ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン

仕方なく満里奈はドアホンモニターの前に立った。モニターには結菜が映っていた。



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